54 休暇前に
リティに起こされて学園へ行き、放課後は図書館へ寄って、夕食はディーロ先輩に教わったり教わらなかったり。
そんな数日を過ごして、教養の単位認定試験が終わった。
テスト明けのこの解放感。どこでもいいから遊びに行きたくなる。
近日中に採点をしたテスト用紙は返却され、学園は長期休暇に入る。
この学園、休みが多いんだよね。別な国から来てる人も多いし、この世界じゃ俺くらいの歳なら家の仕事の手伝いくらいはやってるからあまり学園に拘束できないみたい。
それに属性魔法のレベル上げは個人でもできるから、学期ごとに違う呪文魔法を教えて、その後の長期休暇は自主練してもらうというのは効率がいいらしい。だからサボらず自主練しろよと教師が言っていた。
でもまあ、あと数日は授業がある。そうだ、今のうちに長期休暇の予定を確認しておこう。
「リティは休み中の予定あるの?」
「ウトレレに、戻ろうと思ってた。けど」
「けど?」
「こっちにも、工房ある……」
実家へ戻る理由はそれだけなのか……。
「両親に顔出さなくていいの?」
「ん、じゃあ、少し出してくる」
じゃあって。それでいいのか。
「ああでも、リティが居ない間はどうしようかなあ」
あの広いお家で一人。しかも授業は無く一日中暇。
……あ、やっべえ辛い。これは下手したら王城に通い詰めることになるぞ。交友関係が狭すぎた。
「アカリ、暇なの?」
「何もすること無いね」
「一緒に来る?」
「え、いいの?」
実家に帰るのに付いていっちゃっていいんすか? 流石に遠慮してたんだけど。
いいの? ホントに付いてっちゃうよ? 俺の遠慮なんて吹けば飛ぶ程度しかないよ? もう今のそよ風で飛んでっちゃったよ?
「だいじょうぶ」
「じゃあ、行きます」
長期休暇は国外旅行に決まり。
ああ、そういえばこの国以外に行くの初めてだな。そう考えるとちょっと楽しみだ。
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「なんでアカリさん、そんなに点数いいんですか。いっつも寝てるのに」
採点されたテストが戻ってきて、まず言われたのがこれだ。
「勉強したんだよ。ちゃんと勉強したほうがいいって言ってたのはカルテじゃないか」
「言いましたけど、まさかそれで学年トップになるとは思わないですよ。授業中寝てるのに」
成績は今朝廊下に貼り出されていた。いや、俺もまさかこんな結果になるとは思ってなかったけど。
どうやら教養と魔法の両方を合わせた成績みたいだけど、授業態度は評価に含まれてないっぽいな。じゃないと俺は寝ながらにして態度を評価されていることになる。
魔法実技はパパッと単位を取得したし、教養のテストに関しては義務教育を終えた俺なら特に苦労しなかった。日本の義務教育、休みまくってたけど。
「まあ、これで休みも楽しく過ごせるよ」
赤点だったらやばいからね。
「あの成績表、貴族の生徒も入ってるのに……」
「そういえば姫さまの名前もあったな」
姫さまは学年2位だった。俺と同じ速度で魔法実技をこなしていたし納得の順位だと思う。
「この際魔法はともかく、幼い頃から家で教育を受けてる貴族や王族を超えるなんて予想外ですよ」
とは言ってもな、教育は俺も受けてきたし。
でもそれを説明することもできないしなあ。ここは話題を変えるのが良さそうだ。
「カルテは長期休暇中どう過ごすの?」
「特に変わりありませんよ。寮ではなく実家で暮らすくらいです」
カルテの実家はイトラースにあるんだったな。
「俺は今度、リティとウトレレに行くんだ」
「ああ、リティさんはウトレレ出身でしたね」
「そう、俺も暇だからリティに付いていくの」
いつ行くのかはまだ詳しく決めていない。
暇人にとって、予定とは当日までに決めておけば十分なのだ。たとえ国外旅行だろうとも。
「本当二人は仲がいいですね。そういえば、いつ頃から一緒に居るんですか?」
「ん? そうだな、カルテと会うちょっと前くらいかなあ」
2か月くらいは経ったかな?
「え、割と最近じゃないですか。それで今は一緒に暮らしてるんですか?」
「そうだけど?」
「そ、そうなんですか……」
何か衝撃を受けているようだけど、時間は問題じゃないと思うんだ。うん。大切なのは今だよきっと。
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夕方、今日もディーロ先輩のお料理教室だ。
今日はシチュー。俺もここ最近の料理教室で包丁さばきがだいぶ様になってきたように思う。
ほら、思った傍から指切った。……全然ほら、じゃなかった。
「うわっ、だいぶ血が出てるよ」
「おっとと、すぐ治しますんで。ヒール的なやつで」
状態復元っと。この程度じゃ結晶の羽根は出てこない。
「もう、治せるからって油断しすぎじゃないかな? 刃物持ってるんだから気を付けてね?」
「はーい」
反省反省。
気を取り直して調理再開。切って炒めて鍋にポイ。
「そうだ、長期休暇の間は料理教室どうします?」
煮込んでる間、時間潰しも兼ねて訊ねる。
「あ、そうだね。僕は結構暇だけど、アカリ君は何かあるのかい?」
「いつかは決めてませんけど、そのうちウトレレに行こうと思ってました」
「西の国か。じゃあ料理はアカリ君が都合のいい日ということでいいかな。僕は大体、寮か学園の研究室に居ると思うから」
「分かりました……研究室ってどの部屋ですか?」
学園には学生が個別の研究ができるように幾つかの研究室を用意している。ディーロ先輩もどこかの研究室に所属しているみたいだけど、それ自体初耳だ。
「ああ、ごめんごめん。魔法陣のとこだよ」
ディーロ先輩は魔法陣の研究をしてるのか。俺も【範囲魔法】で魔法陣を使うし、魔法陣で知りたいことができたらディーロ先輩に訊いてみるのもいいかもしれない。
シチューが出来たので、リティを呼んで三人で夕飯を食べる。ディーロ先輩にもお礼として食べてってもらってる。お礼だから食費は俺持ち。
「――ん?」
何処かで、範囲の魔法陣が起動したのを感じた。恐らくダイキに渡した懐中時計だろう。
――【瞳の魔眼】、設置した媒体に視界を移す。
視界設置は使用中に俺の瞳の色が赤く変色する。それを隠すために左目を掌で覆う。
ダイキの持つ懐中時計へと視界を移した左目が、こっちを見て驚くフェルクディを捉える。媒体は眼球型だから、ダイキの懐中時計からいきなり目玉が現れたように見えたことだろう。
特に危機的状況には見えないけど、何かあったのかな?
「アカリ、どうしたの?」
「ダイキからの信号があって。ちょっと行ってくるね」
「勇者……エルフの森?」
「たぶんね。ディーロ先輩、俺ちょっと用事が出来たんで失礼します」
「うん? そう、それじゃあまたね」
食事の席を立って、自分の部屋に戻る。
外出に必要なものが入った(入れっぱなしとも言う)鞄を手に取って自分の周りに範囲を引く。
すると、部屋の扉を開けてリティが入ってきた。
「あれ、どうかした?」
「アカリ、危ないところ行く?」
「うーん、どうだろ。今はそんな危険そうには見えないし大丈夫だと思うよ」
「わたしも行く」
「え、リティも?」
「だめ?」
「駄目って言うか、いやでも、危ないかもしれないし」
ダイキが今居るところは恐らく、敵対勢力のすぐ近くだ。何があるか分からないし、あんまり気乗りしない。
「今、大丈夫って言った」
「言ったけど……」
リティは結構頑固なところがある。
というか、あんまり長い間待たせると魔法陣の魔力が切れる。ダイキは急ぎの用事で呼んだのかもしれないし、リティを説得する時間は無さそうだ。
「はあ、じゃあ入って。あ、その前に一応武器は持ってね」
「取りに行ってる間、居なくならない?」
「心配し過ぎだよ。じゃあほら、一緒にリティの部屋まで行くから」
そうして一旦リティの部屋まで荷物を取りに行ってから、俺たちはダイキの元へ転移した。
……あ、リティも来るってことはディーロ先輩、家に放置か。




