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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第三章 歯車を回す少年
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50 精霊の悪戯

 リティを呼びに工房へ入る。工房は広いし、作業中だった場合はノックしても聞こえないからノックしない。


「うわっ」


 中に入ると、緑の光が目の前を通った。驚いて思わずのけ反る。

 緑の光は素早く工房内を動き回っている。リティがそれを追いかけまわしていた。


「リティ、何してるの?」

「アカリ」


 声を掛けると、リティは追いかけるのを止めて立ち止まった。


「捕まえてる」

「あれのことを?」

「そう。精霊」


 え、あの緑のやつ精霊なの?

 ハンドボールくらいの光の玉だが、よく見てみると中に人のようなシルエットがぼんやりと見えた。


「へー、あれ精霊なんだ。……それで、なんで捕まえようとしてるの?」

「鍛冶、邪魔してくる」


 リティは少しだけむっつりとしながら答えた。邪魔されて機嫌が悪いのかもしれない。


 邪魔されるって、精霊に嫌われでもしてるのか?

 いや、確かリティは『風精霊の加護』を持っていた筈だ。加護を持っているのに嫌われてるということは考えにくい。あの精霊は色からして風精霊っぽいし。


 すると、精霊は立ち止まったリティに近づいて存在をアピールするようにリティの目の前でくるくると回り始めた。

 リティはムッとしながらも素早く手を伸ばして精霊を掴もうとする。が、あっさり避けられてまた追いかけっこを再開した。


 これは、むしろ逆か。

 好きな子にちょっかいを出す感じの。


 リティはあの精霊に懐かれているのだろう。鍛冶を邪魔されたというのは、ただの悪戯かな。

 特に危険があるわけでもなさそうなので、落ち着くまで様子を見ていることにした。



=====



 精霊が居なくなるまでリティが追いかけっこを続けてから、夕食を食べに来た。二人ともまともに料理ができないから毎度外食だ。


「あの精霊はなんで来たの?」

「たまに、邪魔しに来る」


 偶に来るのか。俺は精霊を初めて見たんだけど、リティはそれなりの頻度で見ているようだ。

 そういえばダイキも『雷精霊の加護』を持ってたな。ダイキも精霊に会ったことがあるのかな。


「あれって風精霊?」


 色だけで判断したけど、正解だったようでリティは頷いた。


「精霊って加護をくれたりするから、もっとありがたい感じだと思ってたよ」

「わたしも一応、加護がある」


 リティが加護を持ってるのを知っているのは、魔眼を使ってダイキの視界で鑑定したステータスを見たからだ。その事は教えてないから、リティにとっては俺が今初めて知ったことになる。

 取り敢えず合わせておこう。


「じゃあリティが持ってる加護って風精霊のだよな? でも、【風魔法】持ってないよね」


 授業も火属性を受けてたし。


「先に、【火魔法】を覚えたかった」

「ああ、風は適性があるからこそ後回しにしたわけね」


 属性魔法はきちんと習えば大体の人が一つは覚えれる。そして、習得している属性が多いほど他の属性が習得しにくくなる。同系列の属性はまた別だけど。

 となると、加護を持っていて十中八九習得できる【風魔法】は後回しにして、まっさらな状態でまず一つ他の属性を覚えるというのは確かに合理的だ。


「うん、風は今度」

「この間【火魔法】は単位取ったんだっけ」


 少し前にそう聞いた。それで自由実技の授業が自由参加になったから、工房に籠る時間が増えたようだった。ちなみに俺は自由実技には出たり出なかったりだ。

 そろそろ【水魔法】も単位取れそうなんだよね。単位が取れたら暫く自由実技に出る気は無い。


 夕飯を食べ終わったので家に帰り、交代で風呂に入ってから軽くスキルの熟練度上げをして、それから眠りについた。



=====



 次の日のお昼、久々に食べたくなったから寮の食堂に行ったらディーロ先輩と遭遇した。こっちも久し振りだ。

 料理を受け取ったら同じテーブルの席に座る。


「最近見なかったね」

「あー、俺引っ越したんですよ。言ってませんでしたっけ」

「そうなの?」


 言ってなかったか。

 それからは引っ越した事の話題が続いた。今住んでいる館についてや寮生活との違いなんかだ。


「一番不便なのは料理が出てこないところですかね。俺、料理できないんで」

「じゃあ立派な厨房を殆ど使ってないのかい? 勿体ないね」

「そのうち何とかしようとは思ってるんですけど」


 今チャレンジしても、ただ焦がすかマズイ飯をリティに提供してしまうことになるだろう。


「んー、なら、折角だし今度見せてもらってもいいかな? 貴族の館の設備が気になるんだ」

「ディーロ先輩は料理するんですか?」

「一時期嵌まってね。よかったら教えるよ」

「お、それは助かります」

「僕も寮に居ると料理する機会が無いからね。これも趣味の内だよ」


 という訳で、今度ディーロ先輩が家に来ることになった。ディーロ先輩は割としょっちゅう暇してるらしく、いつでもいいと言われたので、早速明日来てもらうことにした。これで我が家の食事事情が改善される筈。



=====



 翌日、授業が終わったらディーロ先輩と合流する。


「何も食材は無いんだよね? なら先に買い物をしよう」

「そうですね」


 ディーロ先輩に付いていって幾つかの店を回る。先輩は作るものをある程度決めているのか、迷うことなく買っていく。

 今日は取り敢えず、設備の確認も兼ねて一度厨房を使ってみたいということでディーロ先輩単独で作る。お料理教室はまた今度だ。


 材料代は俺が出そうと思ってたんだけど、今日は厨房を使いたいだけだからと断られた。まあ、今度からは俺が出すよ。

 買い物が終わり、我が家に到着。


「うわあ、結構広いねえ」

「お陰で部屋が余りまくってますよ」


 家の中に入り、早速厨房へ向かう。リティは……予想通り工房みたいだな。


「同居人が一人居るんですけど、今は工房に居るみたいです」

「二人だけで住んでいるの?」

「そうです」

「その割に掃除が行き届いてるね。大変じゃない?」


 いいえ、魔法でちょちょいです。


「慣れればそうでもないですよ」

「そう? それと、工房なんてあるんだね」

「前の住人の趣味だったらしいですよ」

「道楽貴族だったのかな?」

「さあ? でも、聞いた話によると相当優秀な人だったようです」

「あはは、じゃあ変わり者だったんだ」


 まあ、その貴族に館を魔改造されていたお陰で使われずに俺達に回って来たんだ。変わり者でも感謝はしてる。

 厨房に案内をして、本当なら設備の説明をしたいところだけど、俺は全く知らない。


「じゃあ、あとはお任せします。俺は使い方が分からない物もあるけど、自由に使ってくれて大丈夫ですから」

「分かったよ」


 完全に任せきりにして小一時間、料理が完成した。

 リティを呼んできて三人で食卓を囲む。


「なんか凄い豪華ですね」

「いやあ、なかなか見られない調理用魔道具なんかもあって面白かったよ。使いたいものだからついつい作り過ぎてしまったよ」


 メインやサラダといったものだけでなくデザートまで作ったようで、テーブルにずらりと並んでいる。盛り付けも凝っていてとても美味しそうだ。


 ……でも、これ食べきれないな。俺もリティも人並みにしか食べない。

 結局食べきれなかった分は、明日食べれるだけを残してディーロ先輩が持ち帰った。明日は朝から豪華な料理を食べることになる。

 館に冷蔵の魔道具があってよかった。

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