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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第一章 天涯孤独な新生児
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4 言い訳

 馬車を走らせ、ある程度盗賊から距離を取ったところで速度を緩める。


 俺はそこでようやく盗賊ゴリラへ掛けた魔眼を解除する。

 【瞳の魔眼】は発動中、少量だがずっと魔力を消費する。それでいて相手が強いほど消費魔力量が増えるみたいだから、さっきの戦いで残っていた魔力の殆どを使い果たした。


 にしてもあの盗賊ゴリラ強すぎだろ。目が見えてない状態であそこまでされるとは思わなかった。


「怪我、大丈夫?」


 隣に座っている怪力の女の子が声を掛けてくる。

 改めてみると本当小さい。ユユより少しだけ大きい程度で、11、2歳くらいかな?

 外見は肩にかかる程度の赤茶色の髪に碧の瞳で、他と比べて白い肌をしている。


「ああ、大丈夫」

「顔色悪いけど」

「かなり魔力を消費したからね。体はもう何ともないよ」


 そう言って微笑みかける。

 それでも女の子はまだ心配そうにしていた。


「しかし加勢してくれて助かりました。あなたが居なければ逃げ出すのも難しかったでしょう」


 今度はおっさんが声を掛けてくる。非戦闘3人のうちの馬車を操縦していない人だ。


「ああ、私は商人をしているベンテルと言います」

「アカリです。よろしく」

「リティ」


 女の子はリティという名前らしい。


「しかしどうしてあんなところに居たのですか? それにその恰好も」


 いきなり聞かれたくないことを。

 気になって当然か。でももう少し時間がほしい。まだ言い訳が思いついていない。


「まあちょっと、深い事情があって。取り敢えずそちらの状況を先に教えてもらってもいいですか?」


 THE・時間稼ぎ。


「ええ、分かりました」


 で、話を聞く。

 話によるとウトレレという国からイトラースという国へ行くためにこの国境トンネルを通り、盗賊へ襲われたとのこと。

 戦闘員のうち3人が護衛の冒険者、1人がトンネルの案内人で非戦闘員3人は全員商人で商売のため。リティはイトラースにある学園に行くためらしい。


「トンネル?」


 あの迷路みたいな洞窟が?ただの蟻の巣じゃないの?


「ええ、何年も前にアイアンアントの巣と繋がってしまい、今じゃ迷路トンネルとも呼ばれていますね」


 なるほど、俺が彷徨っていたのは蟻の巣部分で今通っているのが元々トンネルだった場所なのか。


「それにしても、あんな盗賊に襲われるとはついていませんでした。そんな話は聞いていなかったので最近居ついたばかりか、拠点を転々と変える盗賊だったのでしょう」


 そう言って状況説明を締めくくる。

 遂に俺のほうの説明に回ってくる。


 よし、大丈夫。ぎりぎり思いついた。


「じゃあ次に俺の話ですね。実は俺、あの盗賊に拉致されてそのまま監禁されていたんですよ」


 全部あいつらのせいにする。

 というかそうでも言わないと服の説明がつかない。


「どうも自身の怪我を治すスキルに目を付けられたみたいで、盗賊が留守の間に何とか抜け出してあそこまで行ったんです」


 見どころがなきゃ殺されているだろうから既に見せているスキルを理由に使う。魔眼は盗賊が知ってたら引っ掛からないだろうから消去法でこっちを。


「そうだったんですか」

「かわいそう」


 二人から思いっきり同情の視線を送られる。誤魔化す為に嘘を言っているだけだから罪悪感が凄い。

 でも本当のことは自分でも軽く意味が分からなくなるような理由だから、これで押し切るしかない。


「俺も元々はイトラースへ行くつもりだったんです。もし良かったらこのまま同行させてもらえませんか?」

「ええ、もうすぐ出口の筈ですし勿論構いませんよ」


 よし、これで遂に此処を出ることができる。

 ようやく陽の光を浴びれるぞ。


「イトラースへ向かうのはやはり学園に入学するためですか?」


 学園? リティの目的のところか。

 この世界だと俺やリティくらいの年齢だとみんな行ってるのかな。常識が無いから分からん。


「あー、どうでしょうね」


 つい、曖昧に答える。

 すると再び二人からの同情の視線が。

 ああ、俺の設定だと行くつもりだったけど行けなくなったとか、どうなるか分からないといったことがあり得るのか。

 身ぐるみ剝がされた設定だし。


「何か必要があれば私でよければ力になりますよ」

「わたしも、恩返しする」

「ありがとう、二人共」


 その後、違和感のない程度に軽く学園について聞いたりした。

 どうやら今いるところは大きな山にあるトンネルで、その巨山は東西南北にある四か国に囲まれている。

 東にある国イトラースには大きな学園があり、そこには他の国からも大勢入学しに来るとのこと。

 学園は魔法を学ぶための設備が揃っていて、余程貧乏だったりしない限り通うものらしい。


「属性魔法なんかは感覚によるところが大きいから、教える人の癖が移らないようきちんと講師から学んだほうが良いようですからね」


 それが学園に通う一番大きな理由とのこと。

 学園で学べば余程のことが無い限り属性魔法を一つは習得できるようだ。


 じゃあ俺も学園行ったほうが良いのかな。攻撃系のスキル無いし。

 ただ、入学金払えないんだよなあ。ああ、本当に行きたいのに行けない状態になっている。

 いっそ、二人に知恵を借りるか。


「俺今、見ての通り無一文なんですけど、何か入学する手段ないですかね?」

「うーん、優秀な者は授業料を免除する制度があったと思いますが、全額免除は余程じゃないと難しいでしょう。どっちみち入学金はある程度掛かりますし」

「その前に、お金ないと生活できない」


 言われてみれば、無一文じゃ学園以前に明日を生きることにも苦労しそうだ。


「その前に入国税が要りますね」

「……俺、入国すらできないじゃん」

「はは、それくらいお礼に出しますよ。命のお礼としては少ないかもしれませんが」

「いえ、助かります」


 その後はトンネルを抜けるまで金を稼ぐための話をすることになった。



=====



 国境トンネルを抜け、無事イトラースに入国を済ませる。

 俺の入国手続きは全部ベンテルさんがやってくれた。


 巨山を囲っている四国はそれぞれ山の麓から発展した国のため、山のすぐ近くが王都となっていて、国境トンネルを超えてすぐに王都へ辿り着く。

 イトラース王都へ着くと、皆がお礼にと服を買ってきてくれた。

 さっきまではボロボロな上にバッサリ斬られて血塗れになった服で、流石に外を出歩ける格好ではなかった。

 今の装備はシンプルな布のシャツとズボンと下着、何かの魔物の革で作られた靴と荷袋だ。


 その後は幾らかのお礼のお金を貰って、リティ以外とは別れた。

 馬車の中でいろいろ話した結果、リティが一緒に冒険者をやってお金を稼ぐというのを提案してくれた。

 リティは元々、入学するまでの間は冒険者ギルドに登録してお金を稼ぐ予定だったらしい。

 右も左も分からない俺にとっては、一緒に行動してくれるのは非常にありがたかったのでお願いすることにした。


 いや、ユユもここら辺は詳しくないらしくて、知ってる情報が少ないんだよ。

 洞窟さえ出ればユユに教わりながら何とかなると思ってたんだけど。


「ここが、冒険者ギルド」


 リティに案内されたそこは、途中で見掛けた宿屋を二軒繋げたくらいの大きな建物だった。


 中に入ると手前が受付と掲示板。奥が酒場となっている。

 リティは迷いなく受付へ進むので、俺も後ろからついていく。

 ちっちゃい子の後ろについていく今の俺は、周りからさぞかし情けなく映ることだろう。


「冒険者登録、お願いします」

「はい。後ろの方もご一緒に登録されますか?」

「あ、はい。お願いします」


 さぞかし情けなく映っていることだろう。


 いや、何も知らないもんだから下手に口を開けないし、それにリティが結構しっかり進めてくれるから任せたままで問題ないんだもん。

 リティは一度にそんなに喋らないけど口数自体はそこまで少なくないし、引っ込み思案だったりすることもない。

 最初は大人しい子だと思っていたけど、結構アクティブに行動するみたいだ。


「ではこちらの紙を記入してください」


 渡された紙を見て、やっぱり読めるんだなあと考える。

 今までそれどころじゃなくて忘れていたけど、言葉が普通に通じるんだよな。それに続いて文字も読める。

 まあ、考えたって分からないだろうし後でユユに訊けばいいか。

 紙に記入を始める。


 名前 アカリ・ユミツキ

 年齢 年齢? 俺の見た目は16歳程だけどステータスには0歳って書いてるんだよな。まあ、外見年齢でいいか。

 性別 男

 出身 洞窟。いや駄目か、これちょっと無理だな。国名をまだ二つしか知らない。空白でも大丈夫かな。

 主武器 今日使ったからナイフでいいか。


「はい。問題ありません」


 問題なかった。空欄もあったのに。


 ちなみにリティの用紙はこう書いていた。


 名前 リティ

 年齢 13

 性別 女

 出身 ウトレレ

 主武器 ハンマー


 年齢13歳だったんだ。11、2くらいだと思ってた。

 まあ、誤差の範囲だよな。

 ハンマーはあの怪力見た後だから納得。


 最後に血印をして冒険者登録は完了。その後、受付さんから冒険者についての説明を受ける。

 冒険者のランクはF~A、その上のSまであり、依頼は掲示板を見て受けるものを決める。

 討伐依頼などには適正ランクが依頼書に書かれており、そのランクより下のランクでは受けられない。

 ランクを上げるには、低いランクの場合はギルドが指定した昇級依頼を一定数達成すればいい。

 素材の買取は常時受け付けている。


 後は冒険者同士のパーティについてやマナーなどの細かいことなどを伝えられて説明が終わり、ギルドカードを受け取った。

 すぐにリティが俺とのパーティ申請をする。これをすれば依頼を共有できる。


「掲示板を確認して、明日依頼に行く」

「了解」


 短く言われると、こっちもついつい短く返事をしてしまうな。


 言われた通りに早速掲示板を見に行く。

 Fランクで受けられるのは薬草などの採取や雑用、雑魚魔物の討伐くらいだ。

 殆どが常駐依頼で、依頼品や討伐証明部位を持ってくれば自動で達成となる。

 Eランクに昇級するにはゴブリンを5匹討伐すればいいみたいだ。


 昇級するためにもゴブリンを狩るのが一番いいかな。

 Fランクの魔物だし、魔眼だけでも十分戦えるだろう。


「魔物を討伐するなら武器が要るな」


 盗賊のアジトで拝借したナイフは投げたからもう無い。

 リティもコクリと頷いて同意を示す。


「宿に行く途中で、武器屋に寄る」


 特に言ってなかったけど、宿も同じところに案内してくれるみたいだ。

 なんかすごい世話になってる。


 この恩は学園に入学した後でしっかりと返したいと思う。宿題代わってあげるよ。宿題あるか知らないけど。


 ギルドを出るともうすっかり夕方だ。

 正直もうかなり疲れた。

 馬車の中では休んでたけど長時間洞窟を彷徨っていた疲労が溜まっている。眠い。

 それでも何とか頑張って歩いて武器屋に到着。


 どれどれ、剣で一番安いのが銅の剣、銀貨5枚。切れ味はあまり良くなさそうで、叩き切る感じ。

 ここで俺は初めて貰ったお金を確認する。銀貨(たぶん)が30枚。

 価値が分からん。ちなみに学園の入学は金貨10枚必要。

 銀貨何枚で金貨になるのか分からないけど、あまり金を使うわけにはいかない。


 やっぱりナイフかな。鉄のナイフ銀貨2枚。

 銀貨(たぶん)を2枚渡してお会計。良かった、銀貨であってた。


 でも銀貨と金貨のレートが分かんないと幾ら稼がないといけないかが分からないな。

 変に思われても訊かなきゃいけないか。


「ねえリティ、銀貨何枚で金貨になるの?」

「10枚。山の周りの四国は同じ」


 じゃあ、今金貨2枚と銀貨8枚分持っていることになるのか。

 銅貨についても聞いたが、同じように10枚で銀貨になるらしい。

 つまり銅貨100枚=銀貨10枚=金貨1枚。


 ゴブリンは耳持って行って銅貨2枚なんだよな。

 10匹狩ってやっとナイフの元を取る程度。

 ちまちまやってたんじゃ学園入学まで間に合わないかも。


 入学手続き締め切りまであと10日。

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