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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第三章 歯車を回す少年
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40 お見舞い

 昼食を飛ばして夕食を食べていると、ダイキとリティ、カルテの三人がお見舞いに来てくれた。此処は城の中だけど、ダイキが二人を連れてきてくれたみたいだ。

 お見舞いに来てもらうのも、随分と懐かしい感覚だ。前世ではしょっちゅうだったからな。来てくれるのは父とユユだけだったけど。


「アカリ、だいじょうぶ?」

「寝ている分には大丈夫だよ」

「魔乏症だと聞いたのですが、長引いているようですね。昨日は結局アカリさんが帰ってこなくて、私もリティさんも心配してましたよ」


 これで長引いている方なのか。この症状自体詳しくないから目安が分からない。


「心配かけてごめんね。でもそれだと、普通はどれくらいで治るの?」

「軽いものだと数時間で治りますよ。魔力の使い過ぎで体に負荷が掛かったときの症状ですから、使用者の負担が大きい魔道具なんかを未熟な人が使ったりすると軽い魔乏症になりますね。後はアカリさんのように回復したばかりの魔力を連続して使い続けても起こる症状です」


 話を聞くに、割とメジャーな症状みたいだ。そういえば空間切断を通常使用したときなんかは眩暈を起こしてたな。もしかしたらああいうのを一括りに魔乏症と言うのかもしれない。


「ああ、でもそれで一日以上歩けないというのは少し異常だな。恐らく負荷の大きい魔法を連続して使ったから二重に体に負荷が掛かったんだろう」


 カルテの説明にダイキが補足する。

 そういえば昨日ユユも言ってたな。【状態魔法】は本来自分にしか使えないものだから他人に使うのは、その分負荷が大きいって。


 考えてみれば【状態魔法】を他人に使うときは【範囲魔法】でも結構魔力を消費している。特殊ユニークスキルを重ね掛けしているんだから思った以上に体に負担があってもおかしくはない。


「まあ、少しずつ良くなっては来ているし、大丈夫でしょ」


 治りは遅いが、ずっとこのままというわけじゃないし、その点は心配ないだろう。治るまでの間は不安だらけだけど。


「でもお陰で、アカリのその姿も見慣れてきたな」


 ダイキがそんなことを言ってくる。まあ俺も、どっちみち動けないからどんな姿でも変わらないと思ってるけど。


「そうだ、俺の荷物知らない? 気が付いたときには着替えもされてたんだけど」

「そこに、ある」

「……あ、ホントだ」


 俺の鞄は部屋にある机に置いてあった。動けないから広い部屋の中をいちいち確認してなかったな。

 リティが持ってきてくれる。特に今必要なものは無いのだけど、懐中時計だけは中から取り出す。この重量感が手に馴染む。


「着替えならここのメイドさんがしてくれた筈だな。流石にドレスのままじゃ寝れないだろ」

「まあ、そうだね」


 というか、ドレスも部屋に置いてあった。あれは別に俺のじゃないから持ってってくれてよかったんだけど。


「ああ、パーティーで着たドレスはくれるそうですよ。私たちも貰いました」

「そうなの? でも俺がドレスを貰ってもなあ」

「でも高そうなドレスですし、せっかくですから貰っといたらどうですか?」

「カルテはちゃっかりしてるなあ」

「くれると言うなら、貰うのが礼儀なんですよ。……私にとっては」


 最後の一言には完全に欲望が入っていた。


「そうだ、リティは一人で大丈夫? 寂しくない?」


 俺は寂しいからリティに訊いてみる。俺が居ないという事はリティは今、あの大きな館で一人という事だ。


「すこし」

「工房に籠りっきりじゃないか心配だよ」

「……だいじょうぶ」


 あ、目を逸らした。これ大丈夫じゃないな。


「アカリ、工房のお礼に、何かつくる」


 工房が話題に出たからか、リティがそんなことを言ってきた。


「作るって、武器とか?」

「武器でも、アクセサリーでも」


 なんでもいいのか。選択肢が多いと悩むな。


「うーん、じゃあせっかくだから武器をお願いしようかな」

「どんなの?」

「手首だけでも動かしやすい、細剣レイピアが欲しい」

「ん? 普通の剣じゃ駄目なのか?」


 ダイキが話に入ってくる。ダイキはスキルでどんな武器でも扱えるからなあ、俺では剣を扱えないんだよ。


「【剣術】のスキルも無いし、力も無いから普通の剣じゃ振り回されるんだよ。それでもリーチがある武器は欲しいと思ってたから細剣」

「ああ、確かにアカリは筋肉無いからな」

「そうそう。それでリティ、細剣でお願いできる?」

「うん、わかった」


 リティは頷きながらそう返した。


「ああでも、それで工房に引き籠りっきりにならないようにね」

「……うん」


 なんか返事に間があったな。ちょっと心配だ。



=====



 三人が帰ったら、体を拭いてもらって用意してくれた新しい服に着替えた。

 まだ夕方だけど、もう寝ることにする。今日はずっと寝ていたけど、寝ていたからこその眠気があるから問題ない。俺は本来、いつまででも寝れる人間だ。


 それに暗くなるとまた昨夜のように眠れなくなるかもしれない。早いとこ眠るに限る。


「よし、おやすみー」

《おやすみ、アカリ》


 ユユに挨拶をして目を閉じる。

 だんだんと意識が遠ざかり、すぐに眠りについた。



=====



「んんぅ……」


 眠りから覚めてまだ朦朧とする意識の中、枕元に置いていた懐中時計を確認する。

 ……もうお昼か。


「トイレ……」


 ゆっくりとベッドから降り、よたよたと部屋を出る。

 寝過ぎて眠い。ある意味いつも通りの寝起きでうとうとしながら歩く。


 と、足がもつれて転んでしまう。


「うぅ……すぅ…………」


 転んだとはいえ、横になったことで意識が持って行かれる。気付いたら丸まって目を閉じていた。


「すぅ……すぅ……」

「んにゃ!?アカリ、どうしたの!?」

「んん…………」

「へ? 寝てる?」


 誰かの悲鳴のような声が聞こえて意識が戻る。


「んぁ、姫さま?」

「アカリ、どうしてこんなところで寝てるの?」

「ええと……あれ、なんでだっけ」


 一度起きたのは覚えている。その後、何か用事があって部屋から出たような……。

 まあ、思い出せないなら大した用事では無かったのだろう。


 いつまでも廊下で横になっている訳にはいかないから、取り敢えず立ち上がる。


「もう、驚かさないでよ。それで、体調良くなった? 昨日は様子を見に行っても寝ていたけど」


 昨日は殆ど寝て過ごしたからな。寝ているときに来てくれていたようだ。


「そういえば、少し魔力が戻ってる」


 言われて体調を確認してみると体に少しだが魔力を感じた。ようやく魔力回復が復活したようだ。


「後は、歩けるくらいにはなってるかな」

「此処までは歩いてきたみたいね」

「よく覚えてないけど、そうみたい」

「アカリの調子が良くなってきたら、一度話がしたいとお父様が言っていたのだけど、大丈夫そう?」

「話すくらいならもう大丈夫だよ」

「分かったわ。それじゃあ私はお父様に伝えてくるけど、一人で戻れるの?」

「歩けるから平気だよ」


 その言葉に納得すると、姫さまは来た道を戻っていった。

 さて、俺も戻るかな。……あれ、どっちから来たっけ?


 この廊下に見覚えが無い。そして此処まで来たときの記憶が無い。


「あ、姫さ……」


 姫さまは既に、角を曲がって見えなくなっていた。

 いや、姫さまがあっちに行ったってことはたぶん、反対方向だろう。


 廊下を進む。そしてすぐに、分かれ道に出て止まる。


 ……どっちだ。


 駄目だ、考えても分からない。真っ直ぐ行こう。

 見覚えのない道を歩く。歩けるようにはなったけど体力はあまり戻ってなかったらしく、既に疲れてきた。


 ……トイレ行きたくなってきた。


 尿意と同時に、部屋を出た理由を思い出す。そうだ、トイレに行こうとしてたんだった。

 だけど、道に全く見覚えが無い。恐らく部屋を出てすぐ、間違って反対に進んだのだと思う。


 俺はまだ走ることができないから、歩いて彷徨う。部屋の前にトイレに行かないとマズイ。

 人を見つければ楽なんだけど、今のところ見つけていない。歩く速度が遅いせいもある。


 のろのろそわそわと、彷徨っているとようやく人と遭遇する。フェルクディだ。


「あれ? ユミちゃん、奇遇ですね」

「フェルク、助かった」

「助かった? そんなにそわそわして、どうしたんです?」

「お手洗い、どこか知らない?」

「あ、ちょっと待ってください。血流が……」


 フェルクは鼻を押さえる。


「いや、結構辛いんだけど。漏らしたらどうするの」

「興奮します」

「っ! 早く教えてくれ!」

「そんなに顔を赤くされると、こっちまで赤くなっちゃいます」

「もう赤くなってるよ。鼻血で」


 いろいろと手遅れだった。でも俺が手遅れになる前に早くしてほしい。


「まあ、ユミちゃんには嫌われたくないですし……こっちです」


 そう言ってフェルクはようやく案内してくれた。

 フェルクも一緒にトイレに入ろうとしてきたが、もちろん廊下に待たせた。

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