表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第三章 歯車を回す少年
41/112

38 症状

 俺の様子を見終わった王さまとダイキは部屋から出て行った。

 今は、遅めの夕食を食べている。料理はベットの上に台を置いて、その上に載せてる。


 そう、さっき起きたのに夕食。しかも遅め。

 どうやら起きた時間は既に学園が終わっている時間だったみたい。まあ、今日は仕方ないか。


 体の動きが鈍い為、ゆっくりと食事を続ける。やっぱり此処の料理は美味しいなあ。病人向けなのが少し残念だ。


 食べ終わった頃に、部屋に姫さまがやって来た。


「アカリ、体は大丈夫なの?」

「まだ不調だけど、休めば良くなるってさ」

「そう、早く良くなるといいわね」

「そうだね」


 俺もいつまでも無防備なままで居たくないし、早く良くなるに越したことはない。


 ……いやホント、【状態魔法】が使えない状態って結構やばいんだよね。俺は普段、このスキルがあるから安心して暮らしているといった感覚がある。だから逆に今は、神経が尖っている感じがする。


「それでねアカリ、昨日は守ってくれてありがとう。アカリは私を庇って怪我もしたのよね」

「ん、いや、仕事としてだったし、気にしなくていいよ」


 それに、最初に魔眼を喰らったのは庇わなくてもどっちみちだったと思う。なら姫さまだけでも守れてよかった。


「でも今アカリがこうなっているのは、私にも責任があるから、何かあったら遠慮なく私に言ってね」

「今のところはメイドさんに頼めば事足りてるよ」

「でも、私じゃないとできないこともあるのじゃないかしら?」

「姫さまにしかできないようなこと?」


 あるか?

 俺はもう、この後は寝支度をして寝るだけだし、特にすることもないんだけども。


「んー……」

「あの、何かないの?」

「今は特には」

「そうなの……」


 姫さまはしょぼんとした顔になる。


「……あ、でも、俺は暫く学園に行けそうもないから、進んだ分の授業内容を教えてくれると嬉しいかな。姫さまとは同じ魔法実技をやってるし」

「! そう、分かったわ。体調が良くなったらしっかりと教えてあげるわね!」


 先のことまで考えて、姫さまへの頼み事を何とか思い付いた。

 それを聞いた姫さまは目に見えて元気になる。気にしなくていいと言ったのに、それでも何かしたかったようだ。


 その後、姫さまと話していると、もう一人この部屋にやって来た。姫さまのお兄さん、女装王子ことゼネガスト様だ。今日も勿論女性の姿をしている。


「アカリくん、倒れたって聞いたからお見舞いに来たわよー。あら、スーも居たのね。……スー、その子は?」


 ゼネガスト様は俺を見て首を傾げる。今の俺はユミツキちゃん状態だから、分からないのか。


「アカリですよ、ゼネガスト様」

「え? どういうこと?」

「アカリは姿を変えることができるらしいの。昨日この状態だったから、そのままみたいなの」

「魔乏症で、姿を元に戻せないんです」

「……アカリくん、女の子になれたの?」

「ええまあ、そういうスキルを持っているので」

「ナニソレ羨ましい! なんで私はそのスキルを持っていないのかしら!」


 ゼネガスト様は見てわかる通り、女になりたいらしい。見た目は既に殆ど女性だよ。


「あー、他人にもスキルを使うことができますけど」

「!? なん、ですって?」


 そんなに反応するとは思わなくて、こっちまでビクッとしてしまう。

 俺がすぐに答えなかったら、ゼネガスト様はググイと詰め寄ってきて、恐怖を感じて思わず後ずさる。


「ゼネガスト兄さん、アカリが怖がっているわよ。離れてください」

「おっと、ごめんなさいつい」

「い、いえ」


 姫さまありがとう。魔力が無い今の俺は、簡単に刈り取られてしまう状態なんだ。もっと小動物並みに慎重に接してほしい。


「でも、私の姿も変えることができるって、本当なの?」


 俺は誰をとかまで具体的に言ってはいないが、ゼネガスト様の脳内では既にそういう話になっているようだ。


「は、はい、できますよ」

「じゃあ、私も真の女性になれるの!?」

「ひっ!?」


 今度は両手をベッドの端について、前のめりになって顔を寄せてくる。本当剣幕が凄い。

 それに、急に大声を出すもんだから、びっくりしてしまう。


「うぅ、だから怖いってば~」


 俺はパタリと後ろに倒れて、ついそう言葉を漏らした。体が弱っているせいで、心も弱っていた。大きな声とかでも割と精神にくる。


「あ、ああ、ごめんなさい」

「もう、むりぃ。姫さま助けてー」


 急に感情の波がきた。張りつめていたものが切れるように、動機がし始める。

 思わず目に涙を浮かべて、姫さまに助けを求めた。


「ゼネガスト兄さん、取り敢えず出てってくれる?」

「で、でも」

「話は後で聞くから。今はアカリが……」

「……そうね。悪かったわ」


 そう言ってゼネガスト様はすごすごと部屋を出て行った。


「アカリ、もう兄さんは居なくなったわよ」

「……ありがと、姫さま」


 二人になったことで、少し落ち着いてきた。

 普段だったらあのくらいなんてことはないのに、【状態魔法】が使えない不安が出てしまったのだろう。ちょっとしたことに過敏に反応して、感情が大きく揺れる。


「ダイキを帰したのは、失敗だったかな」


 王さまやダイキが居たときは、安心できていたのだろう。こんな風にはならなかった。今では僅かな音でさえ、やたらと意識が行ってしまう。


「アカリ、大丈夫なの?」


 姫さまが不安そうに俺を見てくる。安心させてあげたいが、どうにも感情が上手くコントロールできない。完全に情緒不安定だ。


「もう、早いとこ寝たほうがいいかもしれない」


 そう考え、寝る準備を始める為に姫さまには帰ってもらった。

 心配そうにする姫さまを見送った後、メイドさんに体を拭いてもらう。さっきので変に汗を掻いてしまったからね。


 それが終わって服を着直したら、明かりを消してベッドに横になる。


 ……暗い。体も怠く、休息を必要としているが、眠いのに不安で眠れない。


 そういえば、俺は魔眼の視力補正で夜目が効いた筈だけど、部屋の端が暗くて見えない。スキルの常時効果は魔力を使わなかったと思うんだけどな。

 そもそも今日は、視界がずっと軽くぼやけていた。体に力が入らない方が衝撃的で、そっちのことはあまり気にしていなかったけど。


 もしかしたらスキルの効果がとかではなく、単純に人体の機能にいろいろ障害が出ているのかもしれない。魔力の自然回復も体の機能の一部だと思うし。


「魔力の使い過ぎって、こんなに大変なことになるんだな」

《【状態魔法】は本来、自分以外に使えないスキルだからね。それを乱用した分、体への負担が大きかったんだと思うよ》

「あれ、ユユ。俺今スキルを使えない筈だけど念話できたの?」

《『コネクト』はこっち持ちだから、アカリは魔力を使ってないよ》

「そうだったのか」


 じゃあもっと早く声を掛ければよかった。そうすれば多少不安も紛れただろうに。


《分かってると思うけど、アカリは今無防備な状態なんだから気を付けてね》

「それはもう、重々承知しているよ。むしろ気にし過ぎて神経が張りつめているから、ほぐしてほしい」

《うーん、そういうことなら『勇者』には居てもらった方がよかったかもね。あの人なら何かあっても守ってくれるだろうし、アカリも安心できたよね?》

「ああ、やっぱりダイキは帰さなきゃよかったな」


 ユユと話すことで、幾らか気は紛れたけど、それだと寝ることができない。


 すると、部屋の外から足音が聞こえた。

 コツン、コツン、という足音に意識が吸い寄せられる。……あ、俺、足音って嫌いだわ。『死』が這い寄る音を思い出す。


「ううう、怖い」

《此処は王様のお城だし、大丈夫だよっ》

「昨日襲撃あったし」

《で、でも、襲撃があったからこそ普段より警戒してるよ。きっと》

「うっ、なんか涙出てきた」


 普段泣くようなことは無いのに、余程涙腺が緩んでいるようだ。幽霊を怖がるような恐怖でボロボロと涙が溢れる。


 足音は段々と俺の部屋に近づいてきて、止まった。


「へ、部屋の前で止まったよ」


 ドアから距離を取るべく、ずるずるとドアの反対側に下がる。そして、下がり過ぎてベッドから落ちた。


「――うきゅぅっ」


 背中から落ちてしまい、動きが止まる。

 遂にドアの開く音がしたが、俺からはその様子が見えない。何かが近づいてくる気配は感じているのだが、今の俺には体勢をすぐに直すことができなかった。


「アカリ? 何してるの?」

「あ……姫さま……」


 足音の正体は姫さまだったようだ。……まあ、そうだよね。何をそんなに怖がっていたのか。


「何か音がしたから入ってきたのだけど、ベッドから落ちたの? って、泣いてるの、アカリ」

「だ、だって姫さまがぁ」

「え? 私、何かした?」


 ……いや、姫さまは悪くない。きっと俺の様子を見に来てくれたんだろう。俺がその足音に過敏に反応しただけだ。


 取り敢えず、起き上がろうとするが、ひっくり返っていて上手くいかない。もぞもぞとしていたら、姫さまが手伝ってくれて、ようやくベッドに戻れた。


「アカリ、本当どうしたの? 他にもどこか悪いの?」

「ただ、体が動かなくて魔力が戻らないだけだよ」


 そして、その二つのことで俺は完全に無防備になる。襲われたら終わりだ。

 此処が安全だと頭では分かっているのだが、もしかしたらという不安が消えない。


「じゃあ、何かして欲しいことはある?」


 姫さまは再度、その質問をしてきた。さっきは特に無かったけど、今となってはありがたい。


「……傍に、居て」

「分かったわ」


 俺の要求に、姫さまは頷いてくれた。


 その日は、姫さまに一緒に傍に居てもらって、ようやく眠ることができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ