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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第三章 歯車を回す少年
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37 魔乏症

 目が覚めると、知らないベッドで眠っていた。


 そういえば最近引っ越したからベッドも変わったっけ。とてもふかふかでまた意識が持って行かれそうになる。

 ああでも、学園に行かなくちゃ。リティも起こしに来るだろうし。


 のろのろと体を起こす。今日はまた一段と怠い。


 ……あれ? 家のベットはここまで大きくなかったような。


 そこでようやく、此処が自分の家じゃないことに気が付く。此処どこだ?


「ん? 体が動かない」


 立ち上がろうと思ったが、うまくいかない。

 全然体に力が入らない。……どうしよう。


 まだ寝起きで頭も働かず、どうすればいいのか思いつかずに上半身だけを起こした状態でボーっとし続ける。

 暫くそのままで過ごしていると、部屋に誰かが入ってきた。え、メイドさん?


「お目覚めになられましたか。お加減はいかがでしょうか?」

「……良くはないです」

「左様ですか。では、今から人を呼んできますので少々お待ちください」


 そう言ってメイドさんは部屋を出て行った。……いや、そもそも此処どこ?



=====



 暫くしてやって来たのは、王さまとダイキだった。


「アカリ君、ようやく目を覚ましたか。なかなか起きないから心配したぞ」


 王さまが居るってことは、此処は王城か?


「王さま、俺、どうして此処に?」

「ああ、どこまで覚えてるのか知らないが、昨晩の襲撃の後に怪我人を治癒して回っただろう。全員を治癒した後のアカリ君は朦朧としていたようだったから城で休ませたのだ」


 あー、そういえばそうだった。ホントもう、途中から記憶が曖昧だ。


「そうでしたか。ありがとうございます」

「いや、感謝するのはこちらの方だ。アカリ君がこうなったのもこちらに責任があるのだし、気にする必要はない。それより、あまり体調が良くないと聞いたのだが大丈夫なのか?」

「まだなんか、体に力が入らないです」


 立ち上がることもできないのは結構重症だ。


「ふむ、魔法の酷使で体に負荷が掛かったのだろう」

「ちょっと待ってろ、状態鑑定してみる」


 ダイキが俺の体に鑑定スキルを使う。といっても俺からじゃスキルの行使を視認できないけど。


「『魔乏症』と出てるな」

「何それ?」

「ふむ、魔力の使い過ぎで起こる症状だな。程度の差はあるが、怠さなどの体調不良と、魔力の自然回復に一時的な障害が発生するものだ」


 俺の疑問に王さまが答えてくれる。怠さっていうか、体が殆ど動かないんだけど。よっぽど悪い状態なのかな。


「そういえば、魔力が空っぽのままだ」


 なんかまだ少しボーっとすると思ったら、魔力欠乏による症状か。


「そんな状態では不安だな。体調が良くなるまではこの部屋を使っていいから城に滞在しなさい」

「自力で帰れそうもないし、お言葉に甘えさせてもらいます」

「魔力が回復してないってことは、アカリはまだその姿のままになるのか?」

「ん?」


 ダイキに言われて、首を下に向け自分の姿を確認する。俺の体は女物の寝巻き、ネグリジェのようなものに身を包んだ状態で、胸に微かな膨らみが見える。……ユミツキちゃんのままだった。

 そういえば昨日は最後まで女の姿のままだった。元の姿に戻るには再度【状態魔法】を使わないといけないから、未だに女の姿なのも当然だ。


「ああ、確かにそうなるな。外見を変えるのって実はかなり魔力を使うんだよね。性別まで変えるなら尚更」

「じゃあ、暫くの間そのままか」


 城に滞在する間は、女のままで生活することになってしまった。


「ところで、なんでダイキも此処に居るの?」

「ああ、昨日のことで呼ばれてな。お前が心配だったのもあるぞ」


 王城が襲撃されるなんて一大事だし、実際に襲撃者と戦ったダイキにはいろいろと話があったのだろう。


「アカリ君にも話はあるが、体調が戻ってからにしよう」


 それから、王さまに城での生活で必要な説明を受ける。ベルを鳴らせば控えているメイドが来るとかそういうのだ。


「他に何か知りたいことはあるか?」

「あ、トイレってどこですか?」

「部屋を出て右に真っ直ぐ行った突き当りにある」

「ありがとうございます。それじゃあ……」


 言って、自分では自力で歩けないことに気付く。


「……」

「あー……」


 ダイキは俺の状況を察したようで、気まずそうに目を逸らす。

 でも、結局トイレには行かないといけない。尿意には限界ってものがある。


「あの――」


 誰かに運んでもらおうと思い、そのことを伝えようとしたら、先に王さまが微妙な顔をして目を逸らした。

 いやでも、伝えないと俺が大変なことになる。


「あの、誰かにトイレまで運んでもらえませんかね?」

「……私でなくてもいいのか?」


 いや、流石に王さまに運んでもらうわけにはいかないだろう。常識的に考えて。


「いえ、誰でもいいですけど」

「そうか……」


 王さまは何故だかホッとしたような、釈然としないような複雑な顔になる。


「というか、割と限界……ダイキ、連れて行ってくれ」

「しょうがないか……ああ、分かった」


 よし、なら早速行こう。

 ずるずるとベッドの端まで動き、足をベッドから降ろしたらダイキの方へ両腕を伸ばす。


 すると、何故だかダイキまで微妙な表情になった後、向かい合ったまま抱いてきた。そのまま子供を抱っこするように持ち上げられる。


「? いや、背負ってくれればいいんだけど」

「……間違えたんだよ」


 ダイキは俺のことを降ろすと、改めて背中を差し出す。そこに乗って、ようやく部屋を出た。

 俺とダイキのやり取りを、王さまは始終、複雑そうな顔をして見ていた。



=====



 入るのは当然ながら女子トイレだ。

 ダイキは一度、トイレの前で立ち止まる。


「アカリ、此処から自分で行けるか?」

「無理。中まで行って」

「まじかよ」


 女子トイレの中にまで入るのは抵抗があるようだ。まあ、これも当然か。


「中に誰か入ってないよな?」

「知らないよ」


 お城のトイレだけあって複数人入ることができるようだ。学校のトイレをやたら豪華にした感じがする。


「確認、したほうがいいんじゃないか?」

「ダイキさ、女子トイレに「入ってますか?」と声を掛けたらどっちみち変態呼ばわりされてもおかしくないよ」

「じゃあアカリが確認してくれよ」

「大きな声出せないんだよ」

「……思った以上に重症なんだな」

「いやホント、漏れそうだからもう入ってくれよ」


 それでようやく観念したようで、女子トイレの中に入ってくれる。

 個室の一つに入り、便器に降ろしてもらう。洋式だからいいけど、これ和式だったら詰んでたな。


「ありがと。それじゃ、出てって」

「言われなくても出てくってば」


 ダイキを追い出したら、下着を降ろしてようやく尿意から解放される。


「さて、ダイキを呼ぶか」


 そう思ったが、この状態でまた呼ぶのか?

 なんかいろいろとマズイ気がする。手洗いも少し離れたところにあるからまだ洗ってないし。

 用を足し終わった後に便器からダイキにおんぶしてもらう姿を想像して、何か恥ずかしくなった。


 ……せめて手を洗ってからにしよう。


 壁に寄りかかって何とか立ち上がる。ずるずると移動して手洗いまで辿り着いた。

 もうこのままトイレを出れそうだな。手を洗ったら移動を再開する。


 ドアを開けて、ぬるりと顔を出す。


「うおっ! びびった」

「ダイキ、戻るよ」

「お前、俺が中に入る必要無かったんじゃないか?」


 いや、行きは尿意とかいろいろあったんだよ。

 ダイキに再度背負ってもらい、王さまに用意してもらった部屋に戻る。


 そこにはまだ王さまが居たが、疲れた顔をしたダイキについては触れてこなかった。

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