3 現地人?発見
分岐路を越えてすぐ、蟻と遭遇した。
その数3匹。
先程の蟻は視界を完全に奪ったから混乱して暴れだした。
また同じようにして暴れられたらこっちが危ない。そのため、魔眼を調整して使う。
この魔眼の特性は視界に干渉すること。
ならば視力を全て奪うのではなく、視界の一部を奪い、特定のものだけを見えなくすることもできなくはないはずだ。
というわけで発動!
最初にこっちを見た蟻の視界に干渉し、俺を視認できなくする。
発動する瞬間はばっちり俺と目が合ってるわけで、その後に俺の姿が消えるとどういう反応をするのか不安だったが、あまり賢くないらしく何事も無かったかのようにそっぽを向いた。
残りの2匹も同じようにする。
これで俺は透明人間になった。
でもまあ、近づきすぎると見えなくても気配とかでばれるだろうからなるべく距離を取りながら横切る。
結構ドキドキするな。
そして完全に見えなくなったところでスキルを解除。ミッションコンプリート。
このスキル、透明人間になれるのはすごいけど、一度目を合わせないといけないから相手に見られないと透明になれないんだよな。
戦闘で消えるというのは使えるけど、隠密には透明化は使えないな。
=====
それから何度か分岐を通り、洞窟を進んでいった。
蟻とも何度か遭遇したが対処法を身に付けた俺にとっては余裕だった。
ただ、魔眼が低コストだとはいえ流石に魔力が少なくなってきた。
魔力は生き物が持っているエネルギーで体力同様、休めば回復するらしいが、こんな場所じゃ食事も睡眠もできないし碌に休憩もできない。
だいぶ疲れた体でだらだらと先へ進む。
暫く歩いていると正面に苔とは違う明かりが見えた。
オレンジ色の光には人の存在が感じられて思わず期待が高まる。
「ユユ、ユユ! あれ火じゃないか? 人の気配を感じるよ!」
《あそこに人が居ればきっと出口も分かるねっ! ようやく外に出られるかも》
ただし俺は全裸。
あそこにすぐ飛び込むわけにはいかない。
取り敢えず忍び足で近づく。
近づいてみるとそこには扉があった。
その扉の両端に松明が置かれてある。俺が見つけたのはこの明かりのようだ。
「人は確かに居そうだけどどうするか。流石に全裸で正面から入るわけには」
《忍び込んじゃえば?》
「あの扉じゃ開けたときそれなりに音がするだろうし難しいかな。というか人の作ったんものを見つけて浮かれてたけど、こんな場所にあることといいあまり普通とは言えないな、あれ」
その後もあれこれ考えながら様子を見たが、人が出てきたりやって来たりすることもない。
扉を開けないことにはどうにもならないみたいだから覚悟を決める。
扉に近寄り、可能な限りゆっくりと開けていく。
それでも扉はそれなりに音を立てる。
緊張しながら俺は、開けた隙間から中へ忍び込んだ。
扉の中には、あまりきれいではないが衣食住が揃っていると言えた。
中には誰も居なく、布団や食器が端に寄せてあり、他には木箱が置かれているくらいだ。
それなりの広さはあり、布団なども複数あることから何人かの集団が住んでいると分かった。
とりあえず服を求めて木箱をあさる。
こんな状態では人の倫理も法も関係ない。
露出魔という犯罪者から空き巣という犯罪者にクラスチェンジするだけだ。同じクラスの気もするけど。
一応シャツとズボンらしきものは見つけたけどボロイ。
一瞬着るのをためらった。全裸よりマシだから着たけど。
「この世界の人ってこんなボロイの着てるの?」
《いや、流石に着ないよ。ゴミだったんじゃないの?》
ユユからはゴミ扱いされた。本当にゴミだったかもしれないけど。
その後に干し肉とワイン(飲み水が見当たらなかった)を口に入れ、ナイフを一本拝借して部屋を出た。
《仕事道具が武器くらいしかなかったし、雰囲気からして盗賊とかの犯罪者のアジトかも》
ということらしく、人と会うのは諦めた。
金目の物は見当たらなかったから下っ端の棲み処とか休憩場所とかかもしれない。
しかしこんなところがあるくらいだし、もう暫く進めば人の居る場所に出られるだろう。
扉を閉めた後地面を観察し、足跡を見つける。
この足跡の向いているほうへ進めば少なくとも人の通る道か、盗賊やら山賊の他のアジトに辿り着くだろう。
一番怖いのは知らず知らず、洞窟の奥深くへ潜っていくことだ。
ようやく出口への手掛かりを見つけたんだ。リスクがあってもこの足跡を追おうと決める。
=====
足跡はすぐ見つけられなくなったが、分岐路も無かったため黙々と進んでいく。
盗賊に出くわすかもしれないからユユとも殆ど喋らない。小声でも会話はできるが盗賊の声とかを聞き漏らすかもしれない。
思念だけでもユユに通じるみたいだが、かなり意識を集中しなければ伝わらなかった。
にしても本当にこの洞窟は長い。今まででかなりの時間歩いている。
体感だからかなり曖昧だが、10時間くらいは洞窟に居ると思う。正直こんなに洞窟に居続けることになるとは思わなかった。
転生初日から、既に短い人生を振り返ることをしていたが、ついに人の声が聞こえてきた。
けれど聞こえてくるのは怒鳴り声や叫び声で、あまり良いものではない。
ものすごく嫌な予感がするが、兎に角近寄ってみる。
辿り着いたそこには大勢の人が居た。
今の俺と同じような服に防具を付けた男が5人。馬車を囲ったそれ以外が8人。
その二つの集団が敵対していた。見るからに襲ってる側と襲われてる側に分かれている。
やっぱ盗賊だったのね。
盗賊は全員フル装備って感じだが、襲われているほうは自衛程度の装備の人もいて、実際戦っているのは五人で残りの3人は守られているようだった。
てか、戦っているのに小さい女の子が1人混じっているな。守られる側じゃないのかよ。守られているのがおっさんということもあって違和感がはんぱない。
少し離れた位置で状況把握に努めているが、魔眼のおかげか離れていてもよく見える。
それで離れて様子を見ていると、やたらと目立つ動きをするやつがいる。
ゴリラのような筋肉質な見た目をした盗賊が、壁を利用して跳んだり足の指でナイフを投げたりとやたら変則的な動きで攻めている。
拮抗した戦いが続いていたが、遂に盗賊ゴリラが戦っていた男の一人を吹き飛ばし戦闘不能に追い込む。
すげえ怪力。あんなトリッキーな動きをしなくてもパワーだけで倒せるんじゃないか?
というかこのままだと盗賊が勝ってしまう。流石に盗賊に出口を聞いても教えてくれないだろうし、加勢しないと俺もまずいか。
そうと決めたらこれ以上形勢が不利になる前に行くしかない。
走って駆け寄り合流をしようとしたら、俺に気付いた全員が一斉に剣を止めてこっちを見てきた。
思わず足を止める。
いや、そんな警戒されるとびびっちゃうよ。俺まだ何もしてないじゃん。
「くそっ、新手か!」
そう声を上げたのは被害者側。
そこで自分の今の恰好に気付く。盗賊コーディネートだと。
見た目盗賊だから被害者側に警戒されて、知らないやつだから盗賊からも警戒されてるのか。
兎に角否定しないと。
「俺は盗賊じゃない」
「そんな恰好でか!」
まあ、そうなるよな。
「あー、これには深い事情があって」
深すぎて咄嗟に説明できない。
言葉より行動で示したほうが早そうだ。ちょうど皆こっち見てるし。
――というわけで【瞳の魔眼】発動!
対象は明らかに格が違う盗賊ゴリラ。
「なんだ!?急に目が!」
よし、成功。
なんか蟻に使ったときより魔力の消費が多かった感じがする。強いやつには多く魔力を使うのかもしれない。
「あいつ魔眼持ちだ! 目を合わせるな!」
盗賊ゴリラが仲間に知らせる。
一発でばれるのかよ。もう数人に喰らわせたかったが無理そうだ。
視界を奪っているうちに倒そうと盗賊ゴリラにナイフを投げるが、弾かれてしまう。それも盗賊ゴリラ本人に。
あいつ目が見えてないのに! 何で分かんだよ!?
視力を奪ってもあれだけ反応するなら倒すことは難しいか。
とはいえ、俺の手札はこれくらいだ。
ならもう逃げよう。見えなきゃ追えないだろ。
「おい! あの筋肉が動けないうちに逃げるぞ!」
被害者御一行に声を掛ける。一行も状況は正しく理解しているらしく残りの盗賊に牽制をしながら動き出す。
俺も大きく回って盗賊と距離を取りながら合流する。
流石に見方だと判断してくれたらしく斬られたりはしなかった。
非戦闘男3人のうち二人が馬車を一台ずつ操り、戦闘員男3人が盗賊を牽制。小さな女の子が盗賊ゴリラに吹っ飛ばされて気を失っている男の回収に向かった。
俺は何とか他の盗賊に魔眼を掛けれないかと盗賊を見ている。
女の子が男を背負おうとしたとき、盗賊ゴリラが一気に女の子のところへ駆け出した。
あのゴリラ、音を聞いてタイミングを計ってやがった!
女の子は無防備な瞬間を狙われて対処できない。
俺も盗賊ゴリラ同様に女の子の下へ向かう。
盗賊ゴリラが剣を振りかぶったところで俺も追いつき、体当たりで止めようとする。
その瞬間、盗賊ゴリラは体を俺のほうに向け、剣を振り下ろした。
「がはっ!」
剣を受けた衝撃で肺から空気が抜ける。胴体を斜めにバッサリと斬られ血が勢いよく流れる。
――【状態魔法】状態、復元。
傷を負った部分に魔力が集まり、傷を癒していく。
傷口に魔力の光が溢れては羽根の形となり、舞い散る。
盗賊ゴリラへ目を向けるが、元々一撃離脱する気だったようで既に離れていた。
「だいじょうぶ!?」
《アカリ!?》
目の前の女の子とユユが声を上げる。
斬られた衝撃でまだ声が出なかったが、なんとか頷いて返事をする。
それを確認した女の子は俺を持ち上げ、男2人を抱えたまま走って馬車へ向かった。
予想外の怪力に驚きながらも、俺は魔眼の効果を切らさないため、気を失わないよう意識を集中させた。
そして女の子は馬車に飛び乗り、牽制をしていた人も馬車が加速するのをギリギリまで待ってから飛び乗った。
こうして俺達は、盗賊からなんとか逃げ出すことに成功した。