閑話2 生贄 side-ダイキ
先程までと同じように、俺は魔眼使いと剣士の相手をする。さっきまで様子を見ているだけだった呪術師の方はアカリが相手をし始めた。
体が完治したことによって、万全に動けるようになった。魔眼の効果も既に分かっているから、瞬間移動を繰り返して魔眼を受けないようにしながら、魔眼使いを狙って攻撃をしていく。
スキルの構成を見ても分かるが、魔眼使いは近接戦はあまり得意ではない。そこは剣士が守ることでカバーしているようだが、瞬間移動で何度も魔眼使いのもとに跳び、しつこく狙うことで剣士は防戦一方になる。
俺の方は魔眼使い対策で近接戦を続けているが、アカリの方は呪術師と一定の距離を取った状態で魔法を撃ち合っていた。お互いに距離を詰める機動力が無く、近接系のスキルが無い為に中距離で戦っているようだ。
ただ属性魔法を撃ち合う場合、スキルレベルの差や属性の相性、魔力量で勝敗が左右されていく。けれど、余程の実力差が無い限り、すぐに決着が付くことは少ない。
アカリの方の戦闘は暫く膠着すると思ったが、防ぎきれないくらいの高威力の【水魔法】をアカリが放ったことで一気に形勢が傾いた。
すると、続けざまに魔法を放とうとするアカリに魔眼使いがその魔眼を使った。俺がその隙を見逃す筈はなく、即座に魔眼使いに電撃を放つ。
今までだったらその攻撃は剣士が防いだのだが、剣士はそれを無視してアカリの方に駆けていった。
剣士が居なくなったことで、魔眼使いはまともに電撃を喰らう。攻撃した俺にとっても予想外のことだったが、ダメージが深いうちに更に電撃を浴びせて魔眼使いの意識を奪う。
そして剣士を追おうとアカリの方を見ると、アカリに斬りかかった筈の剣士は、胸とその裏側の背中から血を噴出して倒れたところだった。
アカリはそれをただ見つめていて、動じた様子はない。……アカリがやった、のか?
吹き出た血で傷口を確認できないが、恐らく剣士の胸を貫いて穴が開いたのだろう。まだ息はあるようだが、あれではもう殆ど持たないだろう。
人が死ぬ間際だということに動揺してしまい、動きを止めていると、呪術師が倒れた剣士に近寄って手を伸ばした。
「力の対価を、今ここに納める」
呪術師の言葉と同時に、剣士の体が光の粒子になって消えていった。
これは、【代償魔法】か? 死にかけとはいえ、仲間を対価として支払ったのか!?
その生贄を捧げるような行為に怒りが沸き上がったが、それを相手にぶつけることはできなかった。
呪術師は【代償魔法】で威力を大幅に上げた【土魔法】で広範囲に土の塊を生み出し、俺のところまで効果が及んだために急いで瞬間移動で避難した。
俺が瞬間移動する前に、アカリも何らかの魔法でその場から消えた。恐らく【空間魔法】だろう。
アカリはスーロメルト姫様のもとに空間転移をしたみたいだ。俺もそこへ再び瞬間移動を行う。
「悪いアカリ、まさか魔眼使いを捨ててそっちに行くとは思わなかった」
俺が相手していた敵がアカリの方へ行ってしまった。まずは引き止めることができなかったことを謝罪する。
「まあ、結果的に仕留めれたから大丈夫。そっちはどうだった?」
仕留めたって……その瞬間は見逃したが、やっぱりあれはアカリがやったのか。
そりゃあ、つい今までしていたのは戦闘、殺し合いだ。だけど俺は、人を殺すことを当然のように理解することはできなかった。
この世界では、悪人は殺しても罪には問われない。冒険者なんかは日々、魔物を殺しているし、ときには盗賊の討伐などで人を殺す仕事も普通に行われる。
この世界に住む人にとっては、このくらいなんてことはないのだろう。けど、最近まで俺と同じ世界に住んでいたアカリが、簡単にそれができるとは考えていなかった。
いや、命の危険があるんだ。躊躇して逆に殺される可能性がある以上、殺せるなら殺すというのが正しい判断なのだろう。
「あー、魔眼使いのことは電撃浴びせて気絶させたまでは良かったんだが、あれに巻き込まれて置いてきてしまった」
俺は人と戦うとき、【雷魔法】で死なない程度に気絶させてきた。そういう点では、【雷魔法】は非常に優秀だったから。
今では人に攻撃するときには、当たり前のように殺さずに済む威力で攻撃している。
「あの【土魔法】にか。じゃあ魔眼使いがどうなったか分かんないのか」
「気絶した状態であれに埋もれたんなら普通生きてはいないだろうけど、仲間の魔法だしどうだろうな」
気絶している魔眼使いを助ける余裕がなくて置いてきてしまったが、あれで死んだとは考えにくい。
「呪術師も埋もれてたから、一緒に逃げたかもしれない」
その後もアカリと敵について話したが、それ以上は大した情報も出てこなかった。
……俺が急に話しかけたからなんだろうが、アカリはずっとスーロメルト姫様に覆い被さっている状態だ。また姫様の顔が赤くなっている。
今のアカリは女の子な為、非常に百合百合しい光景だ。姫様は赤くなって黙り込んでいるし、アカリも早くどいてあげればいいのに。
それから少し経っても呪術師たちが姿を見せることは無く、【土魔法】でできた塊も魔力が切れて消滅した。
土の塊が消えたことで障害物が無くなったが、やはり呪術師も魔眼使いも居ない。代わりに床に人が入れるサイズの穴が開いていて、その穴はずっと奥まで続いていた。
恐らくこの穴から逃げ出したのだろう。この穴の中には既に居ないだろうし、探してもすぐに見つかることは無いと思う。
部屋に小山を創った【土魔法】もかなりの規模だったが、あれは牽制や目くらましといった、逃げ出す為のものに過ぎなかったのだろう。この穴のこともあるし、【代償魔法】で引き上げた性能全てを攻撃に振っていたとしたら、その威力はもっと凄まじくなっていたと考えられる。
とはいえ、敵はもう此処には居ない。最初に変装をして襲ってきた二人も一緒に逃げたのか気付いたら居なくなっていた。
脅威が去ったことで、アカリはカルテちゃんとリティちゃんを探しに行った。後回しにしていたようだけど、やはり心配していたみたいだ。
辺りには最初に【裂離の魔眼】を受けて蹲っている貴族が大勢いたが、アカリはそれを気にせず、ひょいひょいと避けながら声を出して二人を探す。……よく平然と無視できるな。
俺は取り敢えず、この場に居る一番偉い人、つまりは国王様のところに行く。アカリが置いていった為、スーロメルト姫様とその護衛の眼鏡の人も一緒に連れて行く。
国王様は、自分を庇って魔眼を受けた護衛や周りの貴族の看護をしていた。けれど、魔眼は肉を引き裂く能力で、皮膚は斬られずに出血は無い為にどう手当てすればいいのか分からないようだ。
国王様は俺たちが来ると、立ち上がって姿勢を正す。
「勇者殿、先程までの戦いはこの目で見ていた。敵を排除してくれたこと、感謝する」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「情けないが最初の攻撃で兵等の殆どがやられた。其方が即座に動いてくれなければ、もっと被害は甚大だっただろう」
部屋の中に居た護衛や端に控えていた兵は、厳重に警戒していたからこそ全員が魔眼使いを見てしまい、魔眼をまともに受けてしまったようだ。
騒ぎを聞きつけて新たに部屋に集まった兵は居たのだが、そのときには俺たちが戦っていた為に、邪魔にならないように貴族の手当てに回っていた。
「スーも、よく無事だったな」
「私は、アカリが守ってくれたから怪我をしなくて済んだの」
「アカリ君か、彼の功績も非常に大きかったようだ」
俺も魔眼を受けてしまっていたから、アカリが治癒していなかったら厳しかった。呪術師が撤退したのもアカリが剣士を倒したからだし、今回のことはあいつが一番活躍しただろう。
そのアカリは今、倒れている貴族たちに治癒を懇願されていた。確かに魔眼を受けた傷はアカリじゃないとすぐには治せないだろう。それに、俺も喰らったから分かるが、あの魔眼は喰らうとめちゃくちゃ痛い。
【裂離の魔眼】の効果は、肉を断ち切るのではなく引き裂く、つまりは繊維に沿って裂くものだから腱を切られて歩けなくなったりということはない。だから時間を掛ければ普通に治すこともできる筈だが、この魔眼の一番凶悪な部分は、あの激痛だろう。そりゃ誰でも、懇願してでも早く治してほしいと思うわ。
そして、国王様もアカリに貴族たちの治癒を頼んだ。国王様に頼まれたら、さっきまで少し嫌そうだったアカリも即決で頷いた。
アカリは国王様のことをかなり気に入っているようだからな。国王様に頼まれたら大抵のことは引き受けるんじゃないかと思う。
それからアカリは、全員を治療して回った。とはいえ魔眼の被害者はかなりの人数居る。アカリは結構魔力を持っているようだが、流石に半分くらいの人数を治癒したところで魔力が尽きた。
その後は、休んで魔力が回復したら治療の繰り返しで、アカリはふらふらになりながら治療を続けた。
「……また魔力尽きた……ダイキ、そこにあるデザート適当に持ってきてー」
「はいはいっと」
少しでもエネルギーを補充するためか、アカリは休憩中にちょくちょく残っている料理を食べていた。アカリはもうあまり動けないから、その度に俺をパシらせてる。いや、もう俺がやることも無いし、いいんだけどさ。
「うまー」
でもまあ、よくこんな惨状の場所でそんな美味しそうに食べれるよな。そういうところは無駄に神経が太いようだ。
そして休んだらまた治療に戻る。貴族たちも可愛らしい少女がふらふらになりながら健気に治療を続ける姿を見て、全員が感謝の思いを強めているようだった。
「うう……ドレスの復元なんかに魔力使うんじゃなかった……」
「そんなことしてたのかよ……」
アカリの治癒は、体を元の状態に復元するというものらしく、それを自分のドレスにも使っていたようだ。
言われてみれば戦闘をした後なのに綺麗な状態だ。とはいえ別に破れていたわけでもなかったから、こうなっては魔力の無駄遣いだったと言える。
「……ユユー……これ別に全員完治させなくても良いんじゃ……あー、半端にとか無理かー……」
アカリはいよいよもって朦朧としてきたようで、ぶつぶつと独り言を言い始める。
だけど使う魔法の質は上がっているのか、魔力結晶の羽根が最初は数枚がひらひらと舞った後に分散して消えていたのだが、だんだんと量が増えて消えるまでの時間も伸びている。
今では一人治療する度に数十枚の羽根を生み出し、辺りにばら撒かれた羽根が暫く床に残っている。
「時間が、経つほど……使う魔力も増える……」
「ユミツキ君、済まないがあと少しだからどうにか頑張ってくれ」
「……王さまー……抱っこして、運んで」
アカリはもう歩くのも辛いようで、あろうことか国王様に運ぶように頼んだ。ぺたりと座り込んだ状態で手だけを国王様へ伸ばす。
国王様は何とも言えない顔をした後、言われた通りにアカリを抱きかかえた。そして次の患者のところへと運んでいく。
あれって、周りの貴族からはどう映るんだろうか。国王様が平民の女の子を抱っこしているわけだが。
周りのようすを見てみると、完治した貴族たちは穏やかな表情でその光景を見ていた。……特に問題はなさそうだ。
そしてようやく、全員の治癒が終わった。アカリは座り込み、その場に居た貴族や兵士から感謝の言葉を言われている。
国王様が今回のことについての話を述べ、全員に解散を告げる。それで貴族たちは、ふらふらのアカリに遠慮して帰って行った。
「アカリさーん、大丈夫ですか?」
「……うにゅぃ……」
「アカリ、帰れる?」
「……ゆー」
アカリはカルテちゃんとリティちゃんに声を掛けられているが、意識があるのか無いのか、返事なんだか分からない声しか出さない。
「この状態で家まで戻るのは難しいだろう。今日は城で休むといい。部屋を用意させよう」
「国王様、ありがとうございます」
朦朧としたアカリの代わりにカルテちゃんが返事をする。リティちゃんも頷いていた。
「ユミツキ君、動けるか? 無理そうなら人を呼ぶが」
「……んぅー……」
アカリはさっきと同じように、国王様に両腕を伸ばした。……これは、また国王様に抱っこして運んでくれということか。
その意図は国王様にも伝わったようで、少しの間があった後、国王様はアカリを抱きかかえて運んで行った。
国王様の肩に預けるようにしたアカリの顔が見えたが、既に目を閉じて眠っているようだった。




