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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第二章 迅雷の勇者
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36 対価

 炎のドームを解除すると同時に、ダイキが紫電を放ち瞬間移動で敵を攻撃した。


 俺も【範囲魔法】で線を適当に引きながら後を追う。分けて使えるように範囲のラインはちょくちょく途切れさせる。一本線にすると一回使ったら消えるからな。


 先程ダイキから聞いた情報によると、一人は、見たものの肉を引き裂く【裂離の魔眼】を使う他には幾つか属性魔法を使える程度。もう一人は高いレベルの剣術を使える近接型。残りの一人は【呪術】と【代償魔法】のスキルを持っている。【代償魔法】は何か追加で対価を支払うことでスキルの威力を上げる効果があるらしい。

 スキルから見て、最後の一人が王さまに呪いを掛けた呪術師だろう。


 今回はダイキがしっかり魔眼使いを引き付けてくれていたから、妨害なく距離を詰めることができた。ダイキは素早く動き、更に瞬間移動を挟むことによって、魔眼使いに一定以上見られないようにしている。


 敵は魔眼使いを剣術使いが守りながらダイキと戦っている。俺の相手は呪術師のようだ。


「お前が国王の呪いを解いた者だな」


 何度も状態復元を使ったからばれたみたい。怪我をここまで早く治せるのは俺の【状態魔法】くらいだからな。予想がつくか。


「なんのことだかさっぱり」


 だけどわざわざ敵に教える必要はない。すっとぼけておく。


「ふんっ、あの呪いを解ける人間は限られる。その異様な治癒魔法なら納得だ」

「そう」


 やっぱり他の人から見ても異様なんだな。

 さて、そろそろ俺も攻撃するとしよう。


「『ブレス』!」


 手から【火魔法】を放つ。呪術師が横に避けたところで、事前に引いておいた範囲から『フレアランス』を飛ばす。

 それに対して呪術師は【土魔法】で迎撃した。その後に続けて【土魔法】で攻撃してくるが、こちらも【水魔法】を【範囲魔法】で規模を広げて防ぐ。


「……どうやってそこから魔法を使った?」

「誰が教えるか!」


 とは言えやつの周囲には範囲を引けていない。離れた場所にある範囲から魔法を飛ばしても有効打にはならなそうだ。

 今はまだ、これ以上範囲のラインを警戒させるべきじゃないな。範囲は引いておくが、暫くはそれを使わずにいることにする。


 ……でも、俺のスキルは基本的に【範囲魔法】で補助して使うんだよなあ。


 【瞳の魔眼】の視界強奪を使えれば一発なんだけど、味方に魔眼持ちが居るせいか目を合わせてこない。まあ、使える手段が増えた今となっては魔眼は切り札として取っておいた方が都合がいい。


 そういうわけで、魔法収縮を使う。指先に小さな範囲を指定して、そこから収縮した魔法を放つ技だ。これなら範囲の指定が相手には殆ど見えないから【範囲魔法】を意識されないだろう。


 今回は建物の中だから熱線だと火事になるかも。【水魔法】を使う。

 呪術師を指で指して、そこから超高圧水流を放つ。試してはいないけど、ウォーターカッター以上の威力があると思う。


 呪術師はギリギリで避けたが、躱しきれずに横腹を掠めた。


「がはっ!」


 衝撃を受けている隙に追撃、再度高圧水流を放つ。


「おっと」


 魔法を撃つ直前、足の肉が引き裂かれてバランスを崩し、狙いが逸れる。また魔眼か。

 状態復元をしながら魔眼使い側を見ると、剣術使いがこちらに肉薄してきていた。


 魔眼を受けた直後の隙を狙ったんだろうが……罠に掛かった。


 剣術使いは俺がさっきから引いていた範囲の一つに触れた。それはリングではなく、ただのラインの範囲だったが、殺すには十分だ。


「空間切断」


 剣術使いの胴体を通っているラインに空間切断を発動する。一本の線が空間ごと剣術使いの胴体に穴を開ける。


「な、に?」


 剣術使いは血を吹き出し、茫然とした声を上げる。何が起こったのか理解できていないようだ。

 穴が開いた場所は心臓部分だ。もう状態復元でもしない限り助からない。


 剣術使いはふらふらと後ずさっていたが、やがて倒れた。


「ここらが潮時か」


 呪術師がそう言いながら倒れた剣術使いの傍に寄る。呪術師は人を呪うことはできるが、治すことはできない筈だ。

 しかし、呪術師はそのまま剣術使いに触れると、魔力を流し始める。


「力の対価を、今ここに納める」


 呪術師がそう告げると、剣術使いの体が光となって消えた。

 そして呪術師が【土魔法】を発動すると、床から勢いよく土がせり出し、大量の土が襲い掛かってきた。


「うわっ、転移!」


 緊急用に用意しておいた範囲に入り、【空間魔法】を発動して姫さまのところまで避難する。


「――え? にゃあ!?」


 姫さまが中に居る範囲に転移したから、転移してすぐに姫さまとぶつかった。転倒して、再び姫さまに被さるような状態になる。


「姫さま、だいじょぶ?」

「……痛い」


 痛いだけなら大丈夫だろう。さっきまで戦っていた場所を見ると、土が溢れて小さな山になっていた。


「悪いアカリ、まさか魔眼使いを捨ててそっちに行くとは思わなかった」


 いつの間にかダイキが隣に立っている。


「まあ、結果的に仕留めれたから大丈夫。そっちはどうだった?」

「あー、魔眼使いのことは電撃浴びせて気絶させたまでは良かったんだが、あれに巻き込まれて置いてきてしまった」

「あの【土魔法】にか。じゃあ魔眼使いがどうなったか分かんないのか」

「気絶した状態であれに埋もれたんなら普通生きてはいないだろうけど、仲間の魔法だしどうだろうな」

「呪術師も埋もれてたから、一緒に逃げたかもしれない」


 その後も、呪術師たちが再び姿を現すことはなく、暫くして魔法の効果が切れて山が消えた。


 そこからは魔眼使いの死体が出てこなく、床に穴が開いていたことから、呪術師が魔眼使いを連れてそこから逃げ出したと結論付けられた。


 敵の脅威が去ったところで、事後処理が始まる。

 辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。最初に魔眼使いの目をまともに見てしまった者は全身の肉が引き裂かれ、そうでない者も足の肉を裂かれて呻いている者が多い。


 俺は急いでリティとカルテを探した。


「リティ―、カルテー」

「こっち」


 リティの声がして、離れたところに二人を発見する。急いで傍に駆け寄る。


「大丈夫? 怪我した?」

「カルテが」


 どうやらカルテは魔眼で足をやられたようだ。すぐに状態復元で治す。


「うう、ありがとうございます。内側を裂かれるとこんなに痛いんですね……」

「どういたしまして。リティは大丈夫だったの?」

「窓を見たけど、前の人で見えなかった」


 ああ、背が低くて被害から逃れたのか。


「リティが小さくてよかった」

「むぅ……」


 取り敢えず二人を見つけて一安心だ。そういえば着ているドレスが汚れたな。対象を拡張した状態復元で綺麗にする。

 体の外に魔力を出したからだろうか。無駄に羽根が舞った。


「て、天使よ。私のことも治してくれぇ」


 近くで蹲っていた男性が俺にそう言ってきた。というかこれ、やっぱ俺が全員治療しないといけないのかな。……つら。

 他人を治すのは結構魔力を使うんだよなあ。魔力、足りないかもしれない。


 まあどっちみち治すことにはなるだろうから、頼まれた通りに治療する。


「ありがとうございます! 天使様!」


 はいはい、天使様ですよー。

 そんなハイテンションでお礼を言ってくるから、周りの人も俺のことを見始める。いや、その前の治療してるときからだな。


 そしてあちこちから、自分も治してくれと懇願の声が聞こえだす。


「アカリ君、いや、今はユミツキ君か。私からも頼む、皆の治療を行ってくれ」


 王さまもやって来て頼んでくる。了解です、王さま。


 その後は、魔力枯渇でふらふらになりながら【裂離の魔眼】を喰らった人全員を治療していった。

 俺の魔力消費による疲労に比例して、魔力結晶の白い羽根の量が増えていった気がする。


 この日以降、迅雷の如き今代の勇者と、勇敢で慈愛に満ちた黒の天使の話が王都全体に広がったのは言うまでもないことだろう。

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