34 アカリ変身
パーティーの時間も近づいて来たから、一旦家に戻ってきた。
リティはまだ工房に居るみたいだから呼びに行く。
「リティ―ただいまー。帰ってきたよー」
「アカリ、おかえり」
リティは既に片付けをしていた。ちゃんと時間内に終わらせていたようだ。
片付けを手伝って、一緒に工房を出る。
「リティはまず、汚れを落とさないとな」
「お風呂、入る」
確かに汗も掻いただろうしその方が早そうだ。
「それじゃあ俺たちはリビングで待ってるから」
リティとは一旦別れて俺はリビングへ向かう。そこにはカルテとダイキを待たせている。
「お、やっと来たか。早く男に戻してくれよ」
「そうだったな」
先にリティを呼びに行くからとダイキを女の姿のままにしていた。【状態魔法】を使って元に戻す。
「あー、やっぱ慣れてる体の方が楽だわ」
そう言ってダイキは椅子に深く座り込んだ。祭りの間普通にしてたけど、慣れない姿でそれなりに疲れたようだ。
リティが来るまで時間が掛かるだろうし、お茶でも入れて待つことにしよう。
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リティの用意ができたら四人で王城へ向かう。
お城の門のところで招待状を見せて、まずは着替えの為の部屋に案内してもらう。ダイキも此処で着替えるらしく一緒についてきた。
「お、王さまと姫さまだ」
通路で王さまと姫さまに遭遇する。何やら二人で話していたようだが、俺たちを見ると一時中断して挨拶をする。
「君たち、よく来たな」
「はい、招待してくれてありがとうございます」
挨拶を済ませたところで、姫さまが何処かへ行こうとするのを王さまが呼び止める。
「待ちなさい。まだ護衛をどうするのか決めていないだろう」
「だけどお父様、お城でのパーティーなのだから一人付けていれば十分でしょう?」
「男性の護衛だけでは不備が生じる。誰か女性の護衛も選びなさい」
どうやら姫さまの護衛についての話のようだ。こういうところで姫さまもトップクラスで偉い人なんだなあと実感する。普通に学園で顔を合わせるから普段はあんまり感じないんだよね。
「国王様、姫様の護衛でお困りなのですか?」
ダイキが話に入る。
「その通りだ。普段ならそこまで気にしないのだが、呪いの件があるからな」
ああ、なるほど。確かに王さまに呪いを掛けた犯人がまだ分かっていない。そんな状態なら警戒しすぎるってことは無いだろう。
「話を聞くに、女性の護衛が足りていないご様子」
「居ないことはないのだが、不満があるようでな」
「うー、だって、今までそんなの居なかったし」
「こいつは慣れない者を傍に置くのが苦手なのだ。直すように言っているのだが」
「でしたら、今日はアカリを傍に置いてはどうでしょう。護衛としての能力は持っていると思います」
え? なんでここで俺が出てくるの?
「ん? だがアカリ君は男だろう。男性の護衛は足りているのだが」
「アカリは女にもなれます。問題ありません」
ダイキはそう言いながら俺の方を見てニヤリと笑った。こいつ、さっき勝手に性別を変えた仕返しのつもりか。
「どういうことだ?」
「アカリ、説明しても大丈夫だよな?」
「まあ、それくらいなら」
スキルはあまり大っぴらにしないようにしているが、性別を変えれるということくらいは別に言っても平気だろう。
「アカリは性別を変えれるスキルを持っているのです」
ダイキは今回の説明に必要な最低限の情報だけを伝えた。一応、俺の意図は汲んでくれたみたいだ。
「それはまた、変わったスキルを持っているのだな。ふむ、確かにそれなら申し分ない。スーとアカリ君も構わないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「え? え? アカリが女になって私の護衛をするの?」
「よろしくね、姫さま」
「あ、うん。よろしく?」
=====
――【状態魔法】状態変化。
早速更衣室に移り、変身を済ませる。
「服がいつにも増してぶかぶかになったな。背が縮んだ?」
服がずり落ちないように手で支えながら鏡を見に行く。そこには、俺の特徴を残した女の子の姿が。
体が一回り小さくなって、髪が背中まで伸びている。ダイキは巨乳になったのに、俺は殆ど無い。
取り敢えず、今の姿を見せに行く。
「アカリ、変身終わりましたー」
自分の声がやけに高い。そういうところにも違和感。
「おおぅ……」
ダイキが何故か動揺して声を上げる。
「どうかした?」
「いや、男に言いたくはないんだが……普通に可愛かったからつい……」
「訊かなきゃよかった……」
言われる側も結構キツイ。恥ずかしそうに言ってくるから余計にだ。
「それで、服はどうすればいいんですか? 用意してもらったのタキシードなんですけど」
「そうだな、新しく用意するとしよう」
そういうわけでまた服を選び直すことに。まあ選ぶのはスタイリストさんにお任せするのだが。この人のこと、スタイリストであってるよね?
サイズを測った後、自分に合った服を用意してもらう。着替えも手伝ってもらうからその人と一緒に更衣室へ。
そして、最初に着るように渡された物は――女物の下着だった。
なん……だと……。いや、考えれば当たり前だった。俺は今、女なんだ。何も可笑しなことはない。
もう深く考えないようにした。考えたら負けだ。
ボケっとしながらも着替えを終えて再び鏡を見る。今の自分は黒を基調としたフリフリが多めの可愛いドレスを着て、頭にも横にリボンを付けてる。
黒のドレスは髪と瞳の色も黒だから暗い印象を与えるかと思ったが、実際着てみると人形のような可愛らしさがある。今の俺が小さいっていうのもあるけど。元々背が大きくなかったし。
とにかくこれで着替えは終わった。皆と合流する。
部屋を移動すると、他の皆も正装に着替え終わっていた。
「うわっ、これアカリさんですか? 可愛らしい女の子にしか見えません」
「今はホントに女だよ。体は」
「似合ってる」
「ああうん、ありがとう?」
おお、いつもよりリティと目線が近いな。それでもまだ高さに差があるけど。
カルテとは……あれ? もしかして身長負けた? いやいやまさかー。
「アカリはだいぶ縮んだなー。俺のときはあんまり変わらなかったが」
確かにダイキは元の服装で大丈夫だったな。体が細くなった分も胸が大きくなってたし……。
「俺のことはユミツキと呼んでくれ」
「いや、ただの苗字読みじゃねえか」
「そうなんだけどさ。普段と同じように呼ばれてると素が出る」
アカリでも女として通用しそうな名前なんだけど、流石にこの見た目で男のような言動は違和感がある。
「アカリさん、ではなくユミツキさんって家名持ってたんですか?」
あれ、そういえばリティのステータスを見たときセカンドネームがなかったな。カルテのも知らない、というより持ってないのか。
やばい、この世界での苗字の扱いが分かんないな。助け舟が欲しくてダイキに目線を送る。
「あーっと、苗字って珍しいのか?」
ダイキは俺の目線には気付いたが、フォローできるほど知識がなかったようだ。それでも質問することでその後に繋げてくれた。
「人族は基本的に貴族が持っているものですね。没落して平民になった元貴族なんかも持っていますけど」
そうだったのか。俺は以前に貴族ではないと教えているし、元貴族の家系というのが妥当か。
「幾らか前の先祖が貴族だったらしい。俺も詳しくは分からん」
「そうだったんですか」
よし、うまくいった。こっそりダイキにサムズアップを送る。
「にしてもユミツキちゃんよ、さっきから普通に喋ってないか? ちゃんと今から言葉遣いも気を付けないと」
「ああ、そうだね」
「それにはまず一人称を変えないとな」
ダイキのやつ、絶対面白がってる。でも言ってることはもっともなんだよな。
「わ、わたし」
うわっ、言いづらい。敬語では男でも私と言うし、問題ない筈なんだけど俺は全く遣い慣れてなかった。
一人称なんて半ば無意識に遣っているから急に変えるのは難しいかも。
「うん、可能な限り一人称を言わないようにしよう」
「そんなこと言ってたら無口キャラになるぞ」
「パーティーの間だけだし、別にそれでもいいかも」
俺の役目は姫さまの護衛だし、喋らなくても平気かな。
ちなみに護衛の俺に求められているのは、何かあったときにその危険を排除することではない。常に姫さまの傍にいて、いざというときに庇えるようにすることだ。
その点で言えば俺は怪我をしても治せるから、この任務は俺に持って来いの仕事だと言える。
「そろそろ時間か。じゃあ俺、じゃなくて私は姫さまのところに行ってるから」
懐中時計で時間を確認して、俺は姫さまのところへ向かった。
そういえば、護衛の仕事をするということはリティたちとはパーティーを楽しめないな。




