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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第二章 迅雷の勇者
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32 引っ越し

 引っ越し当日、俺の荷運びは【空間魔法】で転送してすぐに終わった。

 リティの方もカルテに手伝ってもらったのと、持ち前のパワーで荷物を一度に運びきった。


 今は各自、自室の整理をしている。といっても、家具は最初から置いてあったものを使うから持ってきた服などを仕舞うくらいだ。


「これでよしっと。引っ越し作業は思ったよりもすぐに終わったな」


 俺の方は終わったからリティの様子を見に行く。

 リティの部屋にノックしてから入る。


「リティ、そっちはどう?」

「もうすぐ」


 リティの部屋もそのまま使えた為、前の状態とあまり変化はない。カルテに手伝ってもらっているようだし、待っていればすぐに終わりそうだ。


「手伝おうか?」

「アカリさん、流石に異性に私物の整理はさせられませんよ」

「まあ、そうだよな。じゃあ部屋を出て待ってるよ」


 ここは素直に部屋を出る。そして暇潰しにキッチンに向かった。

 広い料理場で大きな冷蔵庫なんかもあるが、今はまだ中身が空だ。これからは自分たちで料理も作んなきゃな。


「時間はあるし、この後食材を買いに行くか」

《あれ、アカリって料理できないんじゃなかった?》

「それは昔の話だろ。今はもう焦がさずに目玉焼きを作れるぞ」

《えー。それって毎食作れるの?》

「……辛うじて朝食が作れるくらいかな」


 あれ? そうすると食事はどうすればいいんだ?

 前世では父が作り置きしてくれることが多かった。それ以外だとレンジで簡単なやつくらい。


「しまったな。寮から出て暮らす最大の問題に気付いていなかった」


 普段料理をしないからこそ気付かなかった。

 毎食外で食うか? いや、その前にまだリティが料理できるか訊いていないな。


「アカリ、終わった」

「こんなところにいたんですね。広いから探しました」


 ちょうどいいところに二人がやって来た。


「リティって料理できるの?」

「卵焼きなら」


 この答え方は、卵焼きまでならできるという意味だろう。俺と大差ねえ。


「まともに料理できる人がこの家にはいなかったか……」

「アカリさん、料理できないんですか?」

「目玉焼きくらいなら」

「ああ……」


 その言葉でカルテは理解できたみたいだ。


「しょうがない、暫くは外食で済ますか」

「うん」


 せっかくだからお気に入りのお店でも探すとしよう。


「そうだ、リティに渡すものがあるんだ。ちょっと来てくれる?」


 やることも終わったし、蟻の甲殻をプレゼントすることにする。二人を連れて工房へと移動する。


「なに?」

「どこにあるんですか?」

「まだこの場所にはないよ」


 蟻の甲殻は荷物と一緒にまとめて自室に転送したから工房には無い。結構量があって運ぶのも面倒だから此処に再び転送し直すことにしたのだ。


「まあ見てて」


 工房の一角に範囲を引く。それを転送先に設定して【空間魔法】発動。転送元は自室を出るに前に指定しておいた。

 魔力の光が広がり、一瞬後には蟻の甲殻が姿を現した。


「アイアンアントの甲殻だよ。基本的に鉄で出来てるから鍛冶の素材に使えるかと思って」

「ありがと、アカリ」


 リティは俺に感謝を述べたら、早速蟻の甲殻を手に取った。せかせかといろんな部位を手に取っては隈なく観察している。新しいおもちゃを貰った子供みたいな反応だ。喜んでもらえたようで何よりです。


「アカリさんアカリさん、今のなんですか? 光の線を引いたと思ったらピカッとなってアイアンアントの甲殻が出てきたんですけど」

「物質を転移させるスキルだよ。俺の部屋にあった甲殻を此処に持ってくるの面倒だったから」

「軽い理由で常識外れなことをしますね。そんなスキル持ってたんですか」

「まあ幾つか変わったスキルを持っていて、それで最近できることが増えたんだ」


 【範囲魔法】からの【空間魔法】は前からできる条件は整っていたが、【範囲魔法】の検証がろくにできていなくてこのコンボに気付いていなかった。

 最近はスキルの検証も捗っているから、できることも以前と比べて格段に増えている。


「それよりリティ、喜んでもらえたのはうれしいけど、それ弄る前にご飯食べに行こうよ。家には何にも無いからさ」


 蟻の甲殻の一つを持って何処かに行こうとしたリティを引き止める。放っておいたらずっと工房で鍛冶をしていそうな雰囲気だ。

 リティは名残惜しそうにしていたが、やがて手に持っていた甲殻を置いてこっちに戻ってきた。


「どこ行く?」

「そうだなあ、俺は何処でもいいけど」


 特に希望は無かったので、街に出てから入る店を決めることにした。


 それから適当な店で夕食を済ませてからカルテとは別れ、今日から住む館へと戻ったわけだが、家に帰ってからはリティが工房に籠りっきりになってしまった。

 風呂の時間は様子を見に行って伝えたけど、凄い熱中していてなかなか風呂に入りに来ない。


 俺が寝る時間になって、流石に止めないといつまでも作業を続けると思い、少々強引に工房から出して風呂に入るように言った。


 ……意外とリティも一人暮らしできない人なのかもしれない。



=====



 今日は勇者歓迎パーティー当日。王城でのパーティーは夕方からなので、日中は学校も休日だから自由だ。

 街の方でもお祭りをしているらしいから、パーティーまではそっちを見て回ってもいいかもしれない。


 取り敢えず、目が覚めたばかりだから時計を確認する。うん、もうすぐお昼だな。

 部屋を出て一階へ降りる。リティは……工房か。


 工房の扉を開けてリティを探す。鉄を叩く音がしたからすぐに居場所は分かった。

 どうやら火炉に火を入れて鉄を鍛えているみたいだ。


「リティーおはよー」


 リティは俺の声に反応して作業を止める。


「アカリ、起きた?」

「ついさっきね。リティはもしかして朝からやってるの?」

「うん、調子、確かめてた」


 工房を使えるようになって張り切っているみたいだな。


「パーティーは夕方からだけど日中はどうする? 祭りもやってるみたいだけど」


 そう訊くと、リティは叩いてた鉄を見ながら黙り込んだ。鍛冶を続けるかで悩んでいるみたいだ。


「今日は、こっち」


 結局リティは鍛冶を選んだ。この国に来てからずっとやれていなかったみたいだけど、余程やりたかったんだな。


「分かった、じゃあ俺は街を見て回ってるよ。そうだ、もうすぐお昼だし屋台で何か買ってきてあげるよ」

「ありがと」


 そういう訳で俺は家を出た。

 外はいろんなところに屋台などの出店があり、普段より人も多く賑やかな様子だった。


 取り敢えず食べ物を買いながら道を歩く。祭りというだけあって広場などに催し物があり、ただ見て歩くだけでも結構楽しい。


 ある程度見て回り、昼食の時間になったから一旦家に戻る。


「リティー、ご飯買ってきたよー」


 工房の入り口から声を掛ける。少し待ってリティが来たら、一緒にダイニングに移動する。


「いろいろ買ってきたから好きに食べていいよ」


 二人で席に着き、食べようとする。おっと、その前に。


「リティ、手が黒いよ。先に洗ってきたら?」


 さっきまでの作業でリティの手が汚れていた。

 リティも自分の手を見て、コクリと頷いて水で洗いに行った。


 少ししてリティは戻ってきたが、まだ自分の手を見て微妙な表情をしている。


「落ちない……」

「あー、洗剤使わないと駄目かな?」


 家にあるものといえば、体を洗う石鹸とシャンプーくらいだ。風呂場に行けば石鹸を使えるけど、キッチンの水道にはまだ置いてないな。

 今風呂場まで行って汚れを落としても、どうせまたご飯の後に同じことをして汚れるか。


「じゃあこっち来て。食べさせてあげる」


 その方が楽だろう。俺は隣の席をぽんぽんと叩いた。

 リティも素直に言われた通り椅子に座る。そして体をこっちへ向き直した。


「どれがいい?」

「じゃあ、これ」


 リティが指差したものを手に取り、包みを開けて食べさせる。俺も同じものをもう一つ取って食べ始める。


「あ、美味いなこれ」

「おいしい」


 それからはお腹が膨れるまで二人で食事を続けた。

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