30 使い道
朝、目が覚める。
まずはすぐ横にある懐中時計を確認。よし、今日は寝坊じゃないな。
体を起こす。ねむっ、そのまま上半身が前に倒れて半分うつ伏せになる。
まだ脳が半分眠っている感じだ。でもここで起きなきゃ遅刻する。
ずるずると体をずらしベットから足を降ろす。再び体を起こして靴を履き立ち上がる。
「うう、ねむ」
今日は寝坊していない分起きるのが辛い。
寝ぼけ眼のまま朝食を食べに部屋を出る。
階段を降りて食堂へ。そして財布を忘れていることに気付く。
「ああ、財布……」
寮の食堂は毎回食券を購入する必要がある。お金が無いと食べれない。
のろのろと部屋に戻り、鞄を取る。……あ、部屋着のままだった。
別に寮の中で部屋着なのは構わないが、時間的に朝食を食べたらそのまま寮を出たいからこの段階で身支度を整える必要がある。
着替えて鞄を肩に掛けたら再び食堂へ。今度こそ朝食をもらう。
席に着いてゆっくりと食べ始める。まだ体も目覚めていない感じで、唾液の分泌も遅い。
飲み物で流し込むように食べていると、正面の席に人が座った。このくすんだ金髪はディーロ先輩だ。
「ディーロせんぱい……おは……」
「おはよう。ちゃんと言い切ろうな」
ディーロ先輩は苦笑いをしながらそう言うと、自分の分の朝食を食べ始める。
「今日はまた、随分寝惚けてるね」
ディーロ先輩とは俺が朝食に間に合ったときにはよく会う。まあ皆食べる時間あまり変わらないからな。
「今日は、寝坊しなかった分早かったんです……」
「普通に起きるとそうなるのか。難儀な体質だね」
寝てる時間も問題ない筈なんだよなあ。8時間以上は寝てる。逆に寝過ぎなのかな。
「そうだ……俺今度……すぅ……です……」
「まともに喋れてないよ」
あれ、何言おうとしてたんだっけ。もう駄目だ、今日は一段と眠い。
会話は諦めて食事に専念することにした。
=====
そんな状態でまともに授業を聴ける筈もなく、気付いたら授業が終わっていた。
「アカリ、ご飯行こ」
「んんぅ、ユユ、今何時?」
「アカリ?」
「アカリさん、まだ寝惚けてるんですか?」
ん?
「あれ? 俺今なんて言ってた?」
「ユユ、今何時かって言ってました。時計ならアカリさんが持ってたじゃないですか」
「そうだった」
無意識にユユの名前を出してたか。気を付けないとな。
というか、授業が終わった直後だから時間は時計を見なくても大体分かる。
「それより、ご飯買おう」
「ああ、そうだった購買行かないと」
席を立ち教室を出る。
「アカリさん、財布持ちました?」
「ん? ……あっ」
教室に忘れた。今閉めたドアを再び開けて教室に入る。
鞄から財布を取り出したところで、前の席、つまりはカルテの席に何か置いてあるのに気付く。
「財布だな」
「……あっ」
カルテも財布を忘れていたようだ。俺に注意したのに。しかも鞄から出して机に置いたうえで忘れている。ボケ方が俺より酷いんじゃないか?
「そういうときもありますよっ。さあ、購買に行きましょう!」
流石に恥ずかしかったようだから突っ込むのは止めておこう。
「リティは財布持った?」
「うん」
リティはポケットから財布を取り出す。流石にこれ以上、天丼はないか。
=====
「あの館、いつからでも使っていいってさ。いつ引っ越す?」
購買で昼食を買って、教室で食べながら話す。
購買で人混みに揉まれて、ようやく意識が覚醒した。あそこはいつも戦場だな。
「アカリは?」
「俺はいつでも大丈夫だな。寮を引き払う準備が終わり次第ってところか」
「わたしも、それくらい」
じゃあ引き払う手続きが終わればすぐに引っ越せるかな。
「それなら早いうちに準備しよう。俺は放課後に寮に関する手続きをするから、リティもやっといて」
「わかった」
そういえば手続きって何処ですればいいのかな。学園の施設だから学園の事務か? それとも寮を管理している寮長のところ? ……まあ、総当たりでいいか。
それと、今日はもう一つ訊くことがあった。
「二人は今度の休み暇?」
「うん」
「私も何もありませんけど、どうしたんです?」
「その日にパーティーがあるんだ。一緒に行かない?」
「なにの?」
「勇者歓迎パーティー。王城でやるんだって」
「お城?」
「え、王族主催のパーティーに参加するんですか?」
「そう、一緒に美味しいもの食べに行こう」
「そんなところでは緊張して味が分かりませんよ」
主役のダイキや王族の姫さまはその日は忙しいだろうから、二人には是非とも一緒に来てほしい。
「服がない」
「正装はあっちで用意してくれるってさ」
「そこまでしてくれるんですか?」
「ああ、俺も正装を持ってないと言ったら用意してくれることになってね。せっかくだから皆で行こうよ」
「正装ってことはドレスですかね」
カルテがちょっと食いつきを見せた。
「たぶんそうだと思うよ。王城で用意されるからきっと高価なドレスだろうな」
「私、ドレスとか着たこと無くてちょっと憧れてたんです」
「じゃあ参加ということで」
「え!?まだ行くとは言ってませんよ!」
よし、カルテ陥落。
「リティはどう?」
「うん、せっかくだから」
リティも来てくれるようだ。
「じゃあ時間があるときに一度服の準備に王城まで行くから。今日の放課後……は退寮手続きをしたいから、明日の放課後はどう?」
「平気」
「私はまだ行くとは……うう、大丈夫です」
カルテはまだ抵抗していたが、すぐに折れた。王族のパーティーということで萎縮していたみたいだが、行ってみたい気持ちが勝ったようだ。ゴリ押ししたのもある。
「単位取れたから、早めに行ける」
いつの間にかリティも【火魔法】の単位を取得したみたいだ。俺とカルテは既にそれぞれ一つは取得してるから、自由実技の時間に全員で行けることになる。
「じゃあ引っ越しの準備もしたいし、明日は魔法実技が終わったら王城に向かうか。カルテも自由実技不参加で大丈夫?」
「はい、私も大丈夫です」
今日は退寮手続き、明日は正装の用意をしてその二日後にパーティー。
今週はだいぶ忙しいけど、いつ引っ越そうか。
寮に住んでいるから俺もリティも家具とかの大きな物はないんだよな。引っ越し作業にあまり時間はかからないか。
なら今日の手続きによるけど、明後日辺り引っ越しできそうかな。まあ、明日またリティと相談して決めればいいか。
=====
放課後、退寮手続きを終えた。
寮長に伝えたら必要な書類を渡されて、必要事項に記入したら細かい説明を受けたら手続き終了だった。
寮の部屋は月単位の契約だから今月の家賃は払ったままになるけど、それでいいなら手続きが終わった今、いつ部屋を出ても大丈夫らしい。
「この二段ベッドとももうすぐお別れだな」
一人なのに二段なせいで無駄に虚しさを感じるこのベッドともおさらばだ。
《アイアンアントの甲殻がそこに放置されてるけど、どうするの?》
ユユに言われて部屋の端に積んである蟻の素材に視線を向ける。結局未だに冒険者ギルドへ持って行っていない。
「あーあれな、鉄で出来てるしリティにあげようかと思ってた。工房で使う素材にちょうど良さそうだし」
《この蟻の甲殻を女の子にプレゼントするの?》
「そういう言い方をされると俺のセンスが疑われるな」
でも確かに、女の子がこんな蟻から剥ぎ取った鉄の塊を貰ってうれしいか?いや、リティなら喜びそうだな。そもそも喜ぶと思ったからあげることにしたんだし。
《でもちゃんと使い道考えてたんだね》
「まあ実を言うと、こんな重いのギルドまで運ぶ気が起きないから家で使っちゃおうという考え。引っ越しには【空間魔法】を使おうと思ってるから」
リティの荷物も転送してあげたいけど、女子寮に入ることができないから断念した。
「取り敢えず、すぐに引っ越せるよう荷物を整理しておくか」
といってもこの部屋に来て新たに増えたものは蟻の甲殻くらい。革袋に服を詰めたら終わった。どうせ一纏めにしたら転送するしな。
やることも済ませたから後は、風呂に入っていつも通り過ごすことにした。




