28 家を貰った
二日後、早速王さまからお呼びが掛かった。
「はい、これで大丈夫な筈です」
「感謝する、アカリ君」
今日は王城の客室のようなところだ。呪いを受けてすぐだったから、寝込む程ではなかったみたいだ。
「俺は治すことはできますが、呪いを防ぐことはできませんけど」
「効果が無いことが分かれば、呪術師も諦めるだろう。その前に捕まえられるのが一番なのだがな」
今のところ手掛かりはないみたいだ。呪いを掛ける際には、何らかの接触や相手の血や髪の毛を媒体にすることが多いらしいが、そういったところから探っても成果が上がってこないとのこと。
「夕食の時間に呼び出して悪かったな。まだ食べていないなら、よかったら此処で食べていかないか」
「え? いいんですか?」
この間食べた食事はとても美味しかった。お言葉に甘えることにする。
すぐに食事の準備がされて、食堂へと向かう。他の王族と一緒らしく、姫さまや他の人もやってきた。
「あれ? アカリじゃない」
「姫さま、さっきぶり」
姫さまとはさっき魔法の授業で会ったばかりだ。
「アカリ君も一緒に食事をすることになった」
「お父様が誘ったの?」
「そうだ」
「普通、王族との食事なんて緊張するから喜ばないものなのに」
そう言って姫さまはこっちを見る。
「……貴方は嬉しそうね」
「美味しいからね」
それに、寮で食事をすると大体一人で食べることになる。
「ハハハ!アカリ君ならそう言うと思って誘ったのだ」
全員が席に着いたところで食事を始める。席に着いたのは王さまと姫さまともう一人、俺より年上の背の高い女性だ。ちなみにその背の高い女性には猫耳と尻尾は生えていない。
「あら? この子は?」
その女性が俺のことを訊いてくる。結構ハスキーな声だ。王さまと同じ金髪黒目で美形の顔立ちをしている。
「……そういえば、今日はお前が居るんだったな」
王さまはその女性を見ると、何故だか微妙そうな顔をした。
「ゼネガスト兄さん、家族以外が居るんだから普通の格好をしてよ」
「今初めて聞いたわよそんなこと。あらかじめ言っておかないほうが悪いわ。それに、私は城の中では常にこの姿でいるつもりよ」
兄、さん?
改めてその女性?に目を向ける。魔眼で補正された高い視力が喉仏を捉えた。
どうやら男性だったようだ。普通に美人さんだから違和感が無かった。
「はあ、まあいい。この少年は私の呪いを解いてくれたアカリ君だ。今日もそのことで来てもらったから食事に誘ったのだ。それでこの女装趣味は私の愚息であるゼネガストだ。服装については他言無用で頼む」
「分かりました。アカリです、よろしくお願いします」
「貴方が父様を治癒してくれたのね。本当危ないところだったから、感謝してるわ」
「恐縮です」
「全然解呪できなくて解呪できる治癒士をあちこち探し回ったのよ。その年で凄い腕前なのね」
ゼネガスト様にもお礼を言われた。にしても、そんなに危険な状態だったのか。普通の治癒士じゃ解呪できない、正体もばれずに命を脅かす呪いか。恐ろしいな。
けどまあ、俺には効かないし即死じゃないのなら俺の知り合いも治すことができる。普通だったら目を付けられるだけで危ないが、俺には問題ない。何事も相性だな。
「怪我や病気は大体治せるので、何かあったら呼んでください」
「あら、頼もしいわね」
「怪我も治せるのか」
自称治癒士としての営業活動をしておく。此処にいる人達には死んでほしくないからね。
=====
王さまから呼び出しを受けた次の日の昼、今日はリティに伝えることがある。机を囲って昼食を食べながら話をする。
「リティ、俺と一緒の家に住まない?」
「?」
リティに訊くと、小首と傾げられた。
「いきなりどうしたんですか?」
一緒に昼食を食べていたカルテにもそう言われる。唐突すぎたか。
「やっぱ俺には一人で暮らすことはできないと改めて思ったんだ」
「起きれないから?」
「起きれないから。それでリティも鍛冶ができないとか前に言ってたよね。なら工房があるような家に一緒に引っ越せばいいのではと」
「うん、工房欲しい」
「リティさんは分かりますけど、アカリさんの理由はもう少し自力でなんとかしてほしいと思いますけど」
「まあ俺も、寮ではできないことが結構あるし」
スキルの練習は、やはりあの部屋では手狭になる。それに魔物の素材を転移させて持ち帰るにも、寮の部屋では限界がある。
「でも、家が無い」
リティも工房付きの建物は欲しいようだけど、家が無ければどうしようもないということらしい。
だけど俺もなんの当てもなく提案した訳ではない。
「家はパパッと用意してもらいました」
「いや、そんな簡単にいくものなんですか? それに用意してもらったって誰にですか」
王さまにです。
治療の報酬で頭撫でてもらった後に、ちゃんとした物を要求してくれと言われたから工房付きの建物が欲しいと伝えたんだよな。
そしたら昨日に、学園の近くに今は使われていない館があるからそこはどうかと言われた訳だ。
「お偉い人に用意してもらった」
わざわざ王さまと言ってビビらせる事も無いだろう。詳しくは想像に任せる。
「まあ、俺もまだその建物を見てないから、よかったら放課後に一緒に見に行かない?」
リティも行くと言ってくれたので、放課後にそのお館へと向かうことになった。
=====
授業が終わり、リティとついでに見学に来たカルテと合流する。
そして王さまから貰った、館への地図を見ながら道を進む。
「着いた。たぶん此処だな」
「え? このお館ですか?」
「大きい」
そこは学園から徒歩で10分程度のところにある、貴族の邸宅としても通用しそうな立派な建物だった。
実際この周辺は貴族街の端の方で、近くには他にも貴族の邸宅がある。ここら辺にあるのは下級貴族の邸宅や、別荘などだろうけど。
念の為地図を再確認するが、間違いはない。
「取り敢えず中に入ってみるか」
柵を開け館の敷地に入り、建物の扉を事前に貰っていた鍵を使って開ける。
使われていない館と言っていたが、きちんと管理されていたようで館の外も中も綺麗な状態だ。
「随分立派なお館ですね。アカリさん本当に此処に住むんですか?」
「一応そうなるな」
正直俺もここまで立派な建物を用意されるとは思っていなかった。他に欲しいものと訊かれてちょっと思いついたから言っただけで、もっと普通の家を想像してた。
でも考えてみたら王族が用意する建物って言ったら、やっぱりこのくらいの館は出してくるのかな。
それから部屋を順番に見て回ったが、大きな風呂や立派なオーブンまであるキッチンなど、寮以上に快適に暮らせそうな設備だ。ちなみに湯沸かしやオーブンは魔力を使う魔道具となっている。
前に住んでいた人の家具がある程度残っているようで、寝室にはベッドもあり今すぐ住めそうだ。
そして、リティにとって一番重要な部屋、工房へ向かう。金属の鍛錬なども行う為に部屋は建物の端にあった。
工房の中に入ると、如何にも鍛冶屋の工房といった部屋だった。けれど、実際にいつも使われている工房より断然こっちの方が綺麗。
いろいろな機材が並んでいるが、中には詳しくない俺が見てももの凄く高そうなものまである。
「この工房は前に住んでいた人の趣味だったらしいよ」
王さまに軽く聞いた話によると、前は貴族が住んでいたが、その貴族が鍛冶や細工の魅力にどっぷり嵌まって自分の家に工房まで造ったらしい。
リティは工房の中を一通り見て回った後、そこにある機材を見るためにちょこちょこと動き回り始めた。
「ここに、住んでいいの?」
リティは火炉の中を見ながらそう訊いてきた。それだと炉の中で暮らすみたいだ。
「館の方にね。此処に住むなら工房も自由に使えるよ」
「住む」
即決。
リティは目を輝かせて嬉しそう。喜んでもらえたようで何よりだ。
「よし、じゃあこの館を使うということで王さまにも伝えとくか」
ホント良い家を用意してくれたな。立地もいいし工房付きという条件もクリアしている建物が、こんなすぐに用意されたのは運も良かったのだと思う。工房がある使われていない館があったのは偶々だろうし。
「あれ? なんで国王様が出てくるんです?」
あ、口滑らした。
まあ別に隠している事でもないのだが、俺が王さまとここ最近いろいろやり取りしたことを教えていないから、わざわざ言う事もないかと思って流していた。
「実は此処、王さまに用意してもらったんだ」
「国王様に!?え、アカリさんって貴族とかじゃないんですよね?」
「普通の平民だよ」
「じゃあ、いったいどうしたらそんなことになるんですか……」
「大丈夫なの?」
おっと、リティまで不安にさせてしまったようだ。
「大丈夫だよ。最近仕事で王さまと関わってね、仕事の報酬として用意してもらったんだ」
「しごと?」
自称治癒士、創業四日目。
「自由に生きる自営業」
「なんですかそれ……」
「あ、ついでにカルテも此処で暮らす? 思った以上に広かったし」
「そうですね……それは魅力的な提案ですけど、私は王都に家族が居まして、家が学園とは遠いから寮に住んでますけどそれを突然引っ越すというのは、納得してくれないと思うので遠慮しときます。遊びには来てもいいんですよね?」
「ああ、もちろん」
じゃあやっぱりリティと二人暮らしか。
……広すぎて建物を管理できる自信が無いな。掃除が大変そう。




