26 対象拡張
今日からは別な属性の授業を受けることにする。
四大属性で残りは土、水、風。【範囲魔法】との相性も考えた結果、高圧水流という言葉が頭に浮かんだため【水属性】の授業にした。
この授業にはカルテが居る筈だな。
今日の昼食はカルテが財布を寮に忘れたため、財布を取りに戻るならもう寮の食堂で食べようということになった。そのためグラウンドには一人で向かう。
グラウンドに着き、カルテを探していたら先にスーロメルト姫さま(名前覚えた)を見付けた。どうやらまた姫さまと授業が被ったようだ。
でもなんだかピリピリした雰囲気を纏っている。初対面のときといい、近寄りがたい感じがするな。
少し躊躇っていると、姫さまも俺に気付いて近寄ってきた。
「もしかして、貴方もこっちに来たの?」
「そう。また同じだね」
「はあ、変な偶然ね」
気が抜けたといった感じで、姫さまから肩の力が抜けた。なんだったんだろ。
結局カルテを見付けることができずに授業が始まる。結構な人数だからそういうこともあるか。
【火魔法】の授業のときと同じように最初は、スキルを習得して発動させるところから始める。だけど今回は、この練習をするのが俺と姫さまだけだから補助用の魔道具が配られる。
【火魔法】のときは俺のところまで回ってくる前に、自力で習得したから使わなかったんだよな。
この魔道具は元々は【水魔法】のスキルを持っていなくても、これに魔力を込めるだけで【水魔法】が使える代物だ。それを使用者が魔法使用で負担する割合を自由に調節できるようにして、スキル習得のトレーニング用にした物らしい。
段々と負担を増やし、最後には魔道具無しで魔法を発動できるようにするということだな。
授業の間は、それを使って黙々と練習をした。姫さまとは同じことをやっている為、近くで競うように練習することになる。
その日は、二人ともスキルを習得できなかった。
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次の日、午前の授業が終わり、購買で買った昼食をリティとカルテと一緒に食べる。
「俺昨日、水属性の授業に行ったんだけどカルテを見つけれなかったよ」
今朝は時間ギリギリに登校して話す時間が無かったから、昨日のことを今話す。
「あ、すいません。私一昨日から別な属性に移動しました」
「えー、聞いてないんだけど」
そもそも居なかったのかよ。
「まあ、しょうがないか。にしてもかなり早くに単位取れたんだな」
「【水魔法】の派生属性である【氷魔法】を元々持ってますからね。元からできている部分が多くてすぐでした」
俺も早く単位を取れたのは魔法系スキルを多く持っていて、魔力の扱いに慣れていたのが大きいと思う。カルテは更に同じ系統の属性魔法を先天的に持っていたから、特に苦労しなかったみたいだ。
「でも、今は【土魔法】を習得しようとしてるんですけど、なんか全然できる気がしないんですよね」
「もう既に2属性持ってるからか?」
「みたいです。一応四大属性は全部試してみますけど、正直無駄に終わりそうです」
属性魔法はその人の属性との相性もあるが、基本的に既に別の属性を持っていると新たに習得しづらくなる。カルテの場合、魔力の質で氷属性が強すぎて水はともかく他の属性魔法は難しいと前に言っていた。
俺も【水魔法】の授業を受けても習得できない可能性があるんだよな。
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「――『ウォーター』」
手をかざした先にコップ一杯程の水が生成される。この魔法は大気中の水分を集めて水を作る魔法だ。魔法で作られた水とは違い消えて無くならない為、ちょっと水が欲しいときに便利。
俺は今、魔道具の補助無しで【水魔法】を発動した。問題無く習得できたな。
「ぐぬぬ……」
姫さまが隣で悔しそうにしている。別に競ってたわけではないけど、進むペースが大体同じだから自然と姫さまが張り合うようになっていたんだよな。
「姫さま、お先っす」
「ぐぬぅ」
声を掛けたらますます悔しそうにする。何か言った方がいいかと思ったが、余計だったみたい。
「私だって、もうすぐできそうなのよ」
そう言うと、再び練習に戻った。
そして、それから10分程で姫さまも魔道具無しで『ウォーター』の発動に成功した。
「おお、おめでとう」
「ありがと。でも次は負けないわよ」
別に競ってないって。
授業の残りの時間は『ウォーター』の練習を続けて過ごした。
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次の日の昼、ゆっくりと起床した俺は、朝食兼昼食を寮の食堂で食べた後にダイキのところへ向かう。
今日は学園は休み。曜日で言う日曜日だ。
ダイキの居る旅館に着き、自分の名前を告げて呼び出す。少しするとダイキがやって来た。
「だ―いきくん、あーそびーましょ」
「ようアカリ。取り敢えず此処を出るか」
言われた通りに旅館から出る。
「こないだ俺がこの国の国王に会うって言ったよな」
「あー、言ってた気がする」
「そのことでちょっと訊きたいことがあってな」
話がしたいらしいので、近くの喫茶店に入る。注文したジュースとクッキーが来てから、ダイキはその質問の内容を口にする。
「ここ最近、国王様は体調が良くなかったらしいんだが、実は国王様の容態が結構やばくなってきたみたいなんだ。医者にも原因が分からないらしくて、『勇者』である俺に話が来たんだけど……聞いてる?」
「もご、ひいへるひいへる」
クッキーが美味しくて夢中で頬張っていた。でもちゃんと聞いてはいたよ。
王さまの体調が悪かったのは俺も知っている。少し前にそれで臥せっている隙に大切な宝剣を盗まれていたしな。その後、ある程度持ち直したようだったけど、今は更に悪化してたのか。
「ならいいけど。それで国王様を鑑定してみたんだけどさ、『呪い』って出たんだよ。でも結局それを解呪する方法が見付からなくて総出であちこち調べてる最中なわけ。だからアカリにも何か役に立ちそうな情報を訊きたいんだけど、何かないか?」
「んー、もぐもご」
「飲み込んでからでいいから」
「ごく。呪いかー」
よく分からないな。
でも、ユユなら何か知ってるかも。小声で「ユユ、知ってる?」と訊いてみる。
《そだねー、呪いを掛けて敵の能力を下げる魔物もいるけど、王さまが受けた呪いなら、偶然呪いの掛かったものを手にしたか、特殊スキルとかでの遠隔攻撃が考えられるかなー》
なるほど。取り敢えずユユが出したものを訊いてみるか。
「呪いのアイテムとかは?」
「身の回りの物は一通り鑑定して調べた。特にそういうのは無かったな」
「となると、王さまを良く思わない人からの攻撃になるのかな」
「ああ、その線が強い。けれど一国の王に気付かれずに、あそこまで強力な呪いを掛けるのは難しい。それを可能にする強力なスキル所有者がいるんだろうな」
俺にはそんなスキルを持ってる人に心当たりは無いし、呪いをなんとかすることもできないから役に立てそうもないな。……ん? 待てよ。
「呪いだけならなんとかできるかも」
「お、本当か」
「ああ、ちょっと試してみたいことがあるんだけど、実験台になってくれる?」
「いいけど、危ないことじゃないよな?」
「たぶん大丈夫」
「たぶんって、おいなんでナイフを出すんだよ!?」
「いや、ちょっと怪我してみてくれる?」
「危険じゃねえか!」
驚かしたようだけど、指先を少しでいいと言ったら了承してもらえた。
小さな切り傷を付けた後、ダイキに触れて魔力を流す。【範囲魔法】の接触による範囲指定だ。これを使って今からダイキに【状態魔法】を使う。
【状態魔法】は本来、自分にしか使えない。【範囲魔法】で範囲のラインを引いてもそれは変わらない。
しかし、この接触による範囲指定だとスキルの効果範囲を拡張することができ、この方法だと【状態魔法】の効果対象も広げることができる。人に試したことは無かったけど、ちゃんとできるみたい。
――【状態魔法】拡張、状態復元。
無事発動したら手を離す。範囲拡張は対象の全体に魔力を通さないといけない分、結構魔力を使うな。
「終わったのか?」
「ああうん、切ったところ出してみて」
言われて指の切ったところを前へ出す。ぷっくりと血が出ていたそこは、血も傷も消えて元通りになっていた。状態復元は多少の流血なら出た血も消えるんだよな。バッサリ斬られると残るけど。
「……傷が消えてる」
「成功だな。このスキルを使えば王さまも治療できると思う」
「なるほど。でも、他人の魔力が流れてくるのはなんかこう、ムズムズする」
「ふうん、それは知らなかったな」
そんな感覚があるのか。でもまあ、治療には問題無いだろう。
「それなら早速で悪いが、今から王城へ一緒に来てくれるか? 早いに越したことはないし」
「分かった」
「にしても、お前のスキルは知るほど謎だな。どのスキルを使ったんだよ」
「それは企業秘密で」
そんな簡単に何度もスキルを教えたりはしない。
それから俺たちは、残りのジュースを飲み干したら王城へと向かった。




