23 軟派
寝坊した。
今日も普段通りに起きたと思ったら既に午後だった。
買ったばかりの時計を確認して焦ったね。15時過ぎてるの。半日以上寝てる。
学園二週間目にして既に何度か遅刻しているが、流石にこんなに遅れたことはなかった。これから行ってもこの時間は自由実技だから何か習うことは無いな。さぼろ。
身支度を済ませたら学園ではなく街へと向かう。
《何処に行くの?》
「特に決めてないな。ああそうだ、ダイキのところに行ってみるか」
ダイキはこの間ご飯食べた旅館にそのまま滞在しているらしい。
それにしても、ユユも流石にこの時間は起きていたようだ。
「起こしてくれても良かったんだよ?」
《アカリより先に起きるの久し振りだったからねー。寝顔見てた》
「あれ? 俺が見ているものしか見れないんじゃなかったの?」
《正確にはアカリの周囲だよ。だからアカリを見ていることもできるの》
そうだったのか。それじゃあ本当にいつでも俺のことを見ることができるわけか。
「俺の背後とか見ることもできるの?」
《できるよー。そんなに遠くは見れないけどね》
「おお、じゃあいざというときはユユに教えてもらえば死角は存在しないな」
《ユユ様にまかせなさーい》
ゆるーい感じだが、実際そうなったら頼りになりそうだ。
ダイキの居る旅館に着く。中へと入り受付に訊くとダイキが呼ばれて出てきた。
「アカリか。ちょうど暇しててどっか行こうと思ってたんだ」
とのことで、一緒に街へと出ることにした。
「ダイキは何かすることあるの?」
「明日、此処の国王様と会うことになってんだけど、今日は暇」
「王さまに謁見するのか。流石『勇者』」
「やめてくれよ、この世界では普通に称号だけど、同じ知識を持っているやつに勇者と言われるのは恥ずかしい」
自分でも『勇者』と名乗ってたけど、やっぱり恥ずかしい気持ちはあったんだな。
「それよりさ、アカリもすることないんだろ。なら適当にナンパでもしようぜ」
「え、何お前、そういうキャラなの?」
チャラ男?
「いや、そうじゃないんだけどさ。まだ俺が『勇者』だって此処では広まってないだろ? やっぱ知られてると対応が変わってくるからさ、今のうちにいろんな人と話してみたくて」
「そういえば今はこの世界を見て回ってるんだっけ」
「そうそう。まだそんなに見てないけど、普段の姿を見たいわけよ」
「まあ、そういう目的なら構わないけど」
ならせめて、言い方を変えてくれよ。ナンパって。
二人でオープンカフェへ入り、飲み物を購入してテラスの席に座る。俺はお腹が空いてたから軽食も頼んだ。ここで通りを歩いている人の中から目星を付けたら、近づいて声を掛けるという寸法だ。
「程々に頑張ってくれ、チャラ男君」
「アカリも頑張ってくれよ。てか、お前も服装だけならそれなりにチャラいぞ」
「え、そうなのか?」
自分の服を改めて見てみる。店で着心地を基準に選んだシャツとズボンに上着。それと革で出来た靴と鞄といった服装。
「カジュアル系統だし、結構緩い感じで着こなしてるよな。それでいて値段高そうな生地だし」
「締め付ける服は好きじゃなくてね。店で一番手触りの良い生地から選んだから確かに他と比べて高かった気もする」
思えば今の服は大金が入った直後の買い物で買ったものだから、懐が緩くて値段を気にしていなかった。鞄と靴も値段より好みで選んだし。
「顔も幼さがあるが整ってるし、お前が協力してくれればナンパの成功率が上がる筈!」
「この世界の住人と話をするのが目的なんだよな?」
「メインはな、でも普通にナンパとしても成功させたくはある」
「結局ただのナンパじゃないか」
「一回やってみたかったんだよ」
別に常習犯ではないのか。なんかもう、あちこちでやってるイメージだったわ。
「よし、あの娘いってみるか」
ダイキはそう言って立ち上がった。なんだかんだで面白そうだから俺も一緒に向かう。
ターゲットは近くの喫茶店の入り口でメニューを見ていた少女。歳は俺らと同じくらいだろう。
「ねえそこの君~俺らそこのカフェで休んでたんだけどさ、よかったら一緒にお茶しない?」
見事なテンプレ。もう既にダイキはナンパ師としてのキャラを作っているようだ。ホントに初めてかよってくらいナチュラルに話し掛ける。
「え、私ですか?」
「そうそう、実は俺最近この王都に来たばっかなんだよね。だからここでの話を聞かせてほしくて。お礼に一杯奢るからさ」
即座に理由とメリットを提示する辺りはもう流石としか言えない。ホントに初めてかよってくらいナチュラル。
「で、でも私の話なんかじゃそんなに役に立たないと思います」
「そんなはことない。国や町によって住んでる人の違いは出てくるし、俺はそんな人の話を、できれば君みたいな可愛い子から聴けたらと思うんだ」
そう言ってダイキは少女の手を取った。少女は目を真っ直ぐに見つめながら話すダイキから、恥ずかしそうに俯いて目線を逸らした。耳が赤くなってるな。
「……どうかな?」
最後にダイキは少し不安を帯びた声で訊ねる。
少女は目線を下げたままだったが、やがてコクリと頷いた。
「ありがとう! じゃあ早速あそこのカフェに入ろうか」
声を明るくしたダイキは、少女の手を握ったまま最初に居たオープンカフェに入っていった。
……俺、要らなくね? ホントに初めてかよ。
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少女は学園の2年生で先輩だった。歳は俺と同じ16歳(俺は前世合わせて)。この時間はまだ自由実技の授業中の筈だが、自由実技の時間は、2年生になると各自研究とかするようになって、かなり自由に行動してよくなるらしい。1年次でも単位さえ貰えば実技は出なくてもよくなるけど。
それから、当初の目的通りに王都での暮らしのことを中心にいろんな話をした。だいぶ打ち解けた状態になったところで結構時間が経っており、また会えたら話そうと言って別れた。
「可愛くていい子だったな」
「まあ、そうだね」
まさか一発目でナンパを成功させるとは思わなかった。これだからイケメンは。
三人での会話はダイキが次々と質問して、それに少女が答えるという内容だった。そこから俺やダイキが更に質問をしたり、偶にダイキが自分の話をすることで一方的に訊くだけではなく、お互いに楽しく話し合えた。
こいつのコミュ力半端ないな。流石『勇者』。
「今日は話すだけだったけど、また機会があったら知り合いから友達へ、それから彼氏彼女までランクアップできるかも」
「また会えたらって、あの人学生だから俺の方が先に会いそう」
「そういえばアカリも学園に通ってるんだったか。お前らだけで仲良くなったら俺がピエロになるからやめてくれ」
「ダイキ無しであそこまで話が盛り上がる気がしないよ」
むしろダイキはよく初対面であそこまで話を弾ませることができるよな。俺にはそこまでのコミュ力は無い。
「そうかねえ。さて、そろそろいい時間だし飯食いに行こうぜ」
確かにもう夕方で晩御飯を食べるにはちょうどいい時間だ。
俺達は長いこと居座ったオープンカフェのテラスから離れ、どこかの店に移ることにした。
適当に見て歩いたら、鉄板焼きのお店を見付けたのでそこに決めた。
肉の比率が大きいお好み焼きのようなものが出てきて、それを二人で食べる。
「ダイキってさ、『勇者』としての仲間っていないの? 勇者パーティ」
「んー? まあ今ははっきりとした目的が無いからな。自由な旅だからそれに付いてくる仲間は今のところいない。別に魔王を倒せとか言われてないしな」
「でも神様に呼ばれて来たんだろ? 何か言われなかったのか?」
「この世界の発展に貢献してくれっていうアバウトな要求なら言われたぜ。だから貢献するにはまずこの世界を知らなきゃいけないってわけ」
「思ったよりふわっとした内容なんだな」
もっとこう、問題が起きたのでなんとかしてくれ、みたいなのを想像してた。
「前の『勇者』は悪しき魔王を討伐したらしいんだけどさ、今いる『魔王』は穏健で人族とも歩み寄ってるらしいぜ」
「ああ、魔王とかいることはいるんだ」
「此処より東の島国に魔族が住んでるらしい。その王が『魔王』だな」
『魔王』っていうと悪いイメージがあるが、単純に一つの種族でできた国の王ということか。実際悪しき魔王が居たみたいだからこの世界でも悪いイメージがあるんだろうけど。
「しかしそうだな、仲間ってんならどうだ?入らないか、勇者パーティ」
唐突にダイキが俺を勧誘してきた。
「いや、学園があるんで」
「まあそうだよな。日本の話が通じるから一緒に旅するのは楽しそうだと思ったんだが」
確かにそれは楽しそうだ。けど俺はリティ達と一緒にいたいからな。
「でも時間があるときに一緒に冒険することならできるよ。臨時パーティだね」
「ああ、それいいな」
「俺は冒険者登録してるし、魔物を一緒に討伐することもできる」
「アカリってどれくらいの実力なんだ?」
「ん? ステータス見ただろ?」
LVも把握している筈だ。
「そうなんだけど、お前のスキルは名前や説明文だけじゃよく分からないの多くて」
「説明文?」
「ステータスのスキル名を更に鑑定するとそのスキルの説明が表示されるんだ」
スキルの効果まで知ることができたのか。ということは思った以上に能力を知られているわけだな。
「じゃあ訊くまでもないんじゃないか?」
「いや、鑑定じゃ結局その人がどういう風にスキルを使うか分からない。アカリのスキルに至っては効果を読んでもいまいち分からないのもあったし」
「どんな風なんだ?」
「見てみるか?」
そう言われたので実際に見てみることにした。【瞳の魔眼】で視界をダイキのものへと移したら、ダイキは俺のステータスを鑑定、そしてそこに並ぶスキルを更に鑑定した。
【瞳の魔眼】
視界に干渉する魔眼。対象を視界に映すことで発動するが強力な効果の発動には対象と目を合わせる必要がある。
ああ、そこまでしか分からないのか。
確かに大まかな効果は分かるけど、これでは具体的にはどうなるのかがはっきりしない。
「実際、視界に干渉するとだけでは、相手の見たものを見れるなんて分からなかったし。強力な効果ってどんなよ」
「喰らってみる?」
「この強力な効果ってやつをか?」
もうそこまで分かっているなら隠す必要はないと思う。魔眼を隠したい理由は視界を奪うためには目を合わせる必要があり、それを警戒させたくないからで、発動条件まで知られているならもう殆ど関係ない。
後は高いストーキング性能も変に覗きとか疑われたくないから隠したいが。
この能力は覗きし放題なのではと思われるかもしれないが、実際はかなり難しい。何故ならこのスキルは他の人の視界を見るものなので、例えば着替えを覗きたいならまず着替えを覗いている人の視界へと移らないといけない。他には更衣室や風呂場で女性の視界を見ることを考えられるが、まずその人を見ることができない。そのため、スキルを使って探索をしてもイケナイものを見ることはまず無い。
……一人の女性にずっと魔眼を使ってればできるんだろうけど、それはもう立派なストーカーであり覗き行為だからやっていない。
「じゃあ、試しに」
おっと、思考が逸れていたようだ。
ダイキはちょっと迷っていたが、結局は受けてみることにしたようだ。
「それじゃあ、透明化」
目を合わせる。
――【瞳の魔眼】視界干渉。俺のことを見えなくする。
「おお! 消えた!」
ダイキは俺のことを視認できなくなり、左右を見渡す。
そっと近づいて肩を叩くと、ビクッと反応した。面白い。
魔眼を解除する。
「おっ、急に出てきた」
「見えないだけで普通に居たよ」
「目を合わせるだけで視認できなくなるのか。かなり凶悪なスキルじゃないか?」
「こんなこともできる」
再び魔眼を発動する。今度は完全に視界を奪う。
「うわっ、何も見えなくなった」
「そこら辺の魔物ならこれだけで無力化できる」
魔眼を解除。
「酷い初見殺しだな」
「目に頼らない魔物には効かないけどね」
「でもこれ一つでかなり戦力になるわ。こういうのがあるからLV差があっても油断できないんだよな」
そう言ってもらえたし、一緒に冒険するのは問題なさそうだった。火力なら【範囲魔法】があるしね。




