15 郷愁
俺は仲のいい人は殆ど居なかった。
その代わりと言ってはあれだが、父とはとても仲が良かった。母は俺を生んだときに死んだ。
放課後はいつもユユと遊んでいた。初めて会ったときは同い年くらいの見た目だったのに、最近じゃ保護者と被保護者のように映る。または事案。
だから、俺の世界に出てくるのは大体が父とユユ。その二人だけで他はエキストラのようなもの。
それでも二人が居れば、十分人の温もりを感じることができた。
父はワーカホリックなところがあったが、いつも俺との時間を作ってくれたし、入院したときは仕事を休んだり早引きしたりして様子を見に来てくれた。
俺はよく怪我や病気をするから何度も入院をしたけど、それでも毎回お土産を持って見舞いにやってきてくれた。
ユユは俺が一人になりそうなときにいつも一緒にいた。学校が終わると待ち合わせた場所でいろいろなことを一緒にした。小さい頃は公園で遊んだり林を探検したり、成長するにつれて、テレビゲームや携帯ゲームを一緒にしたり、ゲームセンターへ行ったりして遊んだ。
俺が成長してもユユの見た目には変化が無かったし、成長してからも公園へ行ったり虫取りしたりしてたが。
まあ、周りで不幸があったり、俺が入院したりでしょっちゅう学校を休んでいたせいで、ユユ以外の友達はできなかったが。
それでも俺は、毎日を楽しく過ごせていた。
そんな、閉じられた小さな世界。今じゃ前世となった記憶の、夢を見た。
=====
目が覚める。
辺りはまだ暗いままだ。体を起こす。
「父さんっ、ユユ」
ここは宿の一室。今見たばかりのかつての家ではない。
父は此処にはいない。
「ユユ、ユユ!」
確かな繋がりを求めて呼び掛ける。
《んー、なあにー?》
寝ていたのだろう。少しだるそうな返事が返ってくる。
ただ、その声にひどく安心する。
「あ、ああ。目が覚めちゃってな。寝てたのなら別にいいんだが」
《眠れなくなったの?》
「うん」
《じゃあお喋りしようか》
「眠くない?」
《ゴッドは寝なくても平気ー》
結構頻繁に寝ている姿を見たことがあるんだが。
だけど今は、その言葉に甘えることにする。
「こっちの世界は当然だけどテレビゲームとか無いじゃん? でもボードゲームとかはどうかな。何かないの?」
《貴族の人は戦争ゲームをやってたりするかな。私はあまり詳しくないけど》
「平民はやらないか」
《明るいうちは忙しく働いてるからね。暇潰しのためのようなものはあまりないかな》
「そりゃそうか。じゃあ、今ユユが居るところってどんなになってるの? 面白いものとかない?」
《私の神界は何も無いよー。アカリもちょくちょく来てたでしょ? 真っ白なとこ》
死んだときに行った空間のことか。そんな頻繁には行ってないよ。3回だけだよ。
「今あそこに住んでるの? 寝るところすら無くね?」
《家具や寝具は呼べば出てくるよ。なんといっても私、空間を司る神様だから。部屋は自由に動かせるんだよ》
「ほー、それは便利だな。でもあそこ暇にならない?」
《普段はアカリを見ているから平気。後は寝てるくらいだし》
ユユは俺と生活習慣が殆ど変わらない。同じぐらいに寝るし、同じぐらいに目が覚める。
もっとも、目が覚めるというのは俺の場合しっかり覚醒するということで、つまりユユは午前中は寝ていることが多い。
俺が寝惚けて窓から落ちても何も言ってこなかったのは、単に寝ていて見ていなかったからだと思う。
その後も会話を続けたが、まだまだ日が昇るには早い。
寝る気にもならないし、時間もあるのでステータスの確認をすることにする。
名前 アカリ・ユミツキ
LV 12
種族 人族
年齢 0
性別 男
【スキル】
状態魔法4
空間魔法3
範囲魔法1
瞳の魔眼3
【加護】
死神の誘い
空間神の加護
空間神の寵愛
【称号】
転生者
祝福されし者
死を招く者
一気にLVが上がっている。前見たときは4だった筈だ。
【状態魔法】と【瞳の魔眼】も1ずつ増えている。
《結構上がってるねー》
「盗賊いっぱい倒したからかな」
盗賊ゴリラは倒し方が特殊だったけどどうなんだろ?でもあいつを殺ったからこんなにLVが上がったという気もする。
「【瞳の魔眼】でさ、前は間接的に相手の視力を奪うことができなかったと思うんだよ。感覚的にだけどさ、今思えばあれができるようになったのはスキルレベルが上がったからだと思うんだ」
カルテを助けたとき、何となくできる気がしたんだが、前いろいろ試したときにはそんなこと思わなかったんだよな。
きっと少し前にスキルレベルが上がってたんだと思う。
「【状態魔法】も新しくできるようになったこととかあるのかな」
《スキルレベルが上がると、できることが増える他に性能が上がるというのもあるから必ず何か新しいことを覚えるわけじゃないよ?》
「……そうなのか」
《でも、【状態魔法】はアカリの生命線だから性能が上がるのはいいことだよっ》
まあ、それもそうだな。
性能とは具体的には威力、規模、精密さ、魔力効率など。今出たので【状態魔法】で当てはまりそうなのは魔力効率くらいか。
「あ、そうだ。LVが上がって魔力総量も増えた筈だしもしかして【空間魔法】が使えるようになったんじゃないか?」
早速試してみる。
【空間魔法】で今使える(魔力があれば)能力は空間接続、転移、転送、異空間創造。
空間接続はユユと会話をするのに使っているやつだ。基本的にユユからのアクセスだから俺が使っているという意識は無い。
転移を使ってみることにする。
まず、自身の居る場所を認識、設定、固定。次に転移先の指定、宿のトイレでいいか。――やばいやばいめっちゃ魔力持ってかれる!
転移先の座標を把握して固定。これにもの凄く魔力を使う。転移先の空間を把握して認識するのに魔力を使うし、その空間を転移先として設定するのにもかなり魔力を使う。更に星の自転公転によるずれを無くすための固定。もちろん魔力を使う。
そして転移元と転移先の空間を繋げる。繋げると言っても空間を渡る道筋を作る感じだ。――あ、くらくらしてきた。魔力切れそう。
だが、あとは起動するだけ。いざ、転移開始。……え? ここでも魔力持ってくの?
そして俺は、全ての魔力を使用してトイレへ転移した。
「――え?」
「え?」
先客がいた。
というか、リティだった。
=====
「それで、何をしていたの?」
今俺はリティの部屋に居る。なんか居たたまれなくて自主的に床に正座している。
「変な時間に起きちゃって、眠れなくなったからスキルの練習をしてたのね?」
不安からくる疑問形。
「それで、トイレに転移をしたの」
特に深い訳も無いからすぐに説明を終える。
ちなみにあの後、急激に魔力を消耗して使い切った俺は、トイレで倒れた。
気絶はしなかったがしばらく動けなくなり、ここまではリティに運んでもらった。心底情けない。でも倒れたときに前へ倒れなかったのは誰か褒めてほしい。最悪な事故は防いだんだ。
「まさかリティが入ってるとは思わなくて、ごめんなさい」
考えてみれば、トイレは共用だから人が居る可能性もあった。ただ深く考えずに近場で人に見られないであろうところを選んだ結果が今の正座だ。
「転移?」
リティは謝罪よりもそっちに興味を示した。
俺は反省の証としてきちんと説明することにした。
「俺、スキルで空間転移ができるんだけど、前まではLVが低くて魔力が足りないせいで発動すらできなかったのね。で、LVも上がったから使えるようになったかなーと思って試したの」
きちんとと言いつつスキル名をぼやかしてしまう。いや、何となく癖で。やっぱりスキルを明かすのに不安があるというか、いやね、リティのことは信じてるんだけども。
「そんなことまでできたんだ」
リティは俺を見て静かに驚いている。までって、多芸な人と思われてるのかしら。リティにはまだ魔眼の視力強奪、透明化と状態復元による再生能力くらいしか見せていなかったと思うんだけど。
でも、これらに空間転移を入れたら確かに多芸と言えるかもしれない。まだ学園で魔法を学ぶ前だしな。
「でもさっき見た通り、あの距離で魔力が枯渇したからまだ役に立たないよ。発動までにかなり時間もかかったし」
「それでも、かなりのレアスキル」
まあ、神様から天恵で貰ったものだしな。
でも俺のスキルのレア度ってどの位なんだろ。ユユは結構強いみたいなことを言っていた気がするが。
「LVが上がったのって、夜中に出てったことと、関係ある?」
「ん? 気付いてたのか」
「たまたま」
「そうか、ちょっとした騒ぎがあってな」
どうやってそれを知ったのかとか、騒動の内容とかは言いにくい。魔眼のサーチ能力はあまり人に教えたくないし、まだ13歳のリティにあの盗賊との殺し合いを伝えたくない。
「アカリ、血の臭いがする」
「え? マジで?」
ちゃんと体洗って着替えもしたんだけど。
「血の臭いは、すぐには取れない」
それでも、すぐに分かるのはリティの鼻が良いからだろう。
流血沙汰だと勘づかれている以上は、下手にはぐらかすよりきちんと話したほうがいいか。
「実は、盗賊が街に忍び込んでいたんだよ。盗賊討伐隊を先に始末しようとしたみたいでさ。それと戦ってきたんだ」
「カルテは?」
「ああ、あいつも巻き込まれたが何とか無事だよ。怪我はしたけど。」
元々、俺が外へ出た理由がカルテを助けるためだしな。別に盗賊と戦おうと意気込んで行ったわけではない。後は成り行きだ。
「アカリは、怪我しなかった?」
「俺は再生能力があるから平気」
「でも、痛いものは痛い」
リティが心配してくる。なんか俺、この世界に来てから人に心配ばっかりさせてるな。
まあ、確かに怪我をしたら痛い。けど俺の場合、すぐに治ると思っているから耐えられるし、ある程度を超えると痛覚も麻痺するからそこまで辛くなることは無い。ある程度というのは、大体普通の人の致命傷だ。
「心配かけてごめんな。でも俺は大丈夫だから。死ななきゃ平気」
「死なないでね?」
安心させるために言ったんだが、逆に不安にさせてしまったみたいだ。
「死なないよ。だって俺には神様の加護があるんだから」
そう言って微笑みかける。
茶化して言ったから信じたわけではないだろうけど、それでようやく安心させることができたようだ。
突然、鐘の音が街に響く。
6時を知らせる鐘だ。この王都では、朝6時から夕方6時まで3時間おきに鐘が鳴る。
多くの人はこの6時の鐘で起床するらしいけど、俺はこの時間の鐘を初めて聞いた。この程度で俺を起こすことはできんよ。
「もうすぐ、朝ご飯」
「そうだな。それまでに一度部屋に戻るとするか」
部屋を出るために立ち上がろうとする。
「……もうちょっとだけ居てもいい?」
正座で足が痺れた。




