14 事後処理
「カルテ、大丈夫か?」
カルテを見ると、結構酷い怪我をしている。此処に来る前に右手に穴が開いていたし、太腿にナイフが刺さっていて腕も深く斬られた。
他にも細かい切り傷がかなりある。よくこれで槍を振るえていたものだ。
「あまり大丈夫では無いですけど、死ぬことはありません。それよりアカリさんこそ大丈夫なんですか?」
「まあ、無傷」
「ホントに無傷ですね……。あんなに斬られていたのに」
「それよりほら、手当てしないと」
そう言って手当てを始める。周りに毒を受けた冒険者が倒れているわけだけど、死ぬような毒じゃないみたいだし、解毒剤なんて持ってないから暫し放置。カルテのほうが優先度が高い。
「おい、あんた……」
弱々しい声を掛けられる。
何ですかーお兄さん、あなたは後ですよー。
「俺のポーチの中に治癒ポーションが入ってる。その子に使ってやれ」
やだ、めっちゃいい人。心の中で適当に扱った罪悪感をもろに喰らった。
感謝を述べてポーションを貰う。カルテに使い方を聞きながら傷の手当てを始める。
ポーションをガーゼに塗って傷口に当て、包帯で固定する。ポーションの残りは飲む。ガーゼと包帯もポーションと一緒にお兄さんがくれた。
手当が済んだので冒険者の人達を介護する。すぐには毒が抜けないみたいだから適切な処置が必要だろう。
というわけで一番動ける俺が衛兵と医者を呼んでくることに。
俺も疲れていたので、歩いて詰所へと向かった。
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衛兵さんに一通り起こった出来事を伝える。
俺の服はボロボロの血塗れなので信憑性はばっちりだ。ぱっと見凄い怪我をしているようにも見えるから、逆に説明するのに苦労したけど。
衛兵さんは高位の治癒士を呼んでくれた。治癒士の人には俺が患者だと間違われた。無傷だよ。
衛兵3人と治癒士のばあ様を連れて居酒屋に戻る。ちなみに、最初にカルテを襲ってきた盗賊(故)のところにも別の衛兵が向かった。死体を放置するわけにはいかないからね。
居酒屋に入ると、その光景に4人とも顔を歪める。ここで死んでいる人達はおそらくは店員と冒険者ではない無関係な客だろう。
冒険者連中は全員毒を喰らっていたから、先に力のある冒険者に毒を盛って動けなくした後に、ここに居た人を殺したのだろう。その後に俺らが来たと。
店の奥へ行き、治癒士のばあ様が【治癒魔法】を使う。その後に改めて情報交換。
冒険者の話によると酒飲んでたら動けなくなって、周りは先に殺されたらしい。大体予想通りだ。
どうやら盗賊討伐隊の冒険者の中に盗賊が潜り込んでいたらしい。
そんな盗賊だが、この場に1人だけ生き残りが居る。膝蹴りで気絶したやつだ。
そいつは縛り上げて連行されていった。この後は厳しい尋問が待っていることだろう。
そんな辺りで俺のやることもほぼ終わった。疲れたし帰りたい。
実は肉体疲労は【状態魔法】で消せるんだが、精神的な疲労と魔力の消耗による疲労はどうしようもない。
そのせいで気分的に体も重くなる。
それとさっきからユユが凄い心配してあれこれ声を掛けてくる。
そうとう心配させたみたいで周りに人がいるにも関わらずずっと話しかけてくる。そのせいで会話中、何度か聞き直す必要があった。難聴みたいになったから、周りの人にも体の心配をされた。
今は少し周りの人と離れてユユをなだめている。
「ユユ、もう大丈夫だって。心配かけて悪かったよ」
《ホントにもう平気? どこか痛くない?》
「ああ、平気平気。ユユのくれたスキルのおかげで何ともないよ」
《そう? でもでも、体は平気でも心は?辛くない?》
「ユユが声を掛けてくれるから心も癒されたよ」
《ほんとう? でも、あのときのアカリ、ちょっと変だったよ》
「あのとき? 盗賊ゴリラやっつけたときか」
《うん。スキルにない力を使ってるようにも見えたよ》
盗賊ゴリラの命を奪ったあの黒いやつか。
あれは正直俺もよく分かっていない。ただ、なんとなくあの加護が影響していることは分かる。
「『死神の誘い』の影響だと思うんだよな」
《そうなの?》
「ユユは分からないのか? なんとなくだけどそう感じたんだ。あの黒い血も『死神』の力の一部みたいなものだと思う」
《『死神』についてはあまり分からないの。でも、加護を持ってるアカリがそう感じたのならその通りなんだと思う》
あれが『死神』の力なんだとしたら、あのときは盗賊ゴリラの命を奪っていったが、その力が今度は俺に向かうかもしれない。いや、前世では既に俺に向けられていたのか。
だが、前世ではあんな直接命を摘んでいかれるようなことはなかった。
《アカリ?》
「ちょっと、急に不安になった。『死神』の力の恐ろしさを知って」
《大丈夫だよ。だって今アカリは、私の加護も持ってるんだよ。アカリは神様に祝福されてこの地に生まれたんだから》
ユユが元気付けてくれる。たしかに称号には『祝福されし者』というのもあった。『死を招く者』とは正反対だ。
ユユと話していたらだいぶ心も落ち着いてきた。人を殺しても何ともなかったけど、生きるか死ぬかの戦いで思った以上に疲弊していたみたいだ。
と、カルテが近づいてきた。
「アカリさん、大丈夫ですか?」
「皆それを訊いてくるな。大丈夫だよ」
「まあ、何であんなに斬られて大丈夫なのかも気になりますが。とにかく、今日はありがとうございました。アカリさんが私のところに来てくれなければかなり危なかったですし、一緒に来てくれなきゃ討伐隊の方々を救うこともできませんでした」
「いや、まあ、どういたしまして?」
そう畏まられるとちょっと対応に困る。
でも、相手の感謝というものは遠慮するものでもないと思うし、素直に受け取る。
「そういえば、どうして私のところに来たんですか?」
「そりゃあ、危なそうだったし」
「え?いや、どうして私の危機に気付けたんです?誰も居ない道での出来事だったのに」
あ、失言した。
俺が危機を知ったのは魔眼で見ていたからだ。普通じゃ危なくなっていることに気付かない。
「それにあのときの盗賊、途中でおかしな動きをしてましたね。目を覆って慌ててました。さっきの戦いでも最後の1人が同じようになってましたし」
これはもう偶々通りかかったんだよっ、とか言っても通じないだろうな。
「カルテのことは、偶然俺の持つ魔眼で見つけたんだよ。俺の魔眼は相手の視力を奪うことができるから、あいつらは目が見えなくなってたんだ」
多少ぼかして能力を説明。流石にあの覆面以上のストーキング能力と目を合わせるという発動条件は話せない。
「魔眼、ですか。そう言えばあのでかい盗賊も言ってましたね。目を合わせるなとかなんとか」
ゴリラのせいで発動条件までばれた。この能力初見じゃないとなかなか決まらないんだよ。あまり情報を広げるわけにはいかない。
「まあ、俺の秘密兵器だから他の人には言わないでくれ」
「ああ、そうですよね、分かりました。それにしてもその魔眼、殆ど魔力を発しないですよね。言われなきゃ全然気づきません」
俺の魔眼は省エネだからな。他知らんけど。
「他にもいろいろと気になるところがあるんですけど、再生能力とか黒いやつとか」
「それはまあ、追々な」
「あ、でもスキルのことですし話せないことは言わなくても大丈夫ですよ。特殊スキルを持つ人にはそういう人結構いますし」
そりゃスキル全部晒すってことは自分の弱点や切り札をばらすようなものだしな。俺の弱点は視界を奪うのに目を合わせないといけないことだ。既に晒してるな。
「あと、でかい盗賊を倒したときのアカリさん、途中からしか見てないんですけど神々しくてまるで天使のようでした!」
羽根が舞ってたからか。でも男で天使のようだって言われても嬉しくは無い。小さい女の子にでも言ってやれ。
だいぶこっちのことを聞かれたし、今度はこっちが質問することにする。
「カルテはバンバン魔法を使ってたよな。氷魔法?」
「はい、私は先天的に【氷魔法】のスキルを持ってて、魔法は今はまだこれしか使えないんですけど得意なんですよ。私の魔力形質も雪の結晶ですし」
俺と同じように魔力を結晶化できるのか。戦闘中に出ていたのかもしれないが、使う魔法も氷を生み出すものだし紛れてて気付かなかった。
「魔法と言えばあの盗賊団、あんまり魔法使わなかったよな。ああいうもん?」
「言われてみればそうですね。でかい人は一度も使った様子がありませんでしたし、他の盗賊も援護くらいでしょうか」
「ああ、カルテの戦い方と比べたら違和感を感じたな。カルテが凄いってだけかもしれんが」
「いやあ、私なんてまだまだですよ~。でもまあ、狭い空間でしたし、仲間が肉薄してましたからね。あまり魔法を使いやすい環境ではなかったですね。対人戦で近距離だったら剣で斬ったほうが早いですし、近接用の魔法があれば別ですけど」
偶々魔法が使いにくい環境だったのか。カルテは立っている味方が俺しか居なかったからガンガン使ってたけど
「ん? でも国境トンネルで襲われたときも魔法使ってこなかったな。そのときは5人だけだったけど」
「それはちょっと分かりませんね。でも、そもそも魔法が優秀だったら盗賊にはならないんじゃないでしょうか。それでもなるとしたら犯罪者くらいだと思います」
じゃあ、あいつらは全員魔法が苦手だったということか?
リーダーっぽい盗賊ゴリラが見るからに物理特化だしありえるかも。あのゴリラ、壁蹴って移動してたし遠距離も魔法を使わず飛び道具のナイフを投げてたしな。
魔法の才能が落ちこぼれでも、ああまで強いと笑えない。
カルテと話を続けていたら、他の冒険者が今日はもう引き上げると言うので俺達も帰ることにした。
途中まで一緒に行き、分かれ道で皆と別れて宿へと戻った。




