97 学友達
「そういえばカルテは?」
学園が始まって既に数日が経っているが、教室にカルテの姿が無い。
午前の授業は寝ていて、午後は別々になることが多かったからスルーしていたけど、夏休み前に会って以来見ていない。
リティなら何か知っているかと思ったけど、リティも分からないようで首を振るだけだった。
数日も無断欠席か。まあ、電話とかないから連絡がないのは当たり前なんだけど。
なにか用事でもあったのかな。そういえば夏休み中一度も遊びに来なかったっけ。
とはいえ、カルテの実家がイトラースの何処にあるか知らないし、どうしようもないんだけど。
うーん……やっぱ来るのを待つしかないか。
いつも教室では三人で居たから、それが欠けていると寂しいものがあるな。
はぁ……まあいいや、寝よう。
休みボケなのか、前よりも授業が眠い。
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「ユミちゃん、お昼ご一緒しちゃっても構いませんですか?」
「フェルク? ……あ、もうそんな時間か」
いよいよ授業終了の鐘でも起きなくなってきたな。大丈夫か? 俺の身体。
リティが居ない……と、思っていたら購買のパンを持って教室に戻ってきた。あの量は俺の分もあるな。とってもありがたいです。
「そういえばダイキは?」
「……クラスの子達を躱すために、ちょっとですね」
「生け贄になったか……」
可哀想に。
というか、フェルクは自分のクラスを放っておいていいのだろうか。大丈夫か? 魔族代表。
抜けきらない眠気も相まってジト目で見ていると、フェルクは気まずそうに軽く咳払いをした。
「まあ、無理してやらかしちゃったら元も子も無いんですよ。貴族相手に暴力沙汰はヤバいです」
「あー、フェルクにはそれがあるからなぁ」
普通に考えてはいけないようだ。
ダイキは既に何回か攻撃されているし、ダイキ曰く「俺じゃなきゃ殺られてた」らしいからな。貴族を殺しちゃったら友好も何もないだろう。むしろ戦争にまで発展してもおかしくない。人ひとりの命で国同士が戦争なんて、ああ、貴族怖い。違うな。そんな貴族に手を出しかねないフェルクが怖いよ。
「隣、失礼する」
不意に失礼してきたのは、恐ろしい貴族さんだった。しかも、昨日絡んできたアイツ。
机をくっ付けて、時計回りに俺、生意気族、リティ、フェルクという風に囲んで座っている。机の上には全員分の食事がちゃんとある。
「……え、ここで食べるの?」
「ああ、今日はパンの気分でな。貴族校舎の購買パンはなかなか捨てたものじゃないぞ」
いや、自分の席で食べなよ。わざわざ他の校舎まで来ることないのに。
フェルク目当てっぽいし、ダイキでは撒けなかったようだな。
あーっと、フェルクの影が鎌の形になってる。準備万端に構えちゃってるよ。男の人と向かい合ってるしね、そうなるのも無理はないけど。
貴族くんはそれを知ってか知らずか、自分のパンをもそもそ食べ始めた。……あ、確かに美味しそう。こっちの購買にはあんなの無いぞ。
「む……? おお、一つ要るか?」
「え、いいの?」
「昨日は面白いものを見せてもらったしな。お礼に一つくらい構わん」
面白いもの? もしかして、羽根喰らわせて転移で逃走したことかな。怒ってると思ってたけど、あれで喜ぶとは。
口を付けていないパンを渡されたので、お礼を言ってありがたく受け取った。早速食べてみる。
「あ、美味い」
なんかもう、生地からして違う。一般校舎のは質より量で、パサついてたりするのが殆どだけど、これは程よくモチモチで食べていて気持ちがいい。それにパン特有の香ばしさがしっかりあって、焼き立てに近い香りがする。
「いいなぁ、そっちの購買。そっちのパン買いに行きたいくらいだよ」
「一般生が買っているのは見たことが無いな。禁止されてはいないはずだから、貴族の列に混ざる度胸があるなら買ってもいいのではないか?」
「パンの取り合いで肩でもぶつけたら大変じゃない?」
「ああ、ここへ来るときに見えたが、そっちの購買は激しそうだったな。貴族は取り合ったりなどしない。きちんと列を作っているからな」
「そうなの?」
「まあ、爵位の違いから譲り合いが頻発するが。お前の場合、全員が上の階級だから列に並ぶ意味は無いかもな」
ダメじゃん。
今度フェルクに買ってきてもらおうかな。ただ並ぶだけなら男嫌いもそんなに影響しないだろうし。
そう思ってフェルクに顔を向けると、フェルクの顔に何かが……文字?
『その人、誰です???』
影で顔に文字を書いているみたいだ。そのスキル、汎用性高いよな。
というか、フェルク、知らないのかよ!? この人昨日、フェルクディさんがどうこう言ってたのに。
そういえば俺も名前知らない。なんでそんな奴と気安く話してるんだろ。……パンくれたからだな。パン一つで心開くとは、安い男ですね、俺。
「そういえば名前聞いてなかったね」
「ふむ、そうか。貴族同士だと相手の情報はある程度知っていて当たり前だったからな。形式のみの挨拶ばかりなもので失念していたようだ」
そちらのフェルクディお嬢様も貴方のことは存じていないそうですよ。
「カインクルフ・ローディンだ」
「アカリ・ユミツキ。まあ、よろしく」
「リティ」
「あ、フェルクディ・ハルジバルです」
フェルクは名乗らない方が良かったんじゃない? フェルクが知らないだけで知り合いだったかもしれないんだし。
「ユミツキ……? いや、偶々か」
カインクルフがぼそりと呟いたけど、苗字に反応するのは大体ユミツキ名誉伯爵についてだからスルーで。相手に釣られてつい苗字を名乗ったけど、普通に失敗だった。
喋りながら食事をしていると時間が過ぎていくのは早いもので、食べ終わった頃には昼休憩が終わりそうな時間だった。
「では、わたくしめは行くです」
「私もそろそろお暇するとしよう」
「じゃあまた」
「ばいばい」
ひらひらと手を振って二人を見送る。
さて、午後の授業の準備をしないと。
=====
学園が終わり、ユユ達とわいわい夕食を食べたり交代交代風呂に入ったりした後、手持ちの服の中から黒いものを選んで着替える。
あと、フードの付いたケープみたいなものがあったからそれも被っておく。
片手に持ったナイフを振って、範囲の円を引いたら転移。
町の要所に描いておいた魔法陣の一つに転移が終わったら、目的地まであと少し。
今日もまた、夜の町は物騒だ。
俺はあんまり急いでいない。もう間に合わないから。
今から向かうのは殺人現場。殺しはもう終わっている。
あの殺人鬼は悪趣味なようで、殺した後も解体を続けている。すぐには現場から離れないだろう。
よし、着いた。
廃れた空き家のドアを蹴飛ば――体当たりで突き破る。……くそ、見た目より頑丈だった。
「フシャアアアアアァッッ――!!」
「うおっ!?」
殺人鬼がナイフを片手に襲いかかってきた。
突入でもたついたから待ち伏せされてしまったようだ。あと、不意打ちにその気迫はびびる。
だけど、この距離なら俺の得意技を喰らわせることができる。そう、相打ち。
相手のナイフを敢えて避けずに、自分のナイフを相手に刺す。
殺人鬼のナイフは俺の左肩に刺さり、俺のナイフは殺人鬼の首を掠めた。
殺人鬼の首から夥しい量の血が流れ出る。……致命傷か?
「ああああああっ!? この野郎!? 貴様なんか嫌いだー!!」
いや、好かれたくもないよ。
殺人鬼はいろいろ喚きながら建物の奥へ走っていった。
「って、逃がしちゃ駄目だよな」
放っておいても死にそうだけど、一応トドメを刺しておかないと。
ズレたフードを被り直して後を追う。その途中で肩の傷は治しておく。
奥の部屋で殺人鬼は、血をだらだら流しながら死体の解体に勤しんでいた。
「えーっと、何してんの?」
思わず訊いてしまった。
「彼女を眺めているのさ。筋肉の筋から臓器に至るまで私が知らないところなど無いくらい余すことなく、ね。視姦しているのさ」
うわ、訊かなければよかった。
人間一人解体する理由なんて碌なものではないに決まってる。
「貴様のせいで私は死に体だからね、最期の最後まで彼女を目に焼き付けることにしたのさ。私の最期の頼みだ。邪魔をしないでくれ」
えぇ……。
でも、最期のと言われると何となく断りにくい。
もう勝手にしてくれ。死ぬまで監視はするけどさ。
「……君割といい人だね。一緒に彼女を視姦していると考えるとだんだん親近感が湧いてきたよ。どうだい? これ、彼女の子宮なんだけど」
「なんてもの見せてくるんですか……」
思わず敬語を使ってしまった。
というか傷浅かったのかな? 結構しぶとい。
この人も【状態魔法】を掛ければ平常に戻るのだろうか。でも、この人はもう殺人鬼だ。人を殺している。
「あ~いいよぉ。コロニーちゃん最高に可愛いよぉ~」
殺人鬼は、首の傷に左手を押し当てながら右手のナイフで彼女を弄る。
あのさ、もう帰っていい……?




