覚醒
やがて、烈が頭を押さえて、小さく呻いた。
起きた烈は先ほどと何も変わっていないように見える。
烈と目が合った。
思わず菜穂は身構える。
烈は噛み付くように菜穂を見つめる。
「……」
(怖い……、もしかして失敗した!?)
「お前……」
口を開いた烈が菜穂の右腕を急に強く引っ張る。
「!?」
(殴られる!?)
殴られる事は無かったが、違う感覚がした。
唇に何か柔らかい物が当たっている、いや押し付けられている。
「~っ!!」
左手で烈の頬を打つ。
「……くはははははっ、おもしろいな。そうか、こんな感覚なのか。
これが、惚れ薬の効果か!!」
「……」
一人で納得し、愉悦に笑う烈を訝しげに見る菜穂は恐ろしくなって逃げ出そうとする。
頬を打った時に手を放されているので、後は扉へ静かに向かうだけだった。
烈は何か満足げに何かをメモ帳に書き付けている。
気付いている様子は無いので菜穂は一旦退散を目論んで、ノブを回そうとする。
が、開かない、ノブが回らない。
「どこへ行く気だ?ちなみにお前が部屋に入ったと解った時点で部屋はロックしてある」
「……!?」
スチール素材の扉と烈に挟まれた菜穂は身動きが出来なくなってしまった。
「逃げられると思っているのか?」
菜穂に烈の影が覆い被さった。
「ちょっと、何するのよ!?」
「俺の実験に付き合ってもらう。理解できるだろう?」
つまりは、責任を取れという事なのだろう。
耳元で睦言のように囁かれた脅しに、菜穂は、背中に冷や汗が流れるのを感じた。