Act.2「再会」
大変遅くなりました。書いていた下書きを誤って全消去してしまい、新たに一から書き直していました……といっても言い訳にしかなりませんが……。申し訳ございません。
作戦本部の廊下を進む。
中はそれなりに綺麗だった。軍用機材があちこちに放置されているのを除けば。
赤いカーペットと古風な壁紙がレトロさをより一層際立たせている。
ここに入って一番印象に残っているのは、入り口を入ってすぐにある大広間だ。
特に目を引くのがその奥の壁に掛けてある一枚の絵。
緑色のベレー帽を被った顔にいくつもの傷がある男性の肖像画だ。かなり厳つい。そして怖い。
その肖像画を挟むように2階へと続く階段があった。
僕は向かって右側の階段を昇り、そして今に至る……。
「それにしても、案外広いな」
この建物はかなり広かった。
外観だけを見たときはちょっと心の中では馬鹿にしてたけど……。
「おっ。ここは……」
しばらく歩くと突き当たりにぶつかった。
そこには「Commander Room」と書かれた扉があった。
ここが中佐のいる所らしい。
僕は軽く深呼吸をし、扉を2回ノックした。
『開いてるぞ。入ってくれ』
部屋から男性の声が聞こえてきた。
ゆっくりと扉を開け、部屋へと入った。
「失礼いたします」
その部屋には2人の人物がいた。
1人は椅子に座り、腕を組み、緑色のベレー帽を被った顔に傷のある中年の男性。あの肖像画に画かれていた人だ。
前の机の上には湯気を上げるホットコーヒーが注がれたカップが置かれている。そしてその横には角砂糖のピラミッド。甘党なのかな?
もう1人はその男性の横に立ち、脇に書類のようなものを抱えた女性。この男性の側近か何かだろう。腰まであるすごく綺麗な銀髪が特徴的だ。あと何故か僕をジッと見つめてくる。顔に何か付いてるのかな?
僕は2人の前まで歩いていき、
「この度、アフリカ方面隊第101部隊に配属されることとなりました、バイロン・ナイトレイ一等兵です」
と、失礼の無いよう、慎重に言葉を選びながら自己紹介をした。
「君がバイロンか。話は聞いているぞ。私はこのアフリカ方面隊司令のジェリー・ウォーカー中佐だ。よろしくな、バイロン」
「はい! よろしくお願いいたします!」
中佐が右手を差し出してきたので、僕も右手でしっかりと握り返した。
中佐の手は僕の手より一回り以上大きく、たくましかった。しかし、顔と同じように傷だらけであり、とても痛々しいものであった。
「この傷が気になるか?」
「あっ、いえ、すみません」
あまりジロジロ見すぎたようだ。癪に触ってしまっただろうか? 反省しよう。
「なーに、気にすることはない。昔のことだからな」
「昔の……ですか」
「ああ。第一次反抗作戦に参加したときのものだ。まぁ、今では良い思い出だがな」
第一次反抗作戦!?
それって確か30年くらい前に行われた作戦だったはず……。僕が生まれるずっと前だ。やっぱりベテランなんだな……。
そんなことを考えながら、ふと隣の側近の女性に目をやると、スッと顔を逸らされた。
あれ? もしかして嫌われた?
でも嫌われる要素なんてなかったはずたし、極力好感を持たれるように尽くしたんだけどな……。
まぁいいか。
「さて、早速だが101の隊員達と顔合わせをしよう。ラヴィニア、案内してやれ」
「は、はい。畏まりました。ナイトレイさん、こちらへ」
ウォーカー中佐が側近の女性に声をかけた。
女性はそれに返事を返し、僕の横を通り過ぎた。
「彼女に付いていってくれ。隊員達が待っている」
「了解しました」
僕はそう言って踵を返し、扉へと歩きだした。
すでにラヴィニアさんが扉を開けて外で待機していた。
扉の前で再びウォーカー中佐の方を振り返り、敬礼をして、司令室を後にした。
ーーーーー
現状を説明しよう。
部屋を出て扉を閉めた瞬間、ラヴィニアさんが飛び付いてきた。
「会いたかったよぉバイロン!」
そしてこの変貌ぶりである。
先ほどまでのクールビューティーさはどこへやら。
「あ、あのぉ、ラヴィニアさん?」
「なぁに?」
「えっと、これは一体?」
「やだなぁバイロンったら。もう忘れちゃったの?」
「え?」
忘れたもなにも今日が初対面のはずじゃ……。
誰かと間違えてるのかな?
「すみませんが、人違いではありませんか?」
「もう! ひどいよバイロン! 小さい頃一緒に遊んでたのに!」
小さい頃?
その頃に一緒に遊んでた女の子と言えば、ラヴィニアっていう銀髪の子か……ん? ラヴィニア? 銀髪?
「あ、あの、僕の記憶が正しければなのですが……」
「うん」
「もしかして……ラヴィニア・キャンベルさん……ですか?」
そう言った瞬間、ラヴィニアさんの顔がパアアッと明るくなった。
「そうだよ。昔バイロンの家の向かい側に住んでた、ラヴィニア・キャンベル」
僕の幼馴染みが、そこにいた。
ーーーーー
――ラヴィニアSIDE――
私はすごく嬉しかった。
とにかく嬉しかった。
生き別れになった幼馴染みのバイロンがこの基地に配属されることが決定したからだ。
私はカナダの片田舎の家庭に生まれた。
決して裕福というわけでもない、ごく普通の家庭だった。
地元の小学校の校長を務める父と、隣町の銀行で働く母。
そのことが原因で小学校ではイジメを受けていた。
それを救ってくれたのがバイロンだった。
私はその一件でバイロンのことを強く意識するようになり、次第に好意を抱くようになっていった。
でも10歳のとき、母の転勤を期にアメリカ引っ越すことになって、バイロンとはもう会えないと思った。
それから1年後、第二次反抗作戦で私も徴兵対象になって、後方支援要員として参加することになった。
作戦が失敗に終わっても、私はそのまま国連軍に留まり、オペレーターとしての職に就いた。
それから6年経った今、このアフリカ辺境の基地にバイロンが来る。
まさかこんな幸運なことが起こるなんて、神様に感謝しなくちゃ。
7年も経ってるんだから、バイロンは結構印象が変わってると思う。
当時はあんなに可愛かったけど、今ではどうなってるのかなぁ……。やっぱりかっこよくなってるのかなぁ……。早く会いたい。
「ラヴィニア。顔がニヤけているが、一体何を考えていたんだ?」
「ふえぇっ!?」
ウォーカー中佐の言葉で、私は現実に引き戻された。
「なななな何でもありません! お、お気になさらず! ち、中佐、コーヒーをどうぞ!」
「おお。すまないな。それと角砂糖も頼む。多めに」
何とか誤魔化せたみたい。
危なかった……。
「そろそろ着く頃だな。恋人に会う準備はできてるか?」
「はい……って恋人じゃありません!」
「ハッハッハ。冗談だよ」
「もう……」
ウォーカー中佐は私の直属の上官。
6年前の第二次反抗作戦のときもこの人の指揮下に入っていた。
中佐はすごく勇ましくて、たくましくて、かっこいい人。でもこうやって人をからかったりするような、子供っぽいところもある。
そのギャップも相まって、意外と女の子達からの評判はいいらしい。
確かにかっこいいとは思うけど……厳ついのはちょっとね……。
そんなとき、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「来たみたいだな。開いてるぞ。入ってくれ」
も、もう来たの!?
どうしよう、心の準備が……!
「失礼いたします」
一人の少年が入ってきた。
間違いない、バイロンだ。
あの頃の可愛さはわずかに残っているものの、9割がたはかっこよさに変わっていた。
「この度、アフリカ方面隊第101部隊に配属されることとなりました、バイロン・ナイトレイ一等兵です」
「君がバイロンか。話は聞いているぞ。私はこのアフリカ方面隊司令のジェリー・ウォーカー中佐だ。よろしくな、バイロン」
「はい! よろしくお願いいたします!」
バイロンと中佐がお互いに自己紹介をし、堅い握手を交わした。
いいなぁ……私もバイロンとお話したい!。
で、でもここは我慢しなくちゃ。後でいっぱいお話するんだから!
「この傷が気になるか?」
「あっ、いえ、すみません」
「なーに。気にすることはない。昔のことだからな」
「昔の……ですか」
「ああ。第一次反抗作戦に参加したときのものだ。まぁ、今では良い思い出だがな」
中佐ばっかりずるい!
私もお話したいのにぃ!
そんなことを考えていたら、バイロンと目が合った。
私は恥ずかしくなって咄嗟に顔を逸らしてしまった。
ど、どうしよう。バイロンに変に思われちゃっかな……。
「さて、早速だが101の隊員達と顔合わせをしよう。ラヴィニア、案内してやれ」
中佐に突然声をかけられ、私は我を取り返した。
中佐を見ると、バイロンには見えないように、親指を立てていた。
「は、はい。畏まりました。ナイトレイさん、こちらへ」
冷静を装い、バイロンの横を通り過ぎて扉に向かう。
「彼女に付いていってくれ。隊員達が待っている」
「了解しました」
後ろで中佐とバイロンがまた会話している。
私もバイロンと話したくてウズウズしてきた。
バイロンが扉の前まで来ると、もう一度中佐の方を振り返り、敬礼をし、部屋を出た。
私はこの瞬間を待っていた。
感極まってバイロンに抱きついてしまった。
ああ……バイロンの匂いがする……。
「会いたかったよぉ、バイロン!」
もう敬語で話す必要も、敬称で呼ぶ必要もない。
先輩後輩でも上司部下でもない、私とバイロンは"幼馴染み"なんだから。
「あ、あの、ラヴィニアさん?」
「なぁに?」
「えっと、これは一体?」
バイロンが戸惑ったような声で聞いてきた。
もしかして私のこと忘れちゃったのかな?
「やだなぁバイロンったら。もう忘れちゃったの?」
「え?」
バイロンが明らかに動揺してる。
やっぱり覚えてないみたい。
7年近く経ってるし、しょうがないけどね。
「すみませんが、人違いではありませんか?」
「もう! ひどいよバイロン! 小さい頃よく一緒に遊んでたのに!」
少しくらいは覚えててほしかったな。
もう、バイロンの鈍感……。
「あ、あの。僕の記憶が正しければなのですが……」
「うん」
「もしかして……ラヴィニア・キャンベルさん……ですか?」
私は泣きそうになった。
忘れたわけじゃなかったんだ。よかったぁ……。
「そうだよ。昔バイロンの家の向かい側に住んでた、ラヴィニア・キャンベル」
こうして、私とバイロンは7年ぶりの再会を果たした。
第一次反抗作戦
本編の31年前に国連主導の下行われた非常に大規模な軍事作戦。人類が最も損害を受けた戦いであり、戦死者は2億超である。