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WOЯLD -ワールド-  作者: 柾木灑斗
Episode.1「ディアブル基地編」
4/6

Act.1「ようこそ、ディアブルへ」

今回は短めです。

 この世界は狭い。


 いつからか僕はそう思うようになっていた。


 政暦2052年。


 人類と"奴ら"のファーストコンタクトから50年以上が経過した世界

 "奴ら"によって地球がの7割近くが蹂躙された世界。

 残った3割の土地と資源を巡って2つの強大な勢力が戦争をしている世界。


 この世界は狭い。

 狭く、そしてあまりにも広すぎた。


 僕の両親は6年前に行われた第二次反抗作戦に駆り出され戦死した。

 兄もその作戦で重傷を負い、後に死亡した。


 僕は当時とある事故で怪我を負っていたため、作戦には参加しなかった。

 もし事故に遭わず、怪我をしていなかったら、僕も作戦に参加していただろう。そうなったら恐らくは死んでいた。

 不謹慎だということは分かっているが、怪我をしたおかげで僕は生き長らえることができた。


 あれから6年が経過した今、僕は国連軍に志願した。

 半年間に及ぶ入隊試験をクリアし、晴れて国連戦略軍の正規兵となった僕は、アフリカ全域を管轄とするアフリカ方面隊第101分隊が駐屯している国連軍唯一の地上拠点、ディアブル基地へ配属されることとなった。


 今、僕はハンヴィーの助手席に座っている。

 ディアブル基地へ向かう最中だ。

 走行しているのは舗装されていない細い小道だ。かなり揺れる。正直、気分が芳しくないが、ここは我慢するしかない。


「大丈夫かぁ新兵?」


 そんなことを考えていると、突然声をかけられた。

 運転席に座っていた男性だった。


「はい、大丈夫です」


「そうか。ま、無理すんなよな」


 艶かな黒髪に浅黒い肌、緑色の目をしたアジア系の男性だ。

 国連陸軍仕様灰色系デジタルパターン戦闘服の胸元を大きく開けた格好をしている。

 そして野太い声が特徴的だ。


 正直、陸軍は……失礼ながらいわゆる"堅物"な人ばかりなのかと思っていた。

 こういう人もいるんだな……何故だか少しだけ親近感が沸いた。


「お前さん、名前は何て言うんだぁ?」


「僕ですか? バイロン・ナイトレイ一等兵です」


「バイロンか。いい名前じゃねぇか」


「は、はぁ……ありがとうございます」


 名前を誉められるなんて初めてだ。

 何だか嬉しいな。


「おれはマハティールだ。マッハって呼んでくれ」


「よろしくお願いします。マッハさん」


「おうよ!」


 すごく陽気な人だ。

 アジアの人ってみんなこうなのかな?


「あの、マッハさんは陸軍の所属なんですよね?」


「おう、そうだぜぇ。それがどうかしたか?」


「いえ、何というか、陸軍はもっと厳しい人達ばかりなのかと思っていたもので……」


「なーんだぁ、そういうことか」


 マッハさんがハハハッと笑いながら言う。


「確かに、陸軍(おれら)の中には、そういう連中もけっこういるな。一部例外もあるが」


「例外ですか?」


「おう。例えば、おれんとこの隊長なんか、年がら年中酒飲んでる酔っぱらい野郎だしなぁ」


「酔っぱらい……ですか」


「他にも、女のことばかり考えてる変態オヤジとか、異常なまでのガンマニアとかな」


「それは……すごいですね」


 陸軍のイメージが180度変わった。

 今までは……ストレートに言えば単なる堅物集団、という認識しかなかった。

 口には出さないが。


「おっ、見えてきたぜ」


 マッハさんが言った。

 いつの間にか基地の近辺まで来ていたらしい。

 傷だらけのフロントガラスの先に、それは見えた。

 パッと見、寂れた小さな村だった。

 普通の人が見たら、あれが軍事基地だとは思わないだろう。

 遠くだとはっきりとは分からないが、木造の建物がいくつかあり、それを5メートルほどの木製の壁がぐるりと囲んでいる。

 その壁のひとつの人影が見える。

 恐らく警備兵だろう。


 あそこが国連戦略軍アフリカ方面隊第101部隊の駐屯地であるディアブル基地だ。

 今日から僕はあの場所で寝泊まりをすることになるのだ。



ーーーーー



 ディアブル基地―――


 アフリカ東部に位置する集落を改築して作られたアフリカ戦線の要となる前線基地である。

 基地と言うよりベースキャンプと言った方が適切だろうか。

 門も、防壁も、施設も、何もかもが木造だ。

 いくらなんでも貧弱過ぎではないだろうか?

 見たところ、基地を防衛するための武装も見受けられない。

 襲撃でもされたらひとたまりもないと思うが。


 ハンヴィーが門の前で停車する。


 すると、壁の上にいた警備兵らしき人が手を振った。

 その直後、門が砂煙を上げながらゆっくりと開いた。

 門は内開きのタイプだ。


 門が完全に開ききったとき、中から2人の人物が出てきた。恐らく門番だろう。

 2人とも黒いにゴーグルを装着し、フード付きのカーキ色の膝下まであるマントを羽織っている。

 フードとゴーグルで顔が見えないが、恐らく2人とも男性だ。

 軍人……だよね?

 僕は盗賊に入った覚えはないんだけどな……。


「名前と階級、所属を言え」


 門番の一人が運転席側の窓から話しかけてきた。


「陸軍所属、マハティール曹長だ。ピッカピカの新兵を届けに来たぜ」


「マハティール……? もしかしてマッハか!?」


 マッハさんが素性と目的を伝えると、もう一人の門番が間に割り込んできた。


「ん? おれを知ってんのか?」


「知ってるもなにも、昔一緒に戦っただろう?」


「何だって?」


「もう忘れたのか? エスモンドだよ」


「エスモンドって……もしかして、お前エスなのか!?」


 どうやらマッハさんの知り合いらしい。


「久しぶりだなマッハ。何年ぶりだ?」


「第二次反抗作戦以来だから、6年ぶりくらいだぜ」


「もうそんなに経つのか」


「って今は任務中だった。また後でな」


「ああ。引き留めて悪かった」


「気にすんなっての」


 門番の2人が離れると、マッハさんはアクセル踏み、再び車を走らせる。

 僕達が中に入るのを確認すると、門番の2人が重そうな門を閉めた。



ーーーーー



 中は普通の村だった。

 現地の村人達がごく普通に生活していた。

 男性が薪割りをし、女性が水汲みをし、子供達が手作りのサッカーボールでサッカーをしている。

 そこは平和そのものだ。

 少なくとも外面は。


 村人達を避けながら、大通りをゆっくりと進んでいく。


 やがて、ある建物の前に停車した。

 2階建ての……旅館のような外観だ。

 この村の中ではそれなりに立派な建物だろう。


「ここが101部隊の作戦本部だ」


 マッハさんが言った。

 これが作戦本部?

 予想はしてたけど……何て言うか、ちょっとアレだね。


「おれはここでお別れだ。こっからはお前さんだけで頑張りな」


「はい、ありがとうございました」


「いいってことよ」


 マッハさんにお礼を言って車を降りた。


「ああ、それとバイロン」


 ドアを閉める直前、マッハさんが思い出したように声を掛けてきた。


「何でしょう?」


 と返事をすると、マッハさんが眉間に(しわ)を寄せ少しこもった声で、


「いつ何があるか分からない。気を付けろよ」


と言った。


「は、はぁ……了解です」


 気を付けるって、何にだろう?

 気になって訊こうとしたが、何だか訊いちゃいけないような気がしたので、結局訊けなかった。


「じゃ、達者でな、バイロン」

「はい。マッハさんもお元気で」


 僕が別れを告げると、マッハさんは車をUターンさせ、来た道を引き返していった。


「さてと」


 小さく呟き、後ろを振り返る。


「行くか」


 僕は覚悟を決め、作戦本部へと足を踏み入れた。

国連戦略軍(United Nations Strategic Command)

国連第6軍の1つ。通常の軍(陸軍や海兵隊)が介入できないような特別な任務に投入される。その死傷率は第6軍の中では最も高い。


ディアブル基地(Diable Base)

アフリカ東部の村を改築して作られた戦略軍アフリカ方面隊の地上拠点。元々は普通の村だったが、村と村人達を守ることを条件に駐留を認められた。

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