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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第6話 そして再び……。


 以下、おっちゃんの説明を俺なりにまとめてみた。


 一大陸の中央を長い山脈で分かつ西と東。

 その東側の国――リディア。


 そこが俺の召喚された場所だった。

 渓谷が多い地帯にもかかわらず、万年の水不足で植物も死滅に近い状態の荒野が広がっている。


 大陸に流れ込んでくる雨雲をせき止めるその長い山脈が原因だと、おっちゃんは言っていた。

 雨が西ばかりに降って、東側には少ない量の雨がごくわずかに降る程度でしかないのだとか。


 その為、東側の土地はカラカラに乾き、日照りばかりが続いていた。

 日差しもかなり強い。

 じりじりと焼ける日差しではなく、空からたくさんの針が降ってきたかのように体のあちこちがチクチクと痛む日差しなのだ。


 だから外に出る時は必ず長袖完全防備でなければ、とてもじゃないが出られない。

 現地の人は慣れているのか、半袖服姿の人もたまに見かける。


 気温は灼熱並み。

 水気もなく、空気も乾燥している。


 砂漠とまではいかないものの、乾いた荒野といったところだろうか。

 地面は硬く、水を欲するように所々がヒビ割れていた。

 水道なんてものは無い。

 だからこの土地で扱う水は大変貴重なものだった。


 それでも俺が今居るこの場所は首都の次に豊かな街らしい。

 砂漠のオアシス──【水の都シーシャ・タ】と呼ばれている。


 この国には竜人種が比較的多く住んでいるらしい。

 彼らはとても友好で商売熱心だ。

 そのせいもあってか、この街は商いがとても盛んで、活気があり賑やかだった。

 建物以外にも露店があちこちにテントを張って簡易な店を構えている。

 イメージとしては中東っぽい国といった感じだろうか。

 服装もそれに近いものがある。

 ワンピースのような白の長袖のラフな感じだ。


 街の雰囲気もこの国独自に進化したもので、今まで見てきた中世ヨーロッパ風の町並みとはガラリと変わり、建物は白塗り壁が多く、テント露店も布製がほとんどだった。

 祭りが行われることもあって、派手な飾りがそこかしこを彩っている。


 交通は馬車では不向きな地帯のようで、黒い岩のような皮膚を持つ大きなアルマジロのような生き物が荷車を引いて往来していた。


 ──と、まぁここまでが、この世界に来てから三十分後に俺が理解したこの街の姿である。




 ※




 三十分前。


 俺は街の路地裏に姿を現し、そこで待っていた見知らぬ中年の男からいきなり一枚の服を受け取った。

 竜人というよりも人間に近い顔立ちした現地人である。

 その人の精神を乗っ取ったのだろう。

 そいつは、おっちゃんの声で言ってきた。


『挨拶は後だ。とりあえずその服を脱いでこれを着ろ』


 ――って、酒くっさ!


 俺は鼻をつまんで片手を仰ぎ、おっちゃんから距離を置く。


 なんでこんな昼間っから酒が飲めるんだよ。


『祭りだからな』


 いや、まぁ……別にいいけどさ。──ん?


 ふと。

 俺は何かに気付く。

 きょろきょろと辺りを見回して、


 ……あれ? なぁおっちゃん、ディーマンは?


『だいぶ前に別れた』


 別れた?


『ディーマンは仕事でここに来ている』


 で、おっちゃんは? 何しにここに来たんだ? 遊びか?


『俺か? 俺は……』


 と、そこで言葉を止めて。

 しばらく考え込むように呆然と、おっちゃんは地面を見つめていた。

 俺もつられて地面を見る。

 だからといって何があるわけでもない。──いや、あるのか?


 ……。


 しばらく一緒になって地面を見ていたが、やがておっちゃんがフッと視線を空へと向ける。

 俺もつられるようにして空を見上げた。

 雲一つなく快晴に澄みきった、青い空だった。


 ……で?


 俺はおっちゃんへと視線を落とす。


 ここには何しに来たんだ? おっちゃん。


 おっちゃんが自嘲するように鼻で笑ってくる。

 視線を空から俺へと落として、


『そうだな。俺は──ここに墓参りに来た』


 墓参り?


 俺は首を傾げる。


『まぁいい。とにかくこれに着替えろ。ここは日差しが強い。そんな服で日を浴びたら大変なことになるぞ』


 言われて俺は、今着ている服へと視線を落とす。

 冒険者が最初に着る旅立ちの服といった感じの服装だった。

 半袖ではあるのだが、この世界の服は向こうの世界と違って生地が厚い。

 すでに暑さを感じて体から汗が流れていた。

 俺は胸部分の服を掴むとそこをパタパタとあおぐ。


 ってか、おっちゃん。なんかスゲー暑いんだけど。なんでこんなに暑いんだ?


『そういう土地なんだ。ここは日中、常に気温四十度を上回る』


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 ここ、ゲームの世界なんだよな?


『そうだな』


 そうだなって……。もういいよ。こんなにクソ暑いとは思わなかった。今すぐ帰りたい。


『三時間後だ』


 はぁ!?


『最初から三時間という約束だっただろう』


 いや、まぁ……たしかにそういう約束だったけどさ。


『いいから。しばらく俺の用事に付き合え』


 ……。


 いつになく真剣な顔して言ってくるおっちゃんに、俺は怪訝に首を傾げた。


 何か企んでいるだろ? おっちゃん。


 その言葉におっちゃんは、お手上げしながら口をへの字に曲げ、肩を竦める。


『いや、別に。お前に少し手伝ってもらいたいことがあるだけだ』


 だから、その手伝いって何?


『……』


 しばし黙り込んだ後。

 おっちゃんがぽつりと言ってくる。


『言わないとダメか?』


 ……。いや、別に。


 なんとなく聞くに聞けない雰囲気になってしまい、俺は仕方なく了承する。


 わかった。手伝うよ。手伝うけど……本当に、ちゃんと三時間で元の世界に帰してくれるんだよな?


『必ず三時間で向こうの世界に帰す。約束だ』


 だったらわかった。


『いいから早くその服に着替えろ』


 ……。


 その服──俺はさきほどおっちゃんから手渡された服装へと視線を転じた。

 何気なしに広げて見つめ、しばし観察する。

 着易そうな一枚の薄布で出来た白いワンピース。とても涼しそうだった。

 とりあえず今着ている服を何枚か脱ぎ、薄着になってから袖を通してみる。


 ん?


 着てみて気付いたが、この服、頭部分に頭巾フードが付いているらしく、それを被ると目と手以外は露出しない作りになっていた。

 特に顔部分が覆面な感じになっていて、この目──

 俺は目元部分まで覆う布を指で引っ掛けて伸縮を繰り返しながらおっちゃんに言う。


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 これ必要なのか? 目だけ出すとかスゲー怪しい人物になるんだけど、俺。


『気にすんな』


 気にするだろ。


『念の為だ。コードネームK=クトゥルクという噂が出回っている。用心はしていた方がいい』


 え、マジで? 名前は? 変えた方がいいのか?


 おっちゃんが鼻で笑う。


『お前は正直過ぎるからな。どうせ偽れと言ったところでヘマするのは目に見えている』


 あーうん。嘘は昔から苦手なんだ。すぐにバレるから。


 おっちゃんが呆れるように顔を歪める。


『だろうな。顔見ればわかる。――他に質問は?』


 三時間後にはログアウトさせろ。絶対にだ。


『わかっている。他には?』


 バトルレースって何時から?


『明日の昼からだ』


 ……。


 騙されたことに気付くまでに数秒は要した。


 はぁ!?


『嘘は言っていない。明日になったら改めてまたこっちに呼ぶ』


 ちょ、待て。じゃぁ俺はいったい何しにこの世界に来たんだよ。


『俺の用事に付き合えと言っただろう。三時間でいい。お前にやってもらいたいことがある』


 ……やってもらいたいこと?



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