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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第3話 朝倉が変だ


 ──あれから。

 部活やら何やらで、話は解散となり俺たちは散り散りになった。

 俺と朝倉の属する部活については、今日は部長が休みだから無いそうだ。

 

 下校する俺と朝倉に、後から追いかけてきた上田──ちなみに帰宅部──が一緒になり、そのまま朝倉の家に遊びに行くことになった。

 どうやら朝倉が口にしたオンラインゲームのことが気になったらしい。

 オンラインゲームの話は上田にとって大好物だ。

 帰り道も俺たちとは逆方向なのだが、そんな話題が出たとあっては素直に帰れないのが彼の性分。

 そんなわけで、帰り道はオンラインゲームの話になったのだが……。

 上田が朝倉の様子を心配する。


「お前さ、いつも女の話以外は口にすることなかったじゃん。なんか悪いモノでも食ったか?」


 俺も隣で納得するように二度頷きを返す。

 たしかに朝倉とは小学校からの付き合いだが女以外の話は初めてだ。

 ――しばしの間を置いて。


「……え?」


 朝倉はやはり俺たちの話には上の空だった。

 普段とはどこか様子の違う朝倉に、俺と上田は心配になって尋ねる。


 いったいどうしたんだよ、朝倉。


「なんかいつものお前らしくねーじゃん」


 心配する俺と上田をよそに、朝倉はいつもとは違う──どこかぼんやりと、魂の抜けたかのような空っぽの調子で答えてくる。


「あー、なんか自分でもそう思う。……なんだろう。彼女と別れたからかな」


 は!? お前、もう別れたのか!


「早くね? それ。だってお前等、付き合ってまだ一ヶ月も経ってなかっただろ!」


「あー、うん。なんとなく……」


「なんとなく!? あんだけ彼女とラブニャンしといてなんとなくで別れたのか!」


 最低だろ、お前! 最低すぎる!


 そんな俺と上田の非難の声にもどこか気の抜けたような声で、朝倉は言葉を返してくる。


「いや、なんか向こうから別れようって言ってきたんだ。オレもなんとなく……そう思っていたし」


 ……。


 俺は無言で上田と顔を見合わせた。

 上田がお手上げして言う。


「ま、朝倉らしいと言えば朝倉らしい別れ方だな」


 相変わらず、か。


 ――その後。

 俺たちは道を歩きながら、くだらない日常の話で盛り上がった。

 その流れからまた自然とオンラインゲームへと話が戻る。

 大好きな話題とあってか、上田がとても興奮していた。

 通りがかった公園で、上田がハイテンションにいきなり公園内へと駆け込んでいく。


 おい、どこ行くんだ上田!


 呼び止める俺に上田がぴたりと立ち止まる。

 そしてちらりと振り向いて、カモーンとばかりに俺と朝倉を公園の中へと手招く。


「オレについて来い、UMA・朝倉! まずは公園の中に転移だ、ぶおんぶおん!」


 なんか口から変な効果音出てんぞ、上田。


「転送音だ」


 あー、たしかに。なんかそんな音してたな。


 俺の隣でなぜか朝倉が急にテンションを上げてくる。

 俺と向き合い、襲い掛かるような構えを取って機械的な口調で言ってくる。


MUMAマジでうざいぐらいモテるあそびにんの前に敵が現れた」


 誰がMUMAだ、コラ。お前に言われたくねぇぞ。


 半眼で唸る俺に向けて、上田がどこからか拾ってきた木の枝を投げ渡してくる。

 俺は何気に、上田から投げ渡された木の枝を受け取った。

 すると上田が女々しく恥らうように体をくねらせ、瞬きをしながら裏声で俺に言ってくる。


「援護は任せてUMA君。私がやるわ」


 ――ってか何キャラだよ、それ! どう扱っていいかわからねぇーだろ!


 すると瞬時にしてさっきまで女々しくしていた上田の表情が、急にハードボイルド系に切り変わる。

 キメ顔で声のトーンを落とし、


「油断禁物だぞ、UMA」


 ってか誰だよ! いきなりキャラ増やすなよ!


「キャラ・チェンジだ。増えていない。今のオレは【最高の料理人】ディーニだ。お前の胃袋は任せろ」


 お前そうやってゲームの中でも戦闘中にマジでキャラ・チェンジしてきたよな!


「あの時はすまん」


 今頃謝ってくんな!


 油断した俺の隙を突いてか、朝倉がいきなり両腕を挙げて俺に襲い掛かってくる。

 機械的な口調で、


「敵がUMAに襲い掛かってきた」


 ――。


 俺は真顔になって、襲ってくる朝倉の胴めがけて木の枝でぎ払った。

 しばらくの間を置いて。

 背後で朝倉が「ガクリ」と呟くとともに、倒したことを示すかのようにダラリと力抜いて体をしな垂れさせる。

 俺は勝ち誇ったように鼻で笑い、決め台詞を残す。


 戦利アイテムは全部お前等にくれてやる。好きなだけ持っていくがいい。


 そんな俺の背後で、素に戻った朝倉と上田が二人で話す。


「――と、まぁ一例を話せばこんな感じだ」

「へぇ。あと他にはどんなのがあるんだ?」


 放置すんなよ! 恥ずかしいだろ!


 俺は赤面ながら両手をわななかせた。




 ※





 ──そして、またそこからの帰り道。

 俺と朝倉と上田は、住宅街の中を歩きながら会話していた。

 朝倉の家まではもう間近。

 そんな時だった。

 ふと、上田が何かを思い出したかのように朝倉に尋ねてくる。


「――ってかさ、なんで急にオンラインゲームやろうと思ったんだ?」


 その問いかけに、朝倉がぽつりと答える。


「……なんとなく」


「なんとなく?」

 なんとなく?


 問い返す俺たちに朝倉は頷く。


「最近姉ちゃんがオレにお古のパソコンをくれたんだ。新しいパソコン買ったからって。

 そんで、オレもインターネット始めてみっかなーで始めてみたはいいが……。ネット繋いだ瞬間、いきなり変なオンラインゲームが画面にバーンって出てきて──」


 それ、homeの問題じゃね?


 俺のツッコミに、朝倉が眉間にシワを寄せて難しい顔をする。


「homeってなんだよ。そんな専門用語言われたってわかんねぇーよ」


「それ何てゲームだ? 名前は?」


「知らね。気味悪いからすぐに消した。だけどネット立ち上げるたびに毎回そこに繋がるんだ」


「それ、homeの問題じゃね?」


「だからオレに言うなって。専門用語とか言われてもわかんねぇから。

 一応、姉ちゃんにも相談したんだけど、そういうゲームに登録した覚えはないって言うんだ」


 ウイルスか?


 俺の問いかけに、朝倉はお手上げして答える。


「さぁな。わかんね。姉ちゃんが今調べてくれている」


 すると途端に、上田が得意げになって話に食いついてくる。


「そのゲームってどんなやつだった? 名前はともかく、どんな画面だったか言ってくれたらオレ大抵わかるぜ」


「いや、それがさ。ほんっと気持ち悪いんだよ。タイトルとかそんなの全然無くて、音も無いし、とにかく画面が真っ黒なんだ。黒一色。そこに【ID】って文字だけが出てて、勝手に【Y】って決められているんだよ。気味悪いだろ?」


 答えを聞いた途端、上田が両腕をさすって言葉を返す。うへぇと吐くような感じで顔を歪めて、


「なんだよ、それ。気持ち悪いー。どこのホラーだよ」


「そして声が聞こえてくるんだ。3Dで。なんかほんと、脳みそン中に直接響いてくるような感じで聞こえてくるっていうか」


 ――声?


 俺は怪訝に問い返した。

 上田が軽く笑ってツッコむ。


「あ。それ、あれじゃね? ブラッディ・ゲーム」


 ブラッディ・ゲーム?


 俺の問いかけに、上田がいつになく真面目な顔で頷いてくる。


「あぁ。最近ネットで噂になっているゲームの話。オレも別ゲームのチャットで知ったんだけど、その【ブラッディ・ゲーム】って謎ゲーが神出鬼没に繋がるらしいな。

 しかもなんかこう、繋がった瞬間、いきなりどこからか不気味な男の笑い声が聞こえてくるんだってさ。でもそれっきり。何があるわけでもないらしんだけど、でも都市伝説によると、その笑い声を聞いた奴は百人に一人の確率でゲームの世界に行けるらしいぜ」


 ゲームの世界に?


 俺は真顔になって足を止めた。

 急に上田が俺を見て「ぷっ」と噴き出し笑ってくる。片手を振りながら、


「馬鹿、お前。何マジになってんだよ。冗談だよ、冗談。信じんなって。ンなもん、そのゲームをやらせる為のステマに決まってんじゃん。本当なわけねーって」


 それ、もっと具体的に教えてくれないか?


「はぁ?」


 問い返してくる上田に、俺は真剣な顔して肩を掴み、迫るように尋ねる。


 内容は? どんな感じだった? 頭の中でおっちゃんの声が聞こえてくるとか言ってなかったか? 何でもいいから教えてくれ。


「なんでお前、そんな食いついてくるんだ?」


 あ、いや、別に……


 意味分からないと言わんばかりの顔で見てくる上田に、俺はパッと上田から手を離して引きつる笑いでその場を誤魔化す。


 いや、まぁえーっと、その、あれだよ。都市伝説にちょっと興味があるっていうか、なんつーか……なんつって。あは、あはは。


「だったら怖い話も平気だよな?」


 え?


 急に上田が真顔になる。

 俺の肩に手を回して引き寄せると、声を落として真剣に話し始める。


「実はさ、ここだけの話なんだけど。知ってるか? UMA。ブラッディ・ゲームの元ネタの話」


 俺は口端を引きつらせて後ずさる。


 い、いや、知らね……。


「都市伝説ググったら出てきた話なんだけどな。

 十年前に悪戯ウイルスが流行していた時があったらしくて、それでその当時、それの製作者が死に際に最後の遺作を放出したらしくって、その遺作が未だにネットのどこかを彷徨っているらしいんだ。

 そしてそのウイルスが神出鬼没にパソコンを乗っ取っては画面を真っ黒にして、その後、部屋のどこからかその死んだ製作者の不気味な笑い声が静かに聞こえてくるらしいんだ。

 その笑い声がだんだん、だんだんと近づいてきて、最後には耳元でこうささやくんだってさ。

 ──「ようこそ」って。そしてその謎ゲーに繋がるらしいんだけどな」


 俺は目を点にする。


 ……で? なんでそれが血のブラッディ・ゲームなんだ?


「ん?」


 顎に手を当てて首を傾げ、上田は曖昧に答える。


「んー……。さぁな。そこは知らね。あれじゃね? 最後は呪い殺されて死ぬとか、画面から貞子が出てくるとか、包丁を持ったジャック・オー・ランタンが殺しにくるとか、そんなオチだろ?」


 なんだよ、その中途半端な怖い話は。


「なはは。悪ぃ悪ぃ。つい、お前がマジ顔するからさ。からかってみたんだ」


 それを聞いた朝倉の目がキラリと光る。

 ぐっと拳を握り締めて、


「もしかして今オレ、その都市伝説体験しちゃってるのか? このネタ、ウソホンに投稿してもいいよな?」


 上田が呆れ顔で朝倉を見やる。


「お前ってさ、怪談話とか都市伝説とかそういう系の話になるとスゲー勢いで乗ってくるよな」




 ※




 その後。

 朝倉の家に到着した俺達は、家の人への簡単な挨拶もまばらに、そのまま朝倉の部屋へと入った。


 部屋に入って。

 朝倉自らが、机上に置かれたデスクトップ型パソコンの電源を立ち上げる。

 怖い話をした後とあってか、俺たちは内心ちょっとびくびくと怖がっていた。

 三人で怖々と見守る中、恐る恐るネットに繋いだのだが……。


「あれ?」


 大手検索サイトが普通に繋がるだけだった。

 内心ちょっとビビっていただけに、俺と上田は呆気ない結果にずるりと肩を滑らせる。

 朝倉が首を捻る。


「おかしいな。いつもはこんな画面なんて出てこねぇのに」


 俺は尋ねる。


 もしかしてその時、広告に触ったとかしてないか?


「いや、だから最初から画面が真っ黒になるんだって。こんな画面なんて一度も出てこなかったし」


「ふーん……」


 上田が専門的な顔して画面を見つめ、しばし考え込む。そして、


「じゃぁオレがちょこっと、このパソコンいじってみるけどいいか?」

「いいぜ。頼む」


 朝倉の了承を得て、上田がキーボードに触れる。


「あ。その前に朝倉、バックアップするようなもんってこの中に入ってるか?」

「ばっくあっぷ?」


 首を傾げる朝倉に俺が横から教えてやる。


 保存だよ。エロ画像とか大事なもんがこのパソコンに入っているかどうか。


 朝倉の目がキラリと光る。


「え、なにそれ。パソコンでそんなん見れんの? マジで?」


 俺は上田に目で合図した。


 上田。心置きなくやれ。


「了解」


 その後、上田が色々と専門的なことをやってくれたようだが、結局その日は何も出てくることは無かった。



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