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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 前編】 バトル・ドラゴンズ
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第2話 MMORPGって、何?


 一日の授業も終わりを告げて。

 締めとなるホームルームも終わって、ようやく解放された放課後のことだった。

 担任が教室を去ると同時に、隣の席に座る朝倉がいつになく真剣な顔で俺に話しかけてきた。


「なぁ。MMORPGって、何?」


 え?


 帰宅の準備を始めていた俺はいきなり突拍子も無い質問に目を丸くし、呆然とその場に固まる。

 急に真剣な顔で何を言い出すかと思えば。

 するとそこにミッチーが椅子を片手に現れて俺の隣に腰掛けてくる。

 さも当然と会話に口を挟み、


「マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム。その頭文字をとってMMORPGだ」


「へぇ」


 尋ねておきながら素っ気無く。

 朝倉はあまり関心無さそうに相槌を打つ。

 ミッチーが朝倉に目を向けて尋ねる。


「なにお前、ゲーム始めんの?」

「別に」


 そう言って朝倉は関心の無いようなフリしつつも、なお淡々と質問を続けてくる。


「略称はわかったけど、要するにそれって何?」


「MMORPGとは大規模多人数同時参加型オンラインRPGだ。

 インターネットで繋がった一つのヴァーチャル世界で、知らない奴とチャットみたく話したり、一緒に冒険してレベル上げしたり、時間で沸いてくるモブを倒したり、結婚したり、料理したり、裁縫したり、いろんな武器防具を作ってみたり、それを強化エンチャットしてみたり、決闘や戦争、洞窟収集と、まぁ個性感じる娯楽ゲームってとこだな。

 ――あ、そういや」


 何を思い出したのかミッチーがポンと手を打ち、俺に顔を向けてくる。


「たしかUMAと福田と上田がギルド組んでやってたよな? えーと、あれなんだっけ? スターなんとかオンライン」


 違う。ソーシャルスター・オンラインだ。


「あーそれそれ。お前、今やってんの?」


 やってねぇ。テストと補習と宿題の嵐でそれどころじゃねぇってんだよ。


「だよなー。荒俣の宿題とかパないしな。上田ンとこなんかこの前のテストが散々だったせいで母ちゃんに回線ぶった切られたらしいぜ」


 聞いた。だから休日は塾に行くフリして五時間ほどネカフェ通いしているらしいな。


「親にバレるのも時間の問題なのにな」


 だな。


「つーか、この前の上田のテスト馬鹿ウケだったよな。【織田信長は本能寺でカンスト】だっけか。あの時はスゲー腹抱えて笑わせてもらったよ。

 知ってるか? センコーの奴、全クラスに名前伏せてダメ例文でウケ狙いに言いまくっているらしいぜ。お前の【パン何とかポテトチップス】って魔法の呪文も含めてな」


 ほっとけ。あの時は俺もどうかしていたんだ。


「でもさ、それ荒俣のテストの時じゃなくて良かったよな。荒俣の奴、今チョー機嫌悪いぜ。

 もしそんなこと書いてたら、今頃きっと『我が校の乱れのなんたるか!』とか怒鳴り散らして、お前ら二人、絶対休日丸ごと奉仕作業やらされてたぞ」


 ただでさえ綾原がいなくなって学校の偏差値がどうのこうのと怒鳴ってんのに、これ以上荒俣の機嫌は損ねたくねぇしな。


「ははは。たしかにな。――あ。ってかさ、UMAって普段休日とか何してんだ? 家や塾でオニ勉してるわけでもなさそうじゃん。カラケ誘っても用事あるとかで来ねぇし」


 別に。普通。あと俺をUMAって言うな。


「UMAはUMAだろ。うぜーぐらいに・モテる・遊び人。略してUMA。夏休みの行方不明騒動で、実は女の家に泊まってたって噂になってるぜ」


 泊まってねぇよ。誰だ? そんなデマを流したのは。


 すると。

 話を聞いていたのか福田と上田が椅子を片手に集ってくる。


「あ、それオレも知ってる。青山校の女子だろ? アイドル並みにかわいいって噂だぜ」


「商店街のラブきゅんデートを何人も目撃してんだよ。そろそろ正直に吐け。お前、ほんとは彼女いるんだろ?」


 誤解だっつってんだろ。あれはただのダチだ。向こうからハッキリそう言ってきたんだ。


 急にガタリ、と。

 三人のダチは驚愕に青ざめた顔して激しく席を立つ。

 口元をわなわなと震わせ、


「な、なんてことだ……!」


「今まで女に縁遠いはずだったお前が、いきなり何の繋がりもない他校の美少女と『オトモダチ』だと?」


「しかもよりにもよってあの女子レベルの高い青山校を!?」


「なぁ、教えてくれよ。どうすればあんなミラクル・ヒットな美少女とラブコメゲーム的な出会いができるというんだ? 王道か? 毎朝パンくわえて走ってればいいのか?」


 違う。あれは関わってはいけない暴力女だ。彼女とは公園で朝倉と一緒に居た時に一方的に絡んできたんだ。


「逆ナンか?」


 うーん……。


 俺は難しい顔して腕を組み、首を捻る。


 逆ナンというより、あれは──


「逆ナンなんだろ? そうだと言え」


 いや、ハッキリ言わせてもらう。あれは自然災害だ。俺たちはあの公園で自然災害に会ったんだ。──そうだよな? 朝倉。


「……」


 呆然と。

 こちらの話など上の空といった感じで、朝倉は一人考え事をしていた。

 俺は朝倉に呼びかける。


 おい、朝倉。


「ん?」


 ようやく朝倉が俺を見てくる。

 俺は呆れ目で朝倉に言う。


 いや、「ん?」じゃなくてさ、何とか言ってくれよ。これじゃまるで俺が嘘言っているみたいじゃないか。


「え? あ、悪ぃ。話聞いてなかった」


 その直後、ミッチーが不気味に笑ってくる。

 さりげなく俺の首にぐるりと腕を回して絞め上げ、


 ぐっ!


「あはは。嘘はいけないな、UMA君。もっと正直な心で話そうや」


 いや、ほんとマジで。これ実話なんだが──


 上田と福田が指の関節を鳴らしながら俺に迫る。


「いやいや、UMA。そんな慌てて作り話せずとも本当のことを正直に話せって。青山女子がそんなことするはずないだろ? 彼女らは清楚かつ天使だ。暴力を振るうわけがない」


「虫よけか? オレ達が彼女にたかるのを避けているのか?」


 ふと。

 教室から女子が怒りの声を投げつけてくる。


「ちょっと福田君! あんた今日掃除当番でしょ! そんなとこでサボってないで早く掃除やりなさいよ!」


「そーよそーよ! あたし達ばっかりやらせてんじゃないわよ!」


 舌打ちして、福田が仕方なしに返事する。


「あーはいはい、わかったよ」


 そして気だるく俺たちに背を向けて後ろ手を振る。


「女子がうるせーから掃除してくる」


「おう」

 じゃぁな。

「いってらー」


 去り行く福田の後ろ姿を見送って。

 その福田と入れ替わるようにして柏原がやってくる。


「おぅ、お前ら。何の話してんだ?」

 

 ミッチーが言う。


「UMAがUMAと言われる理由を話していたところだ」


 その言葉にパンと手を叩いて、柏原がハイテンションに両の人差し指を俺に突き立ててくる。


「うほっ。それ超タイムリー。UMAお前さ、アキバラの【みゃんにゃん喫茶】に彼女がいるってさっきオタ三島から聞いたんだけど、本当か?」


 背後から浜田が壊れたように笑いながらやってきて俺に言う。


「こっちは綾原とも付き合っていたって噂も聞いてんだよ、コラ。真面目そうな顔して三股か? この野郎。正直に吐け。そして表へ出ろ」


 お前らが普段どんな目で俺を見ているのか、今のでよくわかった。そして誰も俺を信じてくれていないという真実にすげーショックだ。お前ら俺のダチだよな?


「おぅ、ダチだぜ。青山校の女子を紹介してくれたらな」

「次の休みはカラケに行くぞ、UMA。そしてその青山女子を連れて来い」

「ちゃんと彼女にダチ連れてこいって言っとけよ」

「オレ達の誰かが彼女と付き合ったとしても文句なしだからな」


「あのさ」


 盛り上がりかけた会話を割いて、朝倉がぽつりと言ってくる。


「オンラインゲームって……インターネットに繋がないとゲームってできないんだよな?」



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