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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第61話 思わぬ襲撃者


 あっという間だった。


 親犬が子犬をくわえる感じに、俺は体ごと白狼竜の口にくわえられて上空高く持ち上げられていった。

 まるで逆バンジーをされたかのように。

 俺は一瞬にして立ちくらみするほども高い場所に持ち上げられ、そこで静止するはめになる。

 落ちたら百パーセント助からない。

 そんな高さを感じる風景が真下に広がる。

 テレビでよく芸能人が、海外ロケのバンジーをやらされて飛ぶ直前になって座り込みマジ泣きしているのを見るが、その気持ちをようやく分かった気がする。

 ――ってか泣くぞ、この高さ!

 すくみ上がるような高所に、俺は力抜けるようにしてジッとそこに大人しく固まるしかなかった。

 

 しばらくして。


 白狼竜が威嚇するように低く、唸り声を上げ始める。

 すると闇の中から一筋の軽い雷撃がこちらへと届いた。

 それは当たる寸前の空中で拡散し、白狼竜の周囲をぐるりと取り囲む。

 周囲を軽い静電気のようなものが包み込み、走り抜けていく。


 な、なんだ? 何が始まるんだ?


 俺はわけわからず戸惑った。

 攻撃なのか、いったい何なのか。

 防ぐ術も知らずに俺はただそれに怯える。


 すると、静電気だったものがしだいに大きくなり、激しい雷へと進化した。

 辺りに雷鳴が次々と轟き始め、天空からいくつもの太く力強い稲光が大地に雷の柱を打ちつける。

 拡散していた雷がやがて白狼竜を中心に一箇所に集い始める。

 中心となる虚空に、激しい電流ほとばしる白い球体が生まれた。


 その球体から一気に。

 光の奔流が放たれた。

 まるで砲撃であるかのように。

 一条の奔流が大地をえぐって真っ直ぐに突き進み、着撃したその一帯を大きな爆壁で包み込む。

 同時に襲い来る轟く爆音、そして強く肌を叩きつけるような風に、俺は反射的に腕で顔を覆い守った。


 やがて。

 音が止み、風が消えて安全を確認したところで、俺は覆っていた腕を解いた。

 開ける視界。

 その目前に広がる光景に俺は呆然とした。

 一帯が瞬時にして木っ端微塵の焦土と化していたからだ。

 次いで二弾目を放とうとした白狼竜に気付き、俺は慌ててそれを止める。


 やめろ! あの場所には避難している人たちだっているんだぞ!


 放とうとした光が消え、白狼竜が急に大人しくなる。

 俺の頭の中に直接響いてくる声。


 敵ガ居ル。タクサン、タクサン居ル。


 俺は白狼竜に向け内心で叫んだ。


 だからなんだってんだよ! いいかげん俺を下ろせ! 俺の声は聞こえているんだろ!


 君ハ 戦オウトシナイ。場所ガ 悪イカラ。


 場所のこと言ってんじゃねぇんだよ! 俺は戦う気なんてないからな! どうでもいいから早く下ろしてくれ!


 ドコヘモ 行カセナイ。君ハ コノ世界ノ 覇者ニ ナル。


 ならない! なるつもりもないし、この力も誰かに譲ってもいい! 俺はこの世界の人間じゃないんだ! 早く元の世界に帰らせてくれ!


 白狼竜がのっそりと立ち上がった。

 何を思ってか体勢を低くしていく。

 俺はホッと安堵に胸を撫で下ろした。


 良かった。俺を下ろしてくれるのか。


 ──と思いきや、下ろす気配を全く見せることなく、それどころか両翼を大きく広げていく。

 その両翼をゆっくりと羽ばたかせて。

 飛び立とうとしていることに気付き、俺は今頃になってようやく白狼竜の口の中から抜け出そうと無我夢中になって焦り暴れた。


 下ろせよ! 下ろせっつってんだろ! 俺の言うことが聞けないのか!


 君ヲ アノ世界ニハ 行カセナイ。

 絶対ニ……


 俺の脳裏におっちゃんの言葉が過ぎる。


【下手すればお前が白狼竜に拉致られる。拉致られたが最後、そのままどこか遠いところに連れさらわれて二度と向こうの世界へは帰れなくなるだろう。俺もそこまでお前を捜しきれるわけじゃないしな】


 俺は青ざめた顔で、白狼竜の口を叩きながら必死になって命じ続けた。


 お前は俺の使い魔なんだろ! だったら俺の命令がきけるはずだよな? お座りだ! お座りができるか? できるよな? 頼むから一度座ってくれ、マジで!


 君ハ クトゥルクヲ 使ワズニ 命ジテイル。ダカラ 命令ニハ従エナイ。


 だったらすぐ下ろせよ! 俺を主と認めてないなら連れ去っても意味がないだろ! 俺はクトゥルクなんて絶対に使わないからな!


 クトゥルク ハ 君ノナカニ存在スル。イツデモ チカラハ 引キダセル。君ハ クトゥルク無シデハ コノ世界ヲ 生キラレナイ。


 生きられないから元の世界に帰るんだよ! こんなゲームみたいな世界で一生を終えてたまるかッ! いいかげん下ろせよ! 俺をあの世界へ戻させろ!


 俺の声を無視して、白狼竜は羽を閉じることなく足に力を入れていった。

 後は地面を蹴って空へ羽ばたくだけ。

 その瞬間がもうすぐ来ようとしている。


 もう無理だ……。

 

 俺は諦めるように脱力した。

 このまま二度と元の世界へは戻れないんだ、と。

 全てを諦めかけようとしていたその時だった。

 ゾン! と貫くような、あの時の恐怖が襲ってくる。


 この気配──!


 闇から生まれ出てくる、炎に包まれた漆黒の大きな黒炎竜ドラゴン

 リラさんの村を紅蓮の炎で焼いた、あの時の黒炎竜だった。



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