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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第54話 おっちゃん、ごめんな。


 金具が弾け飛び、扉が勢いよく開いた。

 セディスが俺たちに向けて言い放つ。


「何をしようと無駄ですよ。最初からあなた達に逃げ場など無いのですから」


 俺と綾原は部屋の中央で佇み、セディスを睨み据えた。

 綾原がセディスに向け、破った本の一ページ──帰還魔法陣リ・ザーネの描かれた紙切れ──を見せて言い返す。


「これでも私たちに逃げ場など無いと言い切れますか?」


 タイミングを見てモップが俺の肩から飛び降りて床に着地する。


『元気でな、坊主。あとのことは俺に任せろ。事が落ち着いたらまた連絡する』


 わかった。おっちゃんも元気でな。


 簡易の別れを交わし、俺はセディスへと向き直った。

 綾原が静かに目を閉じ、詠唱を始める。


 これで終わりだ。


 俺は安堵の息を吐く。

 しかし──。

 セディスの表情に不敵な笑みが浮かぶ。


「言ったはずですよ、奈々。何をしようと無駄だと」


「……」


 ふいに綾原の詠唱が止まった。

 俺は綾原へと目を向ける。


 いったいどうしたというのだろう?


 綾原が目を開いてきた。

 そして悔しそうに唇を噛み締めてから、呟く。


「戻れない……」


 ――え?


「リ・ザーネが発動しない……」


 セディスが勝ち誇ったように笑う。


「当然です。どんなに知識を得ようと所詮は異世界人。魔力を持たない異世界人にリ・ザーネほどの大きな魔法を操れるはずがないのですから。あなたがこの世界を行き来できたのも私が手を貸したから成功しただけのこと。

 ──だから先ほども私は申し上げたはずですよ? 最初からあなた達に逃げ場など無い、と」


 感染した神殿兵たちが次々と部屋に入り込んでくる。

 ゾンビのような歩き方で、ゆっくりと。

 感染が広まっている。

 神殿兵の数がさきほどにもさらに増えていた。


 その神殿兵たちの行く手を遮るようにして。

 物陰に隠れていた巫女が飛び出し、俺たちを守るようにして両腕を大きく開き、神殿兵たちの前へと立ち塞がった。

 神殿兵たちの前に透明な結界の壁が現れる。

 その壁に阻まれ、神殿兵たちは皆、その場で歩みを止めるしかなかった。

 セディスがフフと落ち着き払った笑いを浮かべる。


「巫女様、その距離では感染してしまいますよ」


「巫女様!」


 巫女の傍へと駆け出そうとした綾原を、俺は全力で引き止める。

 行っても、もう……間に合わない。

 俺は耐えるように強く綾原を抱きしめ、その場に留めた。

 巫女が吐血し、苦しむように胸服を握り締めて床に膝をつく。


【ここで殺されたのなら、それも運命。この世界では戦いが全て。戦いに勝てぬ者は死ぬだけです】


「いやぁ! お願い、離して! 巫女様が……!」


 綾原が泣き叫びながら俺から離れようとする。

 それでも俺は頑なに掴んで綾原を離さなかった。


【行って、奈々。彼と一緒に。

 私はこの世界の人間です。この世界で起きたことは私自身の力で解決します。故にあなたとともには行けません。あなた達二人だけでも元の世界へ】


 巫女が命張って助けてくれたんだ。ここで二人して死ぬわけにはいかない。


 モップが俺の肩へと登りあがってくる。


『巫女はもう助からない。予定を変更しよう。すぐにここを離れるんだ。俺もこの体で大きな魔法は扱えない。だがディーマンならなんとかできるかもしれん。一旦ここを退くぞ。巫女が向こうに隠し通路を用意してくれている』


 ……。


『おい、聞いているのか? このままここに居たら全滅だ。一旦ここを退くぞ』


 俺は無言で下唇を噛み締める。


『おい、聞いてるのか!』


 ……おっちゃん、ごめんな。


 俺はそっと綾原を掴む手を緩めた。

 綾原が俺を見てくる。

 俺は安心させるように微笑した。


 大丈夫だ、綾原。


 そう内心で告げて、俺は綾原の手からリ・ザーネの魔法陣が描かれた紙を取った。

 そのまま綾原をその場に残し。

 俺は一歩、二歩と綾原から後退する。

 追ってこようとする綾原を、俺は手で制してその場に留めた。

 程よく距離を置いたところで足を止める。

 おっちゃんが不安めいた声で俺に言ってくる。


『お前、いったい何を考えている?』


 ……。


 一呼吸の間を置いて、俺はおっちゃんの問いかけに答えた。


 なぁおっちゃん。おっちゃんは俺にこう言っていたよな? こっちの世界で魔法陣を踏んだら、封印のかせが外れるほどの馬鹿デカい力を発揮するって。


『なッ! お前まさか──』


 ……。


 俺は持っていた魔法陣の紙切れを手から離し、床へと落とした。

 紙がハラリと俺の足元の床へと舞い落ちる。

 その紙の上で、俺は片足を軽くあげて宙で止めた。


『やめろ、踏むな!』


 脳裏でセディスの言葉が過ぎる。


【魔力を持たない異世界人がリ・ザーネほどの大きな魔法を操れるはずがないのですから】


 それって俺が大きな魔力持っていれば何の問題もないわけだよな?


『よせ、馬鹿野郎!』


 おっちゃんの声を無視して。

 俺は魔法陣の上に片足を踏み下ろした。



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