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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第48話 覚醒しようとする力


 俺と巫女は大神殿内部へと逃げ込むことに成功した。

 祭りであったことが幸いし、神殿内部に兵は少なく、隠れるのは容易だった。

 そう。隠れるまでは──。


 壁を沿い、隙を見ながら俺と巫女は移動する。

 前を先行く巫女の後を追うようにして、俺もついていく。

 すると巫女は何を思ってか、急に傍にあった窓から身を乗り出して飛び出し、庭園へと降り立つとそのまま茂みへと向かって駆け出した。

 俺も迷わずそれについていく。

 そして。

 俺と巫女は茂みの中に一緒になって身を潜めた。


「居たか?」

「いや、こっちには居ない」

「捜せ! この近くに隠れているはずだ!」


 慌しく神殿内を行き来していく神殿兵たち。

 俺は顔にあったマスケラを頭上に押し上げておっちゃんに尋ねる。


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 イナさんもDもディーマンも、上手く逃げ切れたと思うか?


 巫女が鼻で笑う。

 合わせるように俺の頭の中でおっちゃんが答えてくる。


『ディーマンも俺も様々な戦場を生き抜いてきたからな。あぁいうのには慣れている』


 カッ、と。

 祭壇のある方角から強い閃光が走った。

 しばらく強く光った後、光は徐々に消えていく。


『あのディーマンが手立てもなく易々と敵地に突っ込んでくるはずがない。なんらかの逃げ道くらいは用意しているさ。捕まった仲間を奪えないほどの戦力なら俺も最初から援護を頼んでいない』


 良かった。


 そう安堵に胸を撫で下ろした時だった。

 突然、俺の額に鈍く針で貫くような痛みが走る。

 急に襲ってきた痛みに、俺はかき掴むように額を押さえた。

 巫女が心配に俺を見て尋ねてくる。


『どうした? 大丈夫か?』


 少しずつ痛みが治まり、俺は額から手を退けて頷く。


 大丈夫。なんでもない。


『そうか。それよりも今心配すべきは綾原奈々だ。「Xには近寄るな」と警告してはいたんだが』


 あのXのことだ。きっと他の手を考えているに──ッぐ。


 再び押し寄せるようにして俺の頭に鈍く痛みが走る。

 あまりに耐え難い激痛に俺は頭を掻き毟るように掴んだ。


『おい、本当に大丈夫なのか?』


 だ、大丈夫。


 本当は大丈夫なんかじゃなかった。

 痛みによるショックからか、俺の顔からスッと血が引いていくのがわかった。

 頭が少しクラクラする。

 そして俺の頭の中で、またあの声が聞こえてくる。

 とても幼い子供の声。


 戦ウノ……?


 少しして、痛みが潮引くように治まっていく。

 俺はおっちゃんにさりげなく尋ねてみた。


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 俺の心の声って、おっちゃんには聞こえているんだよな?


『こうして会話できているからな』


 だったらさっき俺の頭の中に聞こえてきた別の声も、おっちゃんには聞こえぶッ──。


 問答無用に。巫女は俺の頭を荒く掴むとそのまま地面に打ち付けてきた。

 それと同時に神殿兵の声が飛んでくる。


「居たか?」

「いや、居ない」

「もっとよく捜せ!」


 神殿兵の足音が遠のき、しばらくしておっちゃんが何事なく平然とした声で答えを返してくる。


『その声に耳を貸すな。それはお前にしか聞こえない声だ』


 地面に顔を打ちつけたまま、俺は内心でおっちゃんに問いかける。


 俺にしか聞こえない声……?


『北の砦の時も白い子犬がお前に話しかけてきたはずだ。今聞こえている声と同じ声でな』


 俺は記憶を探り、思い返した。

 そういえば言葉じゃなかったけど、たしかにあの時、子犬は俺を見て──


『その声に応えるな。応えた瞬間、お前はクトゥルクの力に意識を呑まれるぞ。あの時みたいにな』




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