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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第46話 神の生贄


 ──翌朝。


 俺は身動きの取れない状態のまま椅子ごと外の広場へと連れ出され、本神殿の前にある祭壇──その一番上となる場所に設置された。


 祭壇はひな壇のような造りをしており、俺の座る場所の──そのもう一段下の場所には、巫女と大神官が座っている。

 階級を意味しているのだろうか。

 祭壇の長い階段を下りた先には中央広場が見える。

 そこにはたくさんの信者たちで溢れかえっていた。


 クトゥルク祭り。

 その名の通り、神の生誕を祝う日である。

 だからこそ俺はこの日に神の格好をしてここに座らされている。


 俺を見張る神殿兵は二人。

 さきほどまで近くにセディスがいたのだが、


『追い出してやった』


 おっちゃんが頭の中で俺に話しかけてくる。


『奴のことだ。待ちに待ち続けたこの機会だ。あの手この手でまたすぐそこに戻って来るだろう』


 それより。

 俺は巫女の背に目を向け、内心でおっちゃんに尋ねる。


 綾原には伝えてくれたのか?


『……』


 しばらくの間を置いて、おっちゃんが答えてくる。


『……上手く伝わらなかった』


 はぁ!?


『伝わらなかったというより、彼女は元の世界に帰りたくないと言っている』


 帰りたくない? なんで?


『ここが彼女の居場所なんだとよ。巫女様の傍を離れたくないらしい』


 離れたくないって──綾原には向こうでの生活があるんだぞ?


『知るか、そんなこと。直接本人に言え。

 ──それと、喜べ。綾原が元の世界へ帰る方法を知っている』


 元の世界へ帰る方法を?


『彼女自身、セディスの傍にいながら独学で覚えていったんだろう。セディスは研究者だ。魔法学の基礎中の基礎を調べに調べていくからな。ルーン文字の知識なんかもそれで自然と覚えていったんだろう。

 ルーン文字が扱えるようになれば、あとは魔法陣の形と組み式、用法・容量を守ることで自由自在に魔法陣による魔法が扱えるってわけだ。

 おそらく向こうの世界で綾原奈々が、教師と魔法陣のことで対決できたのはそのせいだろう。――っつっても、あっちの世界じゃ魔法陣はほとんど効力を発揮しない飾りみたいなモンだけどな。

 まぁそれでも一番ダメージ食らっていた奴が一人居たが……』


 俺のことか?


『言っておくがお前、あっちの世界でも魔法陣には気をつけろよ。封印がかけられている分、魔法陣を踏むことで封印の効力が倍増し、陣の形態によっては体の一部、または全身の機能が麻痺まひする仕組みになっている。

 最悪の場合、心臓や血流、脳といったライフラインに繋がる体の重要機能までもが完全停止するから気をつけろ』


 いや、そういう大事なことはちゃんと前もって言ってくれよ。


『悪ぃな』


 軽いな、オイ。


『まさか魔法が存在しないはずの世界で魔法陣を使っているとは思いもしなかったんだ』


 あぁそうか。だよな。そんな環境にわざわざ足突っ込んでしまって悪かった。


『反省軽いな、お前』


 お互い様だろ?


『まぁいい。――ところでお前、これから何か作戦でも考えているのか?』


 とにかくまずは綾原をXから引き離したかった。


『残念だ。他には?』


 イナさんを助けたい。魔法陣を描く以外にクトゥルクを使う方法は?


『クトゥルクを使えば黒騎士が来る。時と場合と場所を考えろ。ここで黒騎士と衝突すれば多くの犠牲者が出る』


 わかった。今はまだ使わない。だけど事前に使い方を知っておきたいんだ。


『却下。クトゥルクを使わずとも他に方法があるはずだ。考えろ』


 考えるっつったって……ん?


 すると、巫女の足からスルスルとモップがつたい降りてきた。


 モップ?


 モップは俺をジッと見つめたまま巫女の足にしがみつき、固まっている。


『今からそっちにモップを走らせる。お前の傍にいる二人の神殿兵の気を紛らわせろ』


 気を紛らわすったって……。声も出ないし、どうやって?


『上を見ろ』


 上?


 言われて俺は素直に空を見上げた。

 それにつられて神殿兵二人も同時に空を見上げてくる。


 さすがだな、おっちゃん。


 その間にモップが俺の傍へと走ってきて、すぐに服の中へと隠れる。

 俺は何事なく視線を落とす。

 すると神殿兵二人も首を傾げつつ視線を落としてきた。

 服の中でモップがごそごそと椅子の後ろに入っていくのを肌で察する。

 おっちゃんが鼻で笑って言ってくる。


『セディスもミスったな。拘束具を服で隠したことがアダになったようだ。こちらが縄を切ったとしても気付かれにくい』


 さすがだな、おっちゃん。


『縄が切れてもまだ動くなよ。機会を待て。セディスがどんな手段でくるかもまだ読めてないからな』


 足の拘束具はどうするんだ?


『拘束具の鍵は昨夜のうちに俺が密かに盗んでおいた。モップが鍵を毛の下に仕込んでいる。もこもこだったからわからなかっただろうが』


 すげぇな。


『ナイス連携プレーと言ってくれ。動きだす時には合図を送る。それまでそこで待て』


 わかった。


 ──その後。

 おっちゃんから何の合図も得られないまま儀式は着々と進んでいく。

 俺はイライラと落ち着きなくおっちゃんを急かす。


 まだか? おっちゃん。


『まだだ。いいから待て』


 やがて。

 祭壇の前に、拘束されたイナさんが連れてこられる。

 俺は内心叫ばずにはいられなかった。


 イナさん!


『馬鹿、動くな! 縄を解いているのがバレるだろうが!』


 だけど!


『いいから落ち着け。イナはまだ殺されはしない。儀式には順序がある。合図を出すからそれまで待て』


 合図っていつ出すんだよ!? 助けるなら今だろ!


『まだ待て』


 待つっていつまで!?


『まだだ。もう少し待つんだ』


 俺の苛立ちは限界を迎えていた。

 気持ちだけが焦る。


 本当にちゃんと助けるタイミングがあるのかよ! 手遅れになったらどうするんだ!?


『いいから待て。俺を信じろ。ちゃんと合図を送るから、それまで絶対に変な気を起こすなよ』


 心臓の鼓動が高鳴り、汗ばむ手に緊張が走る。

 今はおっちゃんを信じよう。だが──

 最悪の事態のことを考え、いつ何があってもすぐにイナさんのところへ駆けつけられるように俺はそっと体勢をとった。


 祭壇の前にセディスが姿を現す。

 セディスは壇上の俺に向けて軽く辞儀するように頭を下げる。


「この者は神聖なるこの地を汚し、災いをもたらそうとした者です。我らが守りし宝玉もこの者が盗み、壊してしまいました」


 あの野郎ッ! あることないこと言いやがって!


『落ち着け! 感情に流されるな!』


 セディスが両腕を広げて声を荒げる。


「よって。邪悪なる魂を持ちしこの者に、今ここで天罰を与えたもう!」


 大広場から大気を揺るがすほどの歓声があがった。

 拘束されたイナさんが移動させられ、最上階段の端で首を階段に突き出す形で座らされる。

 ともに処刑執行人と思われる、鋭くデカイ大刀を持った一人の神官が現れた。

 俺は苛立ちに内心で叫ぶ。


 まだかよ、おっちゃん!


『まだだ! まだ待て!』


 大刀を持った神官がイナさんの真横に立つ。

 そして神官はゆっくりと大刀を振り上げていった。


 おっちゃん!


『まだ待て! 今行ってもセディスに阻止されるだけだ! まだ動くな、絶対にだ!』


 だけど!


『いいから待て!』


 振り上げられた大刀が高い位置で止まった。


 ――イナさんが殺される!


 そう強く思った瞬間、俺の体の中で異変が起きる。

 心臓がドクンと激しく脈打つ。

 北の砦の時に感じた激しい力が全身に湧き上がり駆け巡っていく。

 頭の中に聞こえてくる、おっちゃん以外の声。

 あどけなく、それでいて幼い子供の声。


 戦ウノ……?


 ――え?


 俺がハッと我に返ると同時、どこからか鎖状の物が絡まるような金属音が鳴り響く。

 周囲にどよめきが走ったのはその直後だった。



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