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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第42話 Xの企み

 

 階段を踏みしめていくことで上階に連れて行かれたのはわかった。


 目隠しをしたのは逃走経路を図られないようにする為か。

 そこからどのように移動していったのかは把握できない。

 強制的に誘導され、俺はそれにただ素直に従い、歩くことしかできなかった。


 どのくらい歩いただろうか。

 ずいぶんと平坦な道を歩かされた気がする。

 それまで足枷のチェーンの音や足音が響いて聞こえきたのは、そこが狭い通路か、まだ地下内だったせいかもしれない。

 二度目の階段を上ることで、ぱったりと音は響かなくなった。


 上ってすぐ角を曲がる。

 そこからまたしばらく歩き──。

 ある場所で立ち止まらされた。


 扉の開く音が聞こえてくる。

 どうやら俺はどこかの部屋の中に連れ込もうとしているようだ。

 そのまま再び歩かされ。

 しばらく歩いた後に、椅子らしき場所に強制的に座らされた。


 もちろんそこで自由にしてくれるわけではない。

 両手足は拘束され、目隠しも猿ぐつわもされたままで、俺は体ごと椅子にヒモ状の物で身動きできないほどもきつく縛られ固定された。

 番兵が俺に言ってくる。


「そのままここにいろ」


 動けないんだからここにいるしかねぇだろ。


 そう内心で毒づく。

 ──ふと。

 誰かが部屋に入ってきたのだろう。

 扉の開く音が聞こえ、一人分多く足音が聞こえてくる。


「ゼニさん。副神官様がお呼びです。後のことは僕がします」


 うげっ。この声、X。


「そうか。ではここはイクスに任そう。行こう」


 番兵と伝令兵が部屋を出て行くのが物音で分かった。

 足音が遠のいていき、そして静かに扉が閉められる音が聞こえてくる。


 どうやらここにいるのはXだけか。

 一人分の足音──Xが、落ち着いた足取りで俺に近づいてくる。


 Xは何を思ってか俺の前で足を止めた。

 そして俺の猿ぐつわを外し、さらに目隠しまで外してきた。

 体は椅子に縛られ固定されたままで、自由にされることはなく。

 俺はそっと目を開けた。

 視界が開けたことで光が目に差し込み、俺は眩しくて一瞬目を閉じる。

 しばらくして。

 次第に部屋の明るさに目が慣れてきた頃、改めてゆっくりと目を開いていった。


 そして、知る。

 今自分が置かれた場所を。

 唖然と。

 俺は声を上げずにはいられなかった。


 なんだよ、ここ……。


 予想外のことに動揺を隠せず、俺は激しく周囲を見回した。

 王様との謁見の間を思わせるほどの豪奢で大きく広い部屋に、Xと俺の二人だけ。

 その王座とも思える場所に俺は座らされていた。


 ど、どういうことだ? これ。


 クツクツと笑うXの声が聞こえ、俺はXへと目を向けた。

 傍に立つ金髪で碧眼の優男──X。

 Xが俺に言ってくる。


「ここは【神の間】と呼ばれる神聖な場所。セディスは祭りの日に、君を正式にクトゥルクに据える気でいるのさ」


 ちょ、待て……なんだよそれ。


「焦ったところでもう手遅れ。ゲームオーバーだよ、K。

 ログアウトは不可能。今の君の姿はアバターじゃない。この世界に体ごと召喚されたんだ。もうどこへも逃げられない。

 君はこのまま神として祀り上げられ、そして祭りの日にセディスの合成獣キメラに喰われるんだ」


 その言葉に俺はゾクリと背中に悪寒を走らせた。


 なんだって……!?


 Xが微笑する。


「──と、これはあくまでセディスの目的。僕は違う」


 スッ、と。

 Xの片手が俺の首を掴む。


「僕の目的は君がクトゥルクの力に目覚めてくれること。その為だけにセディスに協力したんだ。計画がどうこう言っていたが僕には関係ない。僕が君を殺すんだ。クトゥルクとして目覚めた君を、確実にね」


 Xの手が仄かに光る。

 ともに俺の喉に焼けるような痛みが走った。


 ──がはっ!


 衝動的に俺は激しく咳き込んだ。

 Xの表情から笑みが消える。

 鋭く、負の感情を俺にぶつけるようにして見下ろし、吐き捨てる。


「ここまでされても君は何の抵抗もしてこないんだね。力が使えないことをいつまでも言い訳にしないでほしいな。僕を馬鹿にしているとしか思えないよ。

 クトゥルクが最強だというこの世界のルールに従うつもりはない。最強の君に勝つことが僕の全てだ。その為には君が力に目覚めてもらわないと困るんだよ」


 Xは俺の首から手を離した。

 ジリジリと焼けるような激痛が喉の奥に鈍く残る。


「君の為にイベントを用意したんだ。僕は大神官の弱みを握っていてね。僕の助言は何でも聞いてくれるようになったんだ。だから、僕はこう助言してみた。

 クトゥルクを祭る日にエスピオナージの女を生贄に捧げてみてはどうかって」


 俺はXに向けて癇癪かんしゃくに叫んだ。


 ふざけん……ッ!


 声が出ないことに気付き、俺は愕然とした。

 Xがニヤリと笑ってくる。


「君の声を魔法で封じてやったのさ。大勢の信者が集まる祭りの日にクトゥルクであることを否定されたら困るからね。

 これで君は神になるしかなくなった。

 もし仮に、君が神になることなく誰かが生贄を救った時。

 その時は代わりに僕が自らの手で綾原奈々を殺す。儀式の失敗と同時にね。

 綾原奈々は僕のすぐ手の届くところにいる。殺そうと思えばいつでもできるんだ。それを覚えておいて」


 一方的に受けてばかりで反撃できず、俺は奥歯を噛み締めて苛立たしげに椅子の背に後頭部をぶつけた。

 それを見てXが満足げに頷く。


「それでいい。怒りを受け入れるんだ。僕が巫女様の死を受け入れたように、君もそうやってクトゥルクの力に目覚めなよ。

 ──それが二人を救う、ただ一つの方法だ」



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