第37話 長いものには巻かれて簀(す)巻き
ケンタウロスです。
前回、ご婦人にパンティーの色を尋ねたとですが、その直後に主人公から無言でぐーパンチされたとです。
ケンタウロスです。
今は主人公にガン無視されとるとです。目も合わせてくれないとです。なぜそこまで怒るのか、その理由が知りたかとです。
ケンタウロスです。
自分はただ純粋にご婦人のパンティーの色が知りたかっただけとです。
ケンタウロスです。
ケンタウロスです。
ケンタウロスです……。
「はい、お兄ちゃん。どうぞ」
雑貨屋から。
母親と一緒に出てきた女の子――アミルが、俺にミサンガを差し出してきた。
アミルの母親が言葉を添える。
「これから始まる修行の旅に、神のご加護があらんことを。
私達はあなたが立派な使役魔術師となり神の御許へと仕え行くことを誇りに思います。
これはその旅路を祝う贈り物です。どうか受け取ってください」
「お兄ちゃん、手を出して。アミルがつけてあげる」
そう言ってアミルが俺の手を掴んできた。
その手首にはもちろん──
アミルが残念そうに肩を落として気分を沈ませる。
「なーんだ。お兄ちゃん、すでに誰かから贈り物もらってたんだね」
あー、えっとこれは……
俺は言葉を濁して頬を掻いた。
向こうの世界でもらった物だとは言えない。
するとアミルはすぐに気分を切り替えて俺の反対の手を掴んでくる。
「あ。こっちには付けてないね。じゃぁアミルはこっちの手首に付けてあげる。お守り(ミサンガ)はたくさん持っていた方がいいよ。その方が神様にいっぱいお願い事を聞いてもらえるから」
そう言って一生懸命に。
アミルは俺の手首にミサンガを結んでくれた。
「はい、出来たよ」
結び終わって、俺はアミルに礼を言う。
ありがとう。
「どういたしまして」
アミルが照れくさそうに身を揺らし、かわいらしい笑みを浮かべてはにかむ。
そんな俺とアミルの様子を、荷車からデシデシがうらめしそうに見つめて呟いてくる。
「Kだけずるいデシ。ボクにもそういうのつけてもらいたいデシ」
いや、お前がつけたら首輪にならないか?
アミルがデシデシに駆け寄り、俺と同じ色のミサンガをデシデシの首に巻いてつける。
「ちゃんと猫ちゃんの分もあるから、うらやましがらないで。みんなおそろいの色を買ったわ」
そう言ってアミルはデシデシだけでなくモップにも小猿にもスライムにも、俺と同じ色のミサンガをつけて回った。
「これからみんなで一緒にこの街から旅立つのよ。旅では仲良く協力しあって、お兄ちゃんが立派な使役魔術師になれるようにあなた達が頑張らなきゃならないんだからね」
作業が終わり、アミルが俺の前に来る。
「ねぇお兄ちゃん。これから神殿に行くところなんでしょ? アミルが一緒に連れて行ってあげる」
「アミル」
母親がそれを止める。
「この人はお母さんが連れて行くから、あなたはもう家に帰ってお留守番してなさい」
アミルが足を踏み鳴らして駄々をこねる。
「えー! やだやだ! お母さんばっかりずるい! アミルだって一人前の信者だもん。ちゃんと一人で神殿の中にご案内できるもん。アミルもお兄ちゃんと一緒に神殿に行きたい。だって使役魔術師の人と一緒じゃないとあの塀の向こうに入れないから」
その言葉で、俺はハッと気付いた。
そういうことだったのか。もしかしたらイナさんは──
俺は真顔になって内心でおっちゃんを呼んだ。
おっちゃんが俺の頭の中で言ってくる。
『どうやらイナが捕まった可能性が高いな。お前なら神殿に入れそうだが、どうする?』
もちろん行く。
『現地人と一緒ならなんとかなるかもしれん。行けるところまで行ってみるか?』
俺は無言で小さく頷いた。




