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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第36話 かもしれない運転を心がけよう


 ケンタウロスが暗い顔して俺の隣でぼそりと呟く。


「もしかしたら神殿兵に殺されるかもしれない」


 怖ぇーこと言うなよ!


 街の中心地となる──巡礼者が行き交う神殿敷地の広い庭園の道中で、俺は緊張の面持ちでケンタウロスを連れて歩いていた。

 その先には荘厳な門がそびえ立っている。

 円形状の高い塀に囲まれた中に一際煌びやかに輝く金色の神殿──それがこの街の最もとなる中心地だった。


 ケンタウロスの手押し車の中で、水晶玉と本の入った風呂敷を首に巻いたデシデシが顔を出し、俺に不安そうな声で尋ねてくる。


「ほ、本当に入るデシか? K」


 ……は、入るしかねぇだろ。ここまで来たら。


 ケンタウロスがぼそりと、


「もしかしたらこの先に死──」


 言わせねぇぞ、コラ。


 小猿が俺の肩で言ってくる。


「しかし小僧っ子よ。何かしらの計画は立てておるのか?」


 反対の肩でモップが鼻で笑ってくる。


『無計画で捕まったら笑えるな』


 笑えよ。無計画だよ。作戦なんて思いつかねぇよ。


 すると俺の頭の上にいたスライムが跳ねるようにして地上に降りる。

 そのままどこかへ向けて地面を跳ねていった。


 お、おい!


 肩で小猿が聞いてくる。


「どうしたんじゃ? 小僧っ子」


 俺は焦り答える。


 スライムの奴がどこかに行こうとしているんだ。どうすればいい?


 おっちゃんが俺の頭の中で言ってくる。


『そのまま追いかけろ』


 え?


『スライムはお前をどこかに導こうとしている』


 導くってどこに?


『とにかく後を追え』


 わかった。


 言われるがままに俺はスライムの後を追いかけた。




 ※



 道端となる木の下で、一人の女の子が休憩していた。

 スライムがその女の子へと向けて跳ね寄ると、そのまま飛びつき甘えるようにじゃれ始めた。

 最初は小さな悲鳴を上げて驚いていた女の子だったが、それがスライムとわかるとすぐに仲良くなった。


 うわッ! やべ!


 それを見た俺は顔を青ざめさせた。

 相手は現地人。たとえ小さな子供だろうと今は関わり合いたくない。

 騒ぎの元となる前にスライムを回収しなければ大変なことになる。

 俺は慌ててその女の子の元へと駆け寄った。


 駆け寄ってきた俺に女の子が気付き、俺へと顔を向けてくる。

 きょとんとした顔で小首を傾げ、


「これ、お兄ちゃんのスライム?」


 息を切らしつつ、俺は頷き答える。


 あぁそうなんだ。ごめんな、悪いスライムじゃないから。


「お兄ちゃんって、もしかして使役魔術師の人?」


 問われ、俺は目を泳がせて頬を掻いた。

 内心でおっちゃんに助けを求める。


 どうしよう、おっちゃん。なんて答えればいい?


『賭けだな。お前に任せる』


 ま、任せるって──もし失敗したら!?


『スライムが懐くくらいだ。スライムを信じてやれ』


 ……わかった。


 俺はおっちゃんに言われた通り、その子の質問に肯定してみることにした。


 うーん、と……。そうかもしれない。


 途端に女の子の表情が華やぐ。

 なにやらとても嬉しそうに何かの期待を込めて、


「じゃぁもしかしてラーチラ階級の人?」


 え? いや、えっと……


 返答に戸惑う俺を見て、女の子の表情が途端に暗くなる。

 がっかりと肩を落として期待外れとばかりに、


「じゃぁもしかしてラープラ?」


 俺は微妙に首を傾げながら笑みをひきつらせ答える。


 そ、そうかもしれない。


「なーんだ。お兄ちゃんってまだ見習いだったんだね」


 見習いっていうか、その……うーん、見習いかもしれない。


 そんな時だった。

 俺の後ろから女性の声が聞こえてくる。


「アミル」

「あ、お母さん!」


 どうやらこの女の子の母親だったようだ。

 女の子がスライムを抱いたまま母親の傍へと駆け出していく。


 あ、おい。そのスライム返してくれ。


 俺がそう言うと、女の子はすぐに母親に俺のことを言い始めた。

 両手の平の上にのせたスライムを母親に見せながら、


「お母さん、あのね。あのお兄ちゃんね、ラープラなんだって」


 母親が俺へと顔を向けてくる。


 うげっ。


 俺はその場から逃げ出そうと無言で足を退いた。

 すると母親は俺に向かってやんわりと微笑み、片手を胸に当てて挨拶してくる。


「あなたに神のご加護があらんことを。私からあなたに何か贈らせてください」


 俺は内心で焦りまくった。


 ど、どうしよう、おっちゃん。なんて返せばいい?


『下手なこと言うなよ。一気に身バレするぞ』


 わかってるよ、そんなこと! けど、何か言わないと


『いいから落ち着け。余計怪しまれる。とりあえず無難な言葉を返すんだ』


 無難って──そんなすぐに言葉なんて思いつかねぇよ!


 すると、俺の隣にいたケンタウロスが、何を思ってか俺の前へと進み出てきた。

 真顔で母親に問う。


「ご婦人、もしや今日のパンティーは白色ですか?」



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