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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第35話 迷い


『あー……頭痛ぇー……ガンガンする……気分悪ぃー』


 ──翌日。

 俺は人通りのまばらな表通りの道を歩いていた。

 陽が昇ったというのにこの街の朝は遅いのか、どこの店もまだ閉まっている。


『あー……頭痛ぇー……』


 俺の右肩ではモップがうめき声を上げながら、ぐったりと伸び倒れていた。

 まるで竿にかけられた干物であるかのように。

 その反対の肩で小猿が「やれやれ」とお手上げする。


「まだまだ若造だのぉ、お主。あの程度の飲みで二日酔いとは。どうやらこの勝負、ワシの勝ちじゃな」


 いや、だから何の勝負だよこれ。


『あー……気分悪ぃー』


 さっきからうるさいんだけど、おっちゃん。


『う……っ、この揺れ……吐きそう』


 マジやめろッ!


 俺の足元で、本を入れた風呂敷を首に巻いたデシデシが不安そうな顔を浮かべて服を引いてくる。


「この本持ってどこに行こうとしているんデシか? K」


 その問いかけに俺は真顔になって答える。


 ケンタウロスを迎えに行くんだ。そしてイナさんとの約束通り、このまま街を出よう。


 デシデシが目を丸くして言ってくる。


「ま、街を出るデシか!? 彼女イナを置いて街を出るデシか!?」


 ……。


 俺は足を止めた。

 街を一通り見回し、そして思う。


 この街を出て、俺はこれからどこへ行こうとしているんだろう。

 仮に本を持って国を抜け出すことに成功したとしても、俺に行くあてなんてない。

 この世界で生きていく自信もない。

 デシデシもモップもスライムもおっちゃんもディーマンも、みんなこの世界の住人だ。

 だけど俺は違う。

 本当は帰りたいんだ。元の世界に。

 帰る方法を見つけて、俺だけこの世界から抜け出して……。


 俺は顔に手を当て、自分で自分を呆れ笑った。


 なんかずっと色んなことから逃げてばっかじゃんか。俺。




 ※




 ──二時間前。宿屋。


「ケイ。あんた今日はここに居な」


 え?


 ベッドのシーツを整えていたイナさんにいきなりそう言われ、俺は呆然とした。


 なんで?


「昨日から街の様子がおかしい。何かの祭りの準備を始めようとしている。あたいがちょっと神殿に行って調べてくるから、あんたはいざという時の為にここに残ってな」


 残って……俺にどうしろと?


「しばらく待ってもあたいがここに戻ってこなかったら、あんたは本を持ってすぐに街を出な。あたいの馬車は……好きに使っていいから」


 俺だけここに残ることなんてできない。行くんだったら俺も一緒に──


「言っといただろう? どちらかが必ず本をこの国から持ち出すって。あたいがここに戻ってこなかったら何かあったってことだから、本を持って早めにこの街を出な。本はいつでも持ち出せるようにベッドの下にまとめてあるから」


 何もそこまで危険なことをしなくてもいいだろ。近くにいる誰かに聞けばいい。


「何をどう聞くってんだい? 現地人なら知ってて当然のことだったら? 警戒するのは何も神殿兵だけじゃないんだよ。この街の住民だって異国人だと知ったら袋叩きにするんだからね」


 けど、イナさん!


 イナさんが俺に顔を向けてくる。

 穏やかな笑みを浮かべ、


「いいから、あんたはここに残ってな。あたいが神殿に行って調べてくるから。もししばらく待っても帰ってこなかったら、すぐに本を持ってこの街を離れな。

 できるだけ遠くに。──いいね?」



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