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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第33話 挑発


 パチパチと。

 後方から前方へ。


 俺のちょうど真上となる空を、静電気のような軽い音が通り抜けていった気がした。

 走りながら空を見上げ、俺は呟く。


 気のせいか?


 そう思い、空から前方へと視線を落とす。

 障害物の少ない裏路地。

 その道を俺はひたすら真っ直ぐに走り逃げていた。

 逃げ込む場所も、隠れる場所も見つからない。──いや、隠れるのはやめよう。きっと見つかって捕まるだけだ。

 とにかく一旦、人通りの多い道に出よう。

 みんな同じ服装しているんだ。紛れてしまえばきっと逃げ切れる。


 大通りを目指し、俺は走り続けた。

 ふと背後を振り返ってみる。

 誰も追いかけてくる気配はないようだ。

 足音もいつの間にか聞こえなくなっている。


 また、パチパチと。

 後方から前方へと、あの音が駆け抜けていく。

 ──瞬間!

 おっちゃんが俺の頭の中で叫んできた。


『止まれ!』


 え?


 俺は足を止めて即座にその場に踏みとどまる。

 その直後。

 ヴンと虫の羽音のような音がしたと同時に、俺のすぐ目の前を、激しい電流のほとばしる透明な壁のようなものが立ちはだかった。

 振り返れば真後ろにも。


 な、なんだよ、これ!


 いきなり板ばさみにされて俺は戸惑った。

 おっちゃんが頭の中で言ってくる。


『それに触れるなよ。感電死するほどの威力を持っている』


 ……。


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 なんだろう。なんというか、セーターに下敷きを全力でこすって静電気発生させたやつに全身を板ばさみされている気分だ。

 絶対、俺の頭髪が逆立ってるはず。


『俺の話聞いちゃいねぇな、お前。問題はそこじゃないだろ。絶対にその場を動くなよ』


 だははは! モップの毛がすげーことになってる! ってか、モップの毛の中ってそういう仕組みになってたのかよ!


『真面目に聞け、コラ!』


 あーごめん。俺も最初は真面目に考えた。


 謝る俺をよそに、モップが前方へと裸手を突き出す。

 俺を挟んでいた見えない壁に、魔法陣が刻まれる。

 そして壁は、魔法陣と相殺するように消えていった。

 おっちゃんが安堵のため息を吐きながら言ってくる。


『術は消した。もう動いて大丈夫だ』


 動いていいとの許しが出たので。

 俺はまず、逆立ったであろう自分の頭髪を撫で整えた。

 静電気のパリパリという軽い音が耳に届く。

 なんかちょっと楽しい。


『術のレベルが高い。黒騎士がどこかに潜んでいるはずだ。気をつけろ』


 言われて俺は辺りを見回した。

 その視界に映る──


「こんな能力ですら解除できないなんて、君の力ってやっぱり大したことないんだね」


 だははは! モップの毛が! モップの毛がアフロ並みにすげーことになってる! 


『おい、何か言っているぞ』


 え?


 どこからか咳払いが聞こえてきて。

 俺はようやくその人物に目を向けた。

 いつの間にか目の前には、俺と同じ白の外套衣で身を隠しフードを目深にかぶった奴が一人、ある程度の距離を置いて佇んでいる。

 それが誰であるか、さきほどの声と口調だけですぐにわかった。

 俺は真顔になって問いかける。


 お前がイクスか?


 そいつは落ち着き払った様子でフードを取り、顔を見せた。

 歳は俺とそう変わらなく見える。金髪で碧眼。見るからに優男だ。だが声や口調だけがなぜか妙に小学生ガキくさく聞こえるのは気のせいか。


『アバターだからな』


 なぜこの世界で俺だけ選べない?


『誰も好んで姿形は選んでいないはずだ。この世界に入った瞬間、自然とかたどられる』


 原型そのままとか一番嫌なパターンじゃねぇか。チェンジで。


『俺に言うな』


 Xが微笑してくる。


「改めて初めまして、K。僕がXだ。君を狩る為に僕は生まれてきた」


 おっちゃんが感嘆の声をもらす。


『ほぉ。イクスを名乗るか。その意味知ってか知らずか』


 いや、全然わかんねー。


『知らなくていい』


 教えろ。


『やだね』


 Xが言葉を続けてくる。


「ようやく君とこの世界で出会えて僕はとても嬉しいよ。あんな見え透いた嘘ですら、君はすぐに僕の挑発に乗ってきてくれる。実に単純だね」


 嘘だと?


「そうだよ。今頃気付いたのかい?」


 その言葉におっちゃんが鼻で笑う。


『何とも安い挑発だったな。それに平気で食って掛かった奴の顔が見てみたいもんだ』


 オイ、今モップがちらりとこっち見たぞ。


 俺の言葉を完全に無視して。

 モップがXへと片腕を突き出して魔法陣を展開させる。


『さてと。俺はな、ネチネチ言うだけ言って何しに来たのかわからない奴が大嫌いだ。用件が済んだらとっとと帰るか、それともここで一戦交えたいのか。

 ……それをお前が代わりに訊いといてくれないか?』


 ──って、俺が訊くのかよ!


『Xに俺の声は届かないからな。それともお前がまだ話に付き合いたいというなら別だけどな』


 俺も嫌だ。


『先手をぶち込んでやりたいのは山々だが、なるべく騒ぎは起こしたくない。上手く言ってお帰り願え』


 失敗したら?


『相手は雑魚じゃない。一戦交えるとなれば相当な魔力をもって戦うことになる。指揮階級の黒騎士を呼び込むことになったとしても、それは必然だ』


 責任重大じゃねぇか。だがたしかに、俺もこれ以上Xの話に付き合いたくはねぇな。



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