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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第一部】 おっちゃんが何かと俺の邪魔をする。
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第5話 また、会えるよな?


 木々をつたい、村を離れ、俺とリラさんはなるべく高い木を選びながら幹の上を移動した。


 地上からは二人の黒騎士がついて来ている。

 攻撃はしてこない。

 ただずっと俺たちを追いかけてくる。


 なぜだ?


「奴ら、攻撃しない。お前の反撃、恐れてる。お前の力、強い。だから様子見てる」


 俺の反撃を恐れているだと?

 

「お前の力、この世の秩序を大きく乱す。お前の望み、何でも叶う。この世界、お前の敵いない。誰も止められない魔法。それがクトゥルクの力」


 何でも叶う?


「だから狙われる。クトゥルクの力欲しい王様たくさんいる。悪い奴、いっぱい狙っている。お前、良い人間。だから力持っている。クトゥルクの力、大事に使ってくれる」


 そうだったのか。俺、何も知らずに……。


「クトゥルクの魔法、ほんとは良い力。でも悪い奴使う、悪い力になる」


 わかった。俺、絶対奴らに捕まらないようにする。この力も必要な時以外は使わない。


 そう、俺がリラさんと約束した時だった。

 俺の頭上で水色スライムが微弱に振動し、木を打ち鳴らすような音を立てて鳴き出した。


 俺はびくりとした。

 な、なんだよ。どうしたんだ? コイツ。


「そのスライム、お前の心に共感した。森の仲間、呼んでいる。お前を助けようとしている」


 森がざわめいた。

 強い風が吹き、木々が揺れ、獣の鳴き声が聞こえる。

 

 その時!


 ──突如、真下から盛り上がるように天へと突き上げて、巨大な樹木の幹が俺たちと黒騎士との間を裂いた。

 森から様々な動物や魔物が現れ、一斉に黒騎士目掛けて襲い掛かっていく。

 

 な、なんだよ、これ!


 驚く俺を抱きかかえ、リラさんが木から木へと器用に飛び移りながら教えてくれる。


「スライム、ほんとは怖い生き物。色んな仲間、呼ぶ」


 こ、怖ぇなそれ。


 リラさんが微笑する。

「スライムを味方にした人間、初めて。お前、本当に良い人間。長老も私も、お前信じて良かった」


 俺はその言葉を聞いて、なんだか穏やかな気分になれた。



 ※



 その後。

 俺たちは安全となった森の中で、木々から地上へと降り立った。

 黒騎士の奴らはもう追ってこない。


 リラさんが首を横に振る。

「これで終わらない。奴ら、きっと別の手考えてる。遠くに逃げる、今のうち」


 リラさんは俺の手を引いて先を急いだ。



 ※



 しばらく進むと、前方に明かりが見えた。

 討伐団の野営の跡地だった。

 焚き火の近くに一台の(ほろ)馬車が待機し、そこに一人の中年の男が佇んでいる。

 無精ひげに赤茶けた髪。片目は大きな傷で塞がっていて、雰囲気もなんだか近寄りがたいような怖そうな感じだった。おまけにくわえタバコで愛想もない。


 リラさんが俺をその場に置いて男に駆け寄る。


「お前の仲間、なぜ居ない? 約束違う。みんなここ居る、約束だった」


 男は空へと向けて煙を吐きながら、面倒くさそうに答える。


「俺が待っていただけでも感謝するんだな。黒騎士どもが近くにいると知って、正気で待てる奴なんて誰もいねぇよ。戦いに巻き込まれて紅蓮の業火で焼かれるくらいなら他人の信用なんざ踏みにじってでも逃げたが勝ちだ」


「でもお前、逃げなかった」


「アダラントヒヒの密猟を見逃してくれるって約束だったからな」


 男が俺へと視線を向けてくる。馬鹿にしたように鼻で笑って、


「お前らが真剣に頼み込むからどんなガキが来るかと思えば、ただのガキじゃねぇか。あのガキを街に運ぶだけでいいのか?」


 リラさんが付け加える。


「お前らのギルド連れて行く。そこまでが約束」

「はいはい」


 男は面倒そうに承諾した。

 そして手を招いて俺を呼ぶ。


「おいクソガキ、早く乗れ」


 え?


「お前だよ、お前。幌に乗れ。連れて行ってやるから早くしろ。黒騎士どもが来ちまうだろ」


 わ、わかった。


 俺は頷いて慌てて幌へと駆け寄り、どうにかして幌の中に転がり乗った。

 リラさんが俺のところへやってくる。


 そしてすぐに俺の首にするりと腕を回し、顔を近づけてきた。

 呆然とする俺の口元に優しくキスをしてくる。

 一瞬の軽いキス。

 

 リラさんは俺に言った。 

「お前のこと、一生忘れない」


 男が御者台に乗りながら咳払いしてくる。


 リラさんは離れると、俺の前から去っていった。

 俺は呆然とその背を見送る。


「出発してもいいか?」


 どうぞ。


 幌馬車が走り出す。

 乗り心地は最悪だった。

 ガタガタと揺れる幌の後方から、俺はずっとリラさんの去っていた森の方向を見ていた。

 しだいに遠く離れていく。


 なんだろう、この胸騒ぎ。

 何かの前触れであるかのように、まだどこか不安が拭いきれない。


 嫌な予感が俺の胸を締めつけた。

 まるでリラさんが去っていくあの後ろ姿が最後であったかのような、そんな不安がして……。


 考え過ぎ、だよな? 


 そう思った次の瞬間、俺の恐れていた不安は現実のものとなる。

 ゾン! と、貫くような恐怖が襲ってくる。

 大気が震え、異様に張り詰めた空気が辺りを支配する。


 御者台から男が俺に鋭い声を飛ばす。


「スピードを上げる! どこでもいいから掴んでろ!」


 ちょ、待て!


「早くしろ! 振り落とすぞ!」


 俺は無我夢中で幌の端にしがみついた。

 馬車のスピードがグンと上がる。

 無茶な走行。

 激しく揺れる幌の中で身を跳ねては痣になりそうなほどに打ち付ける。力を抜けば本当に振り落とされそうな勢いだった。

 俺は何度も舌を噛みそうになりながらも必死でしがみつき続けた。


 そして俺は目にする。


 エルフの村の上空に現れた、漆黒の大きなドラゴン。

 禍々しく、黒い岩山の塊のようなごつごつした巨体を宙に浮かせ、狙いをエルフの村へと定めている。

 

 漆黒のドラゴンが大きく息を吸い始めた。

 その口から燃え上がる炎が生まれる。

 

 まさか!

 背中を身震うような戦慄が駆け上った。

 エルフの村に残る人たち、そして村に帰ったリラさんの後ろ姿。

 あの村にはまだ──

 最悪な光景が脳裏に浮かび、俺は大きく目を見開いていった。


 ドラゴンの吐き出した紅蓮の炎が太い火柱となって天を突く。


 俺の中で何かが弾け飛ぶ。


 体の奥底から沸きあがる力を抑えきれずに──。


 俺は、叫びとともにその力を解き放った。



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