◆ 第28話 足跡
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──数時間後。
【アタン町 検問所】
検問所の前に立つ二人の神殿兵の目に、街道から落ち着いた様子で歩いてくる三人の兵士の姿が目に留まった。
服装からして総本山の伝令兵であることを察し、張り詰めていた肩を落として声をかける。
「司祭様は今【ガーネラ】へと出向いておられる」
「急用か?」
「……」
「……」
三人の伝令兵は少し距離を置いた場所で足を止める。
様子がおかしいと思った神殿兵たちは互いに顔を見合わせて首を傾げた。
「いったいどうした?」
「伝令を言いに来たのではないのか?」
「……」
「……」
しばらく間を置いた後。
一人の伝令兵が無言のまま神殿兵の元へと歩み寄り、近づく。
懐から一枚の書状を取り出し、それを手にして。
神殿兵は不審に思いつつも伝令兵から書状を受け取る。
同時、伝令兵が重く閉ざしていた口を開いて用件を伝えてきた。
「【綾原奈々】という女と【K】を名乗る少年──その二人を捜している。昨夜、総本山が複数の指揮階級黒騎士による襲撃を受けて壊滅した。巫女様は無事だ。しかし綾原奈々という女が巫女様を誘拐し、どこかへ連れ去ったようだ。その件にKという少年も関与している」
アタンの神殿兵は書状から顔を上げて驚く。
「奈々様が巫女様を誘拐?」
「何を馬鹿な。巫女様と姉妹のように親しい間柄の奈々様がそんなことをするはずがない。きっと巫女様の生まれ故郷である【ガーネラ】へと避難させたのだろう」
伝令兵が納得の頷きを返す。
「そうか、わかった。他の司祭様にもそのように伝えておこう」
一人の神殿兵が不思議に首を傾げて伝令兵に問う。
「ところで、書状にあった【K】とはどのような人物だ? 少年という情報だけでは、こちらとしても捜しようが無い。もっと詳しい特徴は?」
もう一人の神殿兵が何かを思い出したように言葉を続ける。
「あ、そういえば。少し前に【ケイ】という名の少年がここを通ったな。そいつも女を連れていたが、変な獣も一緒に連れていたな」
その言葉に伝令兵が反応を示す。
怪訝に眉をひそめ、
「獣、だと?」
神殿兵は頷く。
そして思い返すように虚空を見上げて指折り数えていく。
「ケンタウロスに小猿、水色スライム、変な毛玉の生き物、それに猫、か」
伝令兵が問う。
「町に通したのか?」
神殿兵は頷く。
「特に怪しむほどの人物ではない。どこにでもいる普通の使役魔術師の少年だった。身分証も持っていたし、何よりこの時期だ。必死なんだろう」
「……」
伝令兵はただ静かに「そうか」とだけ呟く。
そして背後に居る二人の伝令兵へと言葉を投げた。
「アリア、赤猿」
「待ってました♪」
「暴れていいってことか? セガール」
青く澄んだ空は蝕まれるように闇色へと染まっていく。
辺りは一気に暗闇へと落ち、どこからか複数の低い唸り声が聞こえてくる。
二人の神殿兵は青ざめた顔でその場に腰を抜かした。
暗く染まりゆく地面から魔物が次々と生まれ出てくる。
伝令兵──セガールは、二人の神殿兵を前に冷たく吐き捨てた。
「Kが出てくるまでアタンの町を破壊しろ」




