第25話 お前が言うな!
馬車は徐々にスピードを弱めていき、そして俺たちの真横で停車する。
御者台に乗っていたのは一人の人物だった。
そう。たった一人、だ。
俺と同じ白の外套衣でフードを目深に被り、身を隠している。
俺はさらに警戒心を高めた。
たとえ相手が一人でも油断はできない。
いつでも逃げ出せるよう体勢を取っておく。
すぐにその場を逃げ出さないのは相手の目的が不明である為と、相手の行動をぎりぎりまで探れとおっちゃんに言われたからだ。
俺は何の反撃もせず、ただ無言でジッと相手を観察し続け、反応を待った。
しばらく黙って観察していると。
やがて相手が痺れを切らしたのか先に声をかけてくる。
「乗りな」
男勝りで勝気な若い女の声だった。
「そんな馬車で奴らに追われたら逃げられやしないよ。こっちに乗りな」
……。
予想もしない言葉に俺は思わず気勢をそがれて呆然とした。
頭の中でおっちゃんに相談する。
どうする? おっちゃん。
『乗りたければ乗ればいい。お前の好きにしろ』
敵じゃないのか?
『少なくとも向こうはそう思っていないようだ』
え? なんでそんなことがわかるんだよ。
『気になるなら聞いてみればいい』
なんて聞けばいい?
『そんなことは自分で考えろ』
……。
冷たく突き放された俺は、どう言えばいいのかしばらく自問自答に迷っていた。
眉間に指を当てて考え込む。
相手の素性をストレートに聞いてみるか? ──いや、下手なことは聞けない。こっちが聞かれた時にどう答えていいかわからない。だったら聞かない方がいいだろう。
じゃぁどう質問する?
せっかく向こうも聞かないで乗せてくれるんだ。その好意には甘えたい。
しかしこうも簡単に相手の好意を受け入れていいものだろうか?
ある程度の警戒心は持っておきたい。
ならばやはり今この時に、相手の素性は聞いておくべきではないだろうか?
しかし……。
すると俺の前方にいたケンタウロスが何を思ったか、彼女へと顔を向けて真顔で言い放つ。
「お嬢さん。今日のパンティーは何色ですか?」




