第23話 だろう運転は危険かもしれない運転
上半身が裸の人間。
下半身は馬。
そしてその後ろにボロい手押し車。
俺たちを待っていた馬車はそんな馬車だった。
本当にあれに乗って移動するのか? ──と言うより何かのギャグだよな? 本当に。
そんな俺の素朴な疑問に、誰一人として同意する者はいなかった。
きっとこの世界ではこれが常識的な乗り物なんだろう。
色々と疑問に思うことはあるが、言ったところで俺だけ馬鹿に思われるだけだから、もう黙って馴染んだ方がいいかもしれない。
俺はDとともに、そのボロい手押し車になんとか乗り込んだ。
二人ようやく乗れるくらいのスペースしかない小さな荷台。
膝を抱えて小さくなって縦一列に座らなければならない。
そうしないと乗れないほどの狭さなのである。
今にも崩壊しそうな荷台の造り。
実はゴミ箱から拾ってきたんですよと言われても素直に信じるかもしれない。
全体的に不安定な揺れと、それに加えてキシキシと限界を訴える木の軋み音。
それらが俺の不安を更に加速させる。
いまさら重量オーバーだとか言わないよな?
俺が心配にそろりと前方を見やると、向こうも同時にこちらへと振り向いてきた。
とても濃い顔の人馬である。
同情めいた悲愴な顔で俺をしばらく見つめた後、再び何事もなかったかのように顔を前方へと戻した。
そのまま無言でゆっくりと手押し車を引き始める。
陰気にぼそりと、
「……もしかしたら運んでいる途中に車が壊れてしまうかもしれない」
だったら俺は今すぐ降りる!
俺は荷台から飛び降りようと片足をかけた。
すると隣からDが俺の服を掴んで真顔で引き止めてくる。
「前にもそうやって飛び降りた奴がいたが、その直後に必ず足を捻挫していた。だから君もきっとそうなるだろう」
何の予測だよ、それ!
ツッコむ俺に小猿が平然と言ってくる。
「そう慌てるな、小僧っ子。車はまだ壊れてなどおらん。案ずるより産むが易し。着く前に壊れてしまってから考えればいいだけのこと。そうであろう?」
その言葉に俺はツッコまずにはいられなかった。
いや、着く前に壊れてしまった後だと考えるの遅くね?
おっちゃんが俺の頭の中でため息まじりに呟いてくる。
『たしかに遅いな。だがこの先何が起こるかもわからない。次の町まで歩いて疲労をためてしまうより、少しでも体力を温存して余裕を持っていた方が良い』
けど、おっちゃん。本当に次の町までこの車が持つと思うか?
『おそらく次の町までは大丈夫だろう』
本当にそれ信じていいんだろうな?
『たぶんな』
ケンタウロスが俺たちの乗った手押し車をノロノロと引きながら、ぼそりと。
「……そこまで体力が持たないかもしれない」
すでに歩く未来しか見えてないじゃねぇかッ!
※
しばらく森の道をトロトロと進んでいると。
背後から車輪と蹄鉄の音が聞こえてきた。
俺たちは振り向く。
馬車だった。
灯火を付けた一台の馬車は軽快なリズムでこちらへと向かってきていた。
もしかしたら──




