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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第22話 コードネームD


 その青年は冷静に眼鏡を人差し指でくいっと上げると、真顔で俺に言ってきた。


「僕の名はD。正式にはコードネームD。今、人生という道に迷っているところだ」


 ……えーっと。


 俺はぽりぽりと頬を掻いた。


 なんかそれ、ものすごく言い返し辛いんだが。


 青年──コードネームDは淡々と俺に質問を続けてくる。


「君は異世界人か? それともこの世界の住人か? という問いかけに、君は『異世界人だよ』と答えてくるはずだ」


 俺は肩を滑らせた。


 じゃぁ聞くなよッ! 答えわかってんじゃねぇか!


 俺の頭の中でおっちゃんが声をかけてくる。


『相手にするな。コイツからとんでもねぇ殺気を感じる』


 殺気?


 Dの右手が鋭い刃物へと変化していく。


「僕と一戦しないか? そうすれば君のコードネームがKか否かがはっきりする。クトゥルク──遥かなる高み。神のみが持つ力。君を倒せば大きな経験値が得られそうだ」


 経験値?


『相手にとってはたかがゲーム。だがお前にとっては命がけの戦闘だ。忘れているだろうから念押しに言っておくが、今のお前は生身のままこの世界に召喚されている。ログアウトなんてできないからな。まともに相手にすればお前はこの世界で死ぬことになるぞ』


 じゃぁ逃げる。


『上等だ』


 俺が逃げようと踵を返した時、いきなり俺の片腕に鎖が絡んでくる。

 鎖をたどって視線を向ければその先にDがいた。


「戦線放棄は許さない」


 ヤバイっておっちゃん、逃げられないぞ!


『隙なら俺が作ってやる』


 おっちゃんが言うと同時、俺の腕の中にいたデシデシが目覚め、そして勢いよく宙に飛び出した。

 そのままDの目前、ぴんと張った鎖の上にデシデシは華麗に二本足で着地し、相手に向けて片前足を突き出す。

 その先に出現する魔法陣。

 デシデシがフッと笑う。おっちゃんの声で、


『新米の黒騎士にしては悪くないレベルだ。だがその程度のレベルで“極”領域内の相手に喧嘩を売るとは自惚れもいいとこだ』


 声は唐突にDの肩から聞こえてきた。

 老人のようなしわがれた声で、


「なーにを寝ぼけたことを言っておる。あんなクソったれた黒騎士どもと一緒にしてもらっては困るな」


 一匹の子猿がDの肩によじのぼってきた。


「ワシじゃよ、ワシ」


 デシデシが構えていた魔法陣を解く。


『なんだ。お前か、ディーマン』


「勝手に救援頼んでおいてお前さんすっかり忘れておったろう? 逃げ道はすでに確保しておる。ついてくるが良い」



 ※



 Dと小猿の案内のお陰で手薄となった裏手の検問から上手く外へと抜け出ることに成功した俺は、気絶したデシデシを胸に抱いて、待機させていたという馬車に向かって走っていた。


 検問を抜けた先は深い森。

 その森の中を少し走ったところに、馬車は待機していた。

 俺は何かを察して足を止める。


「どうしたんじゃ? 小僧っ子」


 隣を走っていたDも足を止め、その肩にのった小猿が俺に問いかけてきた。

 俺は恐る恐る指先を馬へと向ける。


 いや、あれ……なんかおかしくね?


 俺の肩でモップが俺の頬を裸手でつねってくる。


 痛ぇーよ。なんでつねってくるんだ?


 その問いかけに答えたのはモップではなく、俺の頭の中のおっちゃんだった。


『事は深刻に急いているという時にどうした? 黒騎士に関することか? このタイミングでそれ以外の天然ギャグかましたらどうなるかわかってんだろうな?』


 いや、それはそれでどうなるんだ? おっちゃん。


『モップの必殺技──激弱もこもこぱんち見舞ってやる』


 なんだよ、それ。逆に食らってみたくなる攻撃だな。


 俺は余裕でモップの攻撃を頬に受ける。

 そしてよろけながら地面に膝をつき、頬に手を当てた。

 何事なくおっちゃんが俺の頭の中で語りかけてくる。


『で? 何の話の途中だったか』


 攻撃を受けた俺を癒すようにして水色スライムが回復魔法をかけてくれる。

 俺はそっとスライムを抱き寄せて頬すりした。


 本当の俺の味方はお前だけだ、相棒。


 そんな俺たちを冷ややかな目で見つめながら小猿が吐き捨ててくる。


「お主たちは一体さっきから何をふざけておるんじゃ」


 俺は真顔に戻るとスライムを頭上に据え置いて話を戻した。

 幌を引く馬に再び指を向けて小猿に問いかける。


 本当にあれに乗って移動するのか? ──と言うより何かのギャグだよな? 本当に。


 小猿とDの目が馬車へと向く。

 そこには古布を張っただけのボロい手押し車を持った濃い顔の人馬ケンタウロスが、俺たちのことをじっと見つめていた。


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