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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第18話 信じるべきはおっちゃんか? それともセディスか?


 セディスが店の中で店主と交渉を交えながら会計を済ませている間、俺は店の外で待っていた。


 足にしがみつくデシデシ。

 頭上にスライム。

 そして肩のところに毛むくじゃらの生き物。

 他人から見て、俺はすごく異様な人物だった。


 ふと、モップが毛の合間から裸手を出して俺の服をくいくいと引っ張ってくる。

 それに合わせておっちゃんが頭の中で話しかけてきた。


『いいか。俺が交信してきたことを絶対にセディスには言うなよ』


 理由を言え。


『交信を遮断させられるからだ』


 ──チリン、と。

 乾いた鈴の音が鳴って、セディスが店から出てくる。


「お待たせしてすみません。では行きましょうか」


 頷いて、俺はセディスと一緒に歩き出した。

 歩きつつ気まずく謝る。


 ごめん、お金使わせて。この支払いは今回の報酬だけで足りるかな?


 セディスはにこりと笑って言う。


「充分ですよ。それより良かったですね。ジャングルのお友達を未然に助けることができて」


 ……。


 俺の頭上のスライムがぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 いや、もう慣れたから別にいいけど。

 ため息とともに頬を掻いて、俺は内心でおっちゃんに話しかける。


 なぁおっちゃん。


『なんだ?』


 なんであんな場所に俺の大事な仲間を売ったんだ?


『非常に危険な賭けだった。こうでもしないとお前と交信ができなくてな』


 もし俺があの店の前を通らなかったり、行かなかったりしたらどうするつもりだった?


『丸一日待って、ダメならまた別の方法を考えるつもりでいた』


 無謀だな。


『計画性があると言ってくれ』


 それのどこが計画的だ。


 ふと、セディスが怪訝そうな表情を俺に向けてくる。


「どうかしましたか?」


 え?


「急に黙られたので」


 ……。


 言いかけて、俺は悩む。

 セディスにおっちゃんのことを言うべきか否か。

 もしかしたら俺はまたおっちゃんに騙されようとしているのかもしれない。


「何か問題でもありましたか?」


 ……。


 悩んだが結局、俺は静かに首を横に振った。


 いや、なんでもない。



 ※



 ──陽の傾いてきたその日の夕刻。


「お口に合わなかったですか?」


 ……。


 俺はセディスの家の食卓に座り、夕食をごちそうになっていた。

 夕食──と、いうよりも毒々しいドリンクと緑緑しい野菜しかないのだが。


「あの……」


 え?


 俺は呆然と向かいに座るセディスを見る。

 そこには不思議そうな顔で俺を見つめるセディスが居た。


 ごめん。何か言ったか?


 セディスが首を傾げて尋ねてくる。


「あの。さきほどからずっと黙られていますが、何か考え事ですか?」


 俺は慌てて首を横に振る。


 い、いや違うんだ。ほんと何でもない。


 そして何かを誤魔化すようにしてドリンクを一気に喉へと流し込む。

 味は……推して知るべし。

 そんな俺の隣で大盛り野菜をガツガツ食べるデシデシとモップとスライム。


「魚が入っていたらもっとおいしいデシ」


 オイ。


 セディスが笑う。


「たしかに肉や魚がサイドにあればいいのですけど」


 サイドか。結局、野菜が主食であることに変わりはないんだな。


「Kは野菜食べないデシか?」


 いや、食うよ。今から。


「トマトもらうデシ」


 デシデシが横からひょいとトマトを盗んで口に放り込む。


 あー! 俺のトマト盗りやがったな!


「早く食べないからデシ。食事はいつも争奪戦デシ」


 腹立つ猫だな。──ってモップ! 何でお前まで俺の野菜食べてんだ!


『育ち盛りなんだ。ほっといてやれ』


 ほっとけるか! これ以上何に育つっていうんだ!


 ……っと。無意識に口に出しておっちゃんに突っ込んでしまった俺は、慌てて口を塞いだ。

 セディスが俺を見てクスクスと笑う。


「一人で賑やかですね、Kは」


 そ、そうか?


「もし奈々がここにいればきっと喜んでいたでしょう。彼女は向こうの世界で食事する時は勉強の合間に一人でお弁当を食べていたそうですから」


 え?


「野菜のおかわりなら、まだたくさんありますよ」


 いえ。野菜はもうお腹いっぱいだし──


 ぎゅるると俺の腹が鳴る。

 赤面して腹を隠す俺を見て、セディスがまた笑う。


「そうですよね。たしかに食事には肉も必要です。待っていてください。もしかしたら下の貯蔵庫に保存されたものがあるかもしれません」


 そう言って、セディスは席を立った。



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