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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第二部】 そして世界は狂い出す
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第13話 見知らぬ他人の家で介抱されて、その上見知らぬ他人に茶を出されて優しくされたからと言って、それを百パーセント善意だと勘違いしたとしても俺はそれでいいと思う。


 ふと、部屋の扉が開いた。

 俺はおっちゃんとの会話を止め、扉へと目を向ける。


 扉の向こうから姿を見せたのは、ストレートの金髪を腰まで伸ばした長身の優男だった。

 ポットとカップを載せたトレーを手に静かに入室してくる。


 誰だ?


 この世界で初めて会う種族だった。

 服装からして魔法使いなのだろうか。

 耳部分はエルフに似ているが、顔は人間に近い。

 男は俺に向けてにこりと微笑み、温厚そうな声で話しかけてくる。


「目が覚めたようですね」


 俺はベッドから警戒気味に身を引いて問う。


 お前、黒騎士か?


 男は口端を優しく広げてクスと笑った。


「私が黒騎士? とんでもない。私なんかの力で黒騎士になれるのならこの世の誰もが黒騎士になってしまいますね」


 じゃぁお前は誰だ?


 男は軽く辞儀をし、挨拶してくる。


「初めまして、K。私の名はセディス。あちらの世界の綾原奈々という住人に語りかけていた者です」


 綾原に語りかけていた、ってことは……


 おっちゃんが何かに気付いたように呟く。


『セディス? ……いや、まさかな』


 俺は内心でおっちゃんに尋ねる。


 この人おっちゃんの知り合い──?


『教えない』


 もういい、わかった。じゃぁ聞かない。


 男──セディスは俺の横へと歩み寄ると、そのままベッド横にあった小さなテーブルの上にトレーを置いた。


「ずいぶん長いこと穏やかに眠っていらっしゃいましたね」


 言われ、俺はぎこちない笑みを浮かべて頬を掻いた。


 そ、そうか? 俺そんなに寝


「もしやあちらの世界では魔物に襲われるが為にぐっすりと眠る習慣がないのでは?」


 いや、あっちの世界に魔物という生き物は存在しない。眠ろうと思えば普通に安心して眠れる。ただ昨日はベッドで寝ていなかったからあまりよく眠れてなかったんだ。


「そうですか。ならばきっと体が疲れていたのでしょう。子供もベッドでぐっすり休むことができない世界とは、あちらの世界は私が想像する以上に過酷な環境なのでしょうね」


 いや、なんというか昨日は約束をしていたから寝られなかったんだ。夜十時に。夜十時に。夜十時に。


『三回も繰り返すな。一瞬何のバグかと思っただろうが』


 セディスがポットをちょいと掲げて俺に言ってくる。


「喉が渇いたでしょう。お飲み物をご用意しました」


 俺は無言でこくりと頷いた。

 セディスがカップに紅茶を注ぎながら言葉を続けてくる。


「驚いたでしょう?」


 え?


「何のご説明も無しにこのような手段であなたをこの世界に引き込んでしまったことです」


 お前の仕業だったのか?


 セディスは平然と頷いて答える。


「意識がある状態だとこの世界に来た時に騒がれるんじゃないかと思いましてね。面倒だから先に殴り倒しておきました」


 オイ。


「ご安心ください。全てが済めばあなたをちゃんと元の世界に返して差し上げますよ」


 本当か? それ。


「ただその前に、私に手を貸してほしいのです」


 手を貸す?


「実は彼女──奈々が、黒騎士に捕まってしまい困っていたところでした。それなのに私は情けないことに彼女を助けられるほどの力がありません。だからあなたをこの世界に引き込んだのです」


 というよりも俺、元から綾原を助けるつもりでいたんだが。


「黒騎士はあなたを差し出すことを条件に奈々を誘拐していきました。あなたならきっと彼女を黒騎士から救い出してくれることでしょう」


 なぁ聞いてるか? 俺の話。


「あなたを差し出さなければ奈々は黒騎士に殺されてしまいます。──そこで一つ、作戦を思いついたのです」


 俺は怪訝に顔をしかめた。


 作戦?


「私はあなたを使い、黒騎士との取引に応じようと考えています。あなたを差し出す代わり奈々を解放してほしい、と。

 あぁ、でも誤解しないでください。あなたを差し出すのはあくまで作戦です。あなたには頼もしい守護者がついていますから」


 守護者? 俺に?


「えぇ。今あなたの頭の中で語りかけている御方のことです。その御方はかつて世界中に様々な伝説を築き上げ、その名を轟かせ恐れられていた男です」


 様々な伝説? 例えばどんな?


 セディスはフフと笑って、


「それは言えません」


 言わねぇのかよ。


「ですから、たとえあなたが黒騎士に捕まったとしても、あの御方ならきっと命を懸けてあなたを救い出してくれることでしょう」


 セディスはにこりと笑って俺に紅茶を差し出してくる。


「どうぞ」


 受け取って、俺はそのままカップを口へと運んで一口飲んだ。

 紅茶は人肌の熱さにされており、飲みやすいストレートだった。


『おい』


 なんだよ。


『お前、まさか飲んだんじゃないだろうな?』


 飲まないと失礼だろ。


『馬鹿かお前。馬鹿なのか? だからお前……』


 あれ? おっちゃん?


 急に頭の中でおっちゃんの声が遠く聞こえなくなっていく。

 俺は紅茶へと視線を落とした。


 もしかしてやられたのか? 俺。


 じっと紅茶を見つめる俺に、セディスは言ってくる。


「私がその飲み物に毒を仕込んでいるとお思いですか?」


 ……。


 黙っていると、セディスが俺の飲みかけの紅茶を手に取り、そのまま一口だけ紅茶を飲んだ。

 無害であることを証明するようにカップを軽く持ち上げて見せ、カップを俺に返してくる。


「あの御方をあまり信用なさらない方がいいですよ。本当のことを言う時もありますが、たまにあなたを利用したりもしていますからね」


 前回騙されたこともあり、俺は妙にセディスの話に納得してしまった。

 俺はセディスに尋ねる。


 おっちゃんのこと──いや、俺の頭に話しかけてくる奴のこと、何か知っているのか?


 セディスはフフとまた笑った。人差し指を口元に当て、


「それは言えません。言ってはいけないのです」


 ふーん。


 またか、とばかりに俺はセディスの話を右から左へと聞き流す。

 そしてベッドから足を下ろすと、立ち上がってそのまま窓へと向かって歩いた。


 窓辺に手を置き、そこから見える風景を見渡す。


 外国。

 一言で言えばそんな感じである。


 まるで海外旅行にでも来ているかのような、この世界に来るといつもそんな気分にさせられる。

 見慣れない風景。

 でもゲームの世界ではよく見るような風景。

 窓から吹き入るそよ風も、物に触れている感覚も、見える立体感ある建物さえも、全てが本物のように見える。

 これが体験ゲームというものなんだろうか。

 この世界は俺にとって実感が無さそうで、でもすごく現実味のある、とても不思議な世界だった。


 ん?


 俺はふと、ある一点で視線を止める。


 なぁセディス。


 呼びかけたことで、セディスが俺のところへいそいそとやって来る。

 傍へ来て、そして俺を見つめて首を傾げ、


「なんでしょう?」


 窓の向こうを指差して、俺は尋ねる。


 あの向こうに見える建物はなんだ? スゲー高くて大きい、真っ白い建造物。


「あれは神殿です」


 神殿?


「えぇ。あの建物はこの国が信仰する神が宿るとされる聖域の場所なのです。この国は神が中心であり王も貴族も存在しません。神こそが全て。その神の加護の下、我々は幸せに暮らしているのです」


 ふーん。


 セディスがにこりと笑って言ってくる。


「外へ出てみますか?」


 いいのか?


「その代わり外套衣を着ることになりますけど」


 外套衣?


「以前奈々から聞きました。あなたの世界では我々が着る外套衣のことを【ゲームの世界とやらの魔法使いが着る服装】というのでしょう?」


 わかりやすいな、その例え。


「ご用意いたします。しばらくここで待っていてください」


 そう告げて、セディスは部屋から出て行った。



 ※



 しばらくして、セディスが部屋に戻ってくる。一枚の白い外套衣を手に、


「ではこれをその服の上から着込んでください」


 この服の上から?


「奈々はこう言っておりました。こちらの世界の服装は技術に遅れ、あちらの世界と比べて生地が厚く、中が蒸れて大変だと。それでもどうしてもとおっしゃるなら、こちらの世界の服をお貸ししても良いのですが……」


 たしかに外套を着る季節じゃないしな。


「外出時はこれを着ることがこの国では当然です。ですからこれを着ないとよそ者であることがすぐにバレてしまいます。

 この国は信仰上よそ者を嫌っています。ましてや異世界人などもってのほか。

 異世界人だと思わしき者は全て神殿にて排除される規則となっていますので存在がバレてはあなたの身が危険なのです」


 セディスが差し出してきたのは高位魔法使いが着るような丈の長い白のダッフルコートみたいなものだった。

 俺はそれを手に取り、広げて見る。


 おぉ。なんかこれ、ハリウッド俳優になった気分だ。


 セディスが首を傾げる。


「はりうっど? それはどんな気分ですか?」


 気にするな。こっちのことだ。


 俺はそう言って外套衣に袖を通した。そして、


 あ、あれ? 何だこれ? 外れるのか? 装具? 紐? ちょっと待て。これ最終的にどうやって着るんだ?


 あたふたと手間取る俺を見てセディスが笑う。


「異世界人とは不思議な種族ですね。幼き子供にも一人で出来ることを迷われるなんて」


 いや、俺の世界にこんな服無いし。しかも見た目と違ってこんな複雑な構造になっていたとは。着る順番としてはこれで正しいのか?


「これが先ですよ」


 ──って、装具だけ渡されても分かるかッ!


 セディスはやれやれとため息を吐いてお手上げした。


「服を着せなければならないとは、これではまるで赤ん坊と同じですね」


 俺はこめかみに青筋を立て、口端を引きつらせながら言い返した。


 お前、一度でいいから俺の世界に転移して来い。同じ言葉を皮肉たっぷりに返してやる。



 ※



 外套衣を着せてもらい、その襟元にあったフードで頭をすっぽりと隠す。その姿は誰ともつかぬ、この街に溶け込める姿だった。

 俺は玄関前でセディスを待つ。


「お待たせしました。遅くなりすみません」


 セディスも俺と同じような外套衣を着て、フードで顔を隠してやってくる。


「さぁ外へ出ましょう。色々とこの国の事情をご説明します」



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