第12話 冗談は声だけにしろ
俺はゆっくりと目を開いていった。
頭がぼんやりとしていて、まだ寝ぼけている。
図書室で誰かに背後から殴られたところまでは覚えている。
だがその後の記憶がない。
気絶していたのだろうか。
気付けば俺はなぜか見知らぬ家のベッドの上で寝ていた。
視線を巡らせば、そこはもう図書室内ではなく、木とレンガを組み合わせた古い造りの異国な部屋の中だった。
見慣れない外国っぽい暖炉に、異国風の簡易家具。そして窓から見える外の風景はファンタジーゲームのような中世ヨーロッパ風の町並みが広がっていた。
ここは、あのゲームの世界なのか?
俺は静かにベッドから身を起こしていく。
──うッ!
後頭部に響く鋭い痛みを感じて、俺は顔を歪めて手を当てた。
血が出ていないことを手の平を見て確認し、痛みだけであることに安心する。
こういうのはサスペンス・ドラマの中だけにしてほしいものだ。一歩間違えば殺人事件だぞ。痛ぇ……。
ん?
そして気付く、向こうの世界そのままの制服姿であることに。
ちょ、待て。どういうことだ? これは。
俺は慌てて額にも手を当てて確認する。
リラさんからもらった黒ヘビ皮も巻かれていない。
そんな……まさか嘘だろ! 体ごとあのゲームの世界に飛ばされたっていうのか!?
俺は焦るように頭の中のおっちゃんに声を掛けた。
居るんだろう、おっちゃん! 俺の頭の中に!
『お? 無事だったか』
俺は胸を撫で下ろす。
良かった。おっちゃんと交信はできるのか。
『今どこにいる?』
それは俺が聞きたい。
『まぁいい。そんなことより見事に嵌められたな』
嵌められた? 俺が?
『説明してほしいか?』
いや、別にいい。
『だが言う』
好きにしてくれ。
『俺はもうお前の力を制御してやることができない』
は? いきなりどうした?
『クトゥルクの力が暴走しても止めてやれねぇし、お前をその世界からログアウトさせてやることも無理だ』
なんだよ、それ。どういうことだ?
『俺が何を言いたいか、まだわからないのか?』
あ、あぁ。
『遠まわしに言うとだな……すまん、油断した』
ストレートに謝ってんじゃねぇか!
『と、いうわけでだ。お前を元の世界に戻してやる為にはちと時間が要る』
ま、待てよ。じゃぁ俺、本当にこの世界に召喚されたっていうのか?
『そうだ。お前は今、俺の制御から離れて完全に独立した状態にある。もっと分かり易く説明するならばお前はこの世界の住民も同然ってことだ。だからもうこの世界でコードネームを名乗る必要もないし、本名を言っても何の問題もない』
俺の頬が引きつる。
おい、おっちゃん。
『なんだ?』
……帰れるん、だよな? 元の世界に。
おっちゃんは真剣な声でハッキリと告げた。
『それはお前次第だ』




