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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部】 オリロアンの聖戦女(ヴァルキリー)
306/313

逆境の中で咲く花は、どの花よりも貴重で美しい【21】

タイトルがSimulated Realityだから仕方ないかなとは思ってる

安全ベルトはよく確認してからお読みください

後半に変なもの入っているけどこういう物語だから_( _´ω`)_



 2025/05/06 20:27


 ──ハッと目を覚ました時には。

 俺は生まれた時から馴染みのある自室のベッドで横になっていた。


 ……え?


 慌ててベッドから身を起こして、俺は両手を確認する。


 戻れた、のか? 元の世界に。おい、嘘だろマジかよ……。


 恐る恐るといった感じに辺りを見回してみれば。

 もうあの異世界で見るような光景はどこにもなく、それとは無縁の近代社会におけるハイテクな生活感がばかりが目の前に溢れていた。

 清潔感溢れたきれいな部屋、電気、パソコン、角のきれいな机、収納式のクローゼット、家具、時計、扇風機等々。

 本当に小さい頃から馴染みのある家具家電がそこかしこに目に映る。

 俺は大きく両手を振り上げると、そこに拳を握り、心からのガッツポーズを決めた。


 やったー! 元の世界にやっと戻れたぁ~!!!


 さようなら殺伐とした世界。

 さようならストレス。

 さようならクトゥルクの力。

 これで俺はようやく普通の中学生としての平凡な生活が出来るんだ。

 感極まったあまり、俺は勢いよくベッドから飛び出すと、興奮気味に窓へと駆け寄り、閉められたままのカーテンを激しく開いた。


 うっは。眩しい!


 差し込んでくる太陽の光。

 そこから見える住宅街。

 空を飛ぶ飛行機。

 

 やっぱりここが俺にとっての現実世界なんだ!


 その平凡さが今の俺にとっては逆に新鮮で、とても懐かしかった。

 戦いなんて無縁のきれいな青い空。

 道路を走る車、自転車、歩く人!

 何もかもが俺にとってはすごく懐かしい。

 小学校低学年のように、俺は興奮気味にぴょんぴょんと飛び跳ねて今の平凡な生活を噛みしめた。


 やっぱさ、一周回って凡人が最高なんだよ!


 訳の分からない名言が俺の口から飛び出す。

 宿題とか勉強とか部活とか学校行事とか先生から叱られたりすることなんて、白騎士やおっちゃんからの仕打ちに比べたら些細なことだしどうでもいい。

 今なら笑ってごめんなさいが言える。

 奉仕作業も喜んで!

 毎日当たり前に学校に通えるし、退屈な授業も受け放題、おはようの挨拶も交わし合える。

 昼に食べるお弁当とかがすごく恋しい。

 調理パンとかお菓子とか、なんでこんなに素敵で新鮮に感じるんだろう。

 日本食が食えるとか何年ぶりだっけ? ──いや、年単位じゃないけどさ。

 冷たいものは冷たいまま冷蔵庫で、温かいものはレンジでチンして温かいままで。

 同級生と話すこととか、毎日が同じことの繰り返しで当たり前で退屈だったんだけどそれがこんなにも幸せなことだったんだ。


 今日の朝ご飯はなんだろうな? あ、そうだ。水も飲み放題だし風呂もトイレも清潔感あってきれいでピカピカだ。


 なんだろう。今までがまるで監獄暮らしだったような……

 俺は愕然と床に座り込んで手をつき、深く項垂れる。

 さめざめと涙を流しながら。


 無理。向こうの世界なんてもう無理。ここの生活がいい。


 あ、と気付く時間。

 時計を見れば午前七時半を回っていた。


 やっべ! 遅刻する! 制服に着替えて顔を洗って飯食わねーと!


 仕掛け忘れた目覚まし時計。

 いつも起こしてくれる母さんが全然起こしに来てくれない。

 いや、それどころじゃない。


 今日の授業はなんだっけ? 早く教科書を鞄に詰めないと──。

 

 バタバタと慌ただしく机の上にあった教科書をかき集めて鞄に無造作に詰め込んで。

 俺はクローゼットへ駆け寄ると急いで馴染みある制服姿に着替えを済ませた。

 鞄を片手に急いで部屋を出る。

 階段を駆け下りて一階へ。

 降りたところの廊下で、俺はある異変に気付いて足を止めた。


 ……あれ?


 まるで引っ越しでもあったかのように、一階部分は家具がほとんど布で覆われてロープでまとめられていた。

 玄関のドアは青いクッション材が張り巡らされていて、靴箱の上にぽつんと電話が一つ残された状態になっていた。

 これは何かの悪い夢だろうか?

 俺は廊下に力なく鞄を落とした。


 何が……起こったんだ? これ。俺の家……だよな?


 いつもの俺の家の光景なのに、見回すものすべてがきれいに引っ越し準備で片付けられている。

 そういえばいつもキッチンから匂ってくる朝食の匂いが全然しないし、それにさっきからずっと父さんや母さんの声が聞こえてこない。


 父さん……母さん……? どこ居るんだ?


 俺はいつも母さんが居るキッチンへと急いで足を向けた。





 ※





 キッチンに辿り着いて──。

 いつもの変わりないキッチンを見回して、俺は安堵の胸を撫で下す。


 なぁーんだ。いつものキッチンじゃないか。もう、びっくりさせないでくれよ。何事かと思ったじゃんか。


 いつものキッチンでは母さんが主婦疲れしたのかテーブルでうつ伏せて寝ていた。

 もしかしたら俺がいつまでも起きてこないから、待ちくたびれて休憩しているのかもしれない。

 俺は寝ている母さんに気付いて一旦リビングへと向かい、ソファに掛けられていた簡易なブランケットを手に取ると、キッチンへと向かった。

 寝ている母さんを起こさないよう静かに、俺は母さんの背中にブランケットかけてあげる。


 起きるのが遅くなってごめん。さて俺の分の朝食は……無いのか。


 もしかして機嫌でも損ねてしまったのだろうか。

 いつもなら準備されているはずの朝食がテーブルに置かれていなかった。

 いつもなら「ご飯よー早く食べないと片付かないから急いで食べて」とか「遅刻するわよ、早く食べてしまいなさい。片付かないから」とか。

 思い出して俺は懐かしく笑う。


 仕方ない。朝ご飯は自分で作って準備するしかないのか。


 戸棚へ行って、いつもの俺専用のコップを持って流し台へと向かう。

 蛇口を捻って水を出そうとするも、なかなか水が出てこない。


 ……あれ? 水が出てこないぞ。故障かな?


 仕方なく流し台にコップを置いて。

 俺は母さんの寝ているテーブルへと向かって歩いた。


 なぁ、母さん。水が出ないんだけど……。


 よほど疲れているらしい。

 俺が声をかけてもビクとも反応しないし、起きる気配がない。


 なぁ、母さん。


 揺すってみて気付く、母さんが一枚の紙の上で寝ているということに。


 なんだ? これ。


 母さんの腕を持ち上げて、無理やり隙間を作って。

 俺はその紙を手に取って見つめた。

 そこに書かれた『離婚届』の文字。

 父さんのサインだけが書かれていた。


 え……なんで? なんでこんなことになっているんだ? どうして? 俺が居るのに……。


 動揺に震える声で俺がそう呟いた時だった。

 母さんの膝の上に載っていたのか、封書の束が床に落ちる音が聞こえてきた。

 気付いて俺は手持ちの紙をテーブルに置いて、不思議な心地で床に落ちた封書を手に取る。

 封書を中を覗き込んでみればいくつかの書類が入っていた。

 何気にその書類を取り出して、俺はその書類をテーブルに置くとそれを眺めてゆっくりと読み始める。

 役所に提出する書類のようだ。

 戸籍のところに父さんと母さんの名前があって、そして──。

 俺の名前のところには俺と両親の間に繋がりがない旨のことが書かれてあった。


 え……なん……。


 思わず言葉を詰まらせて、俺は震える手で口元を覆った。

 嘘であってほしいと願う気持ちと真実を確かめたい思いで必死に、俺は他の書類にも次々と目を通した。

 そんな時に。

 書類に紛れて出てきた一枚の見覚えある写真と、一枚の手紙。

 見覚えのある女性の手書きの字がそこには綴られていた。

 千鶴さんという人が最愛の親友である母さんへ宛てた内容と、親権を放棄するという旨の署名。

 そして、十四歳の誕生日に写真を渡すことが可能であれば渡してほしいという事。

 もし必要が無いならば焼却してほしいと書かれていた。

 写真は俺があの時向こうの世界の開かずの部屋で見たものと同じ家族写真だった。

 震える手で写真を握りしめながら、俺の目から流れた涙が舞い落ちる。


 なんで……だよ。俺、ずっと信じてたのに……父さんと母さんの本当の子供だって。


 その場に崩れるように座り込んで。

 ふいに。

 俺は床に落ちて転がっている小さな薬瓶に気付いて、思わずそれを拾い上げる。

 そこに書かれていた内容に、俺はようやく母さんの命が危ないことを知った。

 蒼白な顔で焦りながら、何度も何度も、母さんを揺すり起こしながら声をかけて。

 俺一人じゃどうにもならないんだってことに気付いて、俺は玄関にある固定電話へと急いで走り出すと、その受話器を手にとって必死に父さんの携帯番号を打ち込んだ。

 何十回かのコールで、ようやく父さんが電話に出てくれる。

 俺は必死に叫んだ。

 どこに居るのか分からないけれど家に戻ってきてほしいと。

 俺と母さんには父さんが必要なんだってことも。





 ※





 救急車が自宅の前で止まっている。

 運ばれていく母さんを、俺は家の囲いのブロック塀の向こうから見つめていた。

 父さんが付き添いで救急車へと乗り込んでいく。

 救急車が発進して、それを俺は遠くから見つめていた。

 そんな俺の後ろで噂好きのご近所さんが話している。


「一人息子さんを病気で亡くしてから、ここの夫婦、喧嘩ばかりだったそうよ」


「息子さん、まだ十四歳だったらしいわね。可哀想に」


「私葬式に行ったんだけどね、もう見てられなかったわよ。二人ともずっと棺から離れなくて葬儀が進まなかったらしいって」


 ……。


 あ、俺死んでいたんだ。

 そんなことを他人事のようにふと思う。

 自分の両手を確認して、そして足を確認してみたが、透けていたりとかそんなことは自分では分からなかった。

 道沿いから自宅二階にある自分の部屋を見つめて。

 そこがもう帰る場所ではなくなったんだと、すごく落ち込んだ。





 ──それから、何気なくいつもの通っていた道を散歩して。

 人とすれ違う度に、自分の体が誰とも接触しないことに気付いた。

 俺はふと向こうの世界のことを思い出してぽつりと呟く。


 どうやっておっちゃんのところへ帰ろうかな。

 つーか戻れるんだろうか、向こうの世界に。


 何気に見上げる空。

 とても穏やかで、とてもきれいな青空だった。


 向こうの世界へ戻って、どうしたいんだろう……俺。

 

 茫然自失になって思わずその場で足を止める。

 学校へ行ってみようかな。

 でも、きっと行っても、誰にも気づかれないんだろうな。

 そんな時にふと、俺は病院で見た最後の瞬間を思い出して「あぁ」と納得する。


 そういえばみんな卒業証書を持っていたよな。


 思わず鼻で笑う。


 ──いや、それ以前に今、何年の何月何日何曜日だよ。

 全然わかんねーや。


 どうしようもなさに自分で自分を笑って。


 ……。


 なんとなくこの世界に独りぼっちで居ることが心寂しく思った。

 以前まではあんなに元の世界へ帰りたいと願っていたのに、いざ帰れたとなったらなったでこれだ。

 できればこんな姿じゃなくて、あの頃のようにいつもの中学生活に戻りたかったな。

 そんな俺の脳裏におっちゃんの言葉が蘇ってくる。


【お前がいつでも向こうの世界に戻れるようにJをこの世界に引っ張り込むよう頼み込んでおいた。──Jの第三ログアウトなら、Jがこの世界に来た時間に戻ることができる】


 ……。


 あ。そういえば向こうの世界にJが居るんだっけ。

 Jを探し出して第三ログアウトで時間を巻き戻せば──

 しかし、ここにどうやって戻ってきたのかも分からない上に向こうの世界へ行く手段が不明だ。

 試しに内心で何度かおっちゃんに呼びかけてみたが、相変わらず返事がない。

 さて、俺はこの世界でどうすればいいのだろうか。

 そんなことを思いながら。

 俺はアテもなく道を歩いていた。





 やがて俺は信号機のない横断歩道に差し掛かる。

 大通りというわけではないが、車通りは少ない。

 幽霊だけど、一応左右を確認して安全かどうかの確認はする。


 車は……今のところ来なさそうだな。よし、渡るか。


 何気なく渡る横断歩道。

 ふと、俺の反対側から結衣の姿を見つける。

 すっかり成長して女子高生になっていた結衣は、相変わらずの携帯電話の操作をしている。

 もちろん安全確認なんて何のその。前なんて全然見ていない。

 所謂、歩きスマホってやつだ。

 俺の方が心配になって、結衣の代わりにオロオロと安全確認をしてしまう。

 そんな時だった。

 一台のチャラ男が乗った車がものすごい勢いでこちらに向かってくる。

 これまたこの運転手も携帯電話を操作をしている。

 所謂、ながら運転ってやつだ。


 ──って、うぉーーーーい! なんでお前らそんなに携帯電話に夢中なんだよ! 前見ろよ! 前ぇぇッ!


 俺は両手をわななかせながらも全力で双方にツッコミを入れて、そして全力で結衣へと向かって駆け出した。

 車と結衣が接触する寸前で、俺は無我夢中で結衣に抱きつき、その勢いまま一緒になって地面に倒れ込んだ。

 結衣の手から携帯電話が離れる。

 その携帯電話が車と接触して無残に壊れ、車はガードレールにぶつかって止まった。

 付近にいた人たちが何事かと集まってくる。

 野次馬がワラワラと集まってくる中で、俺と結衣は折り重なるようにして地面に倒れていた。

 俺はもちろん大丈夫だったのであっさりとその場から身を起こす。

 そしてまだ地面に倒れたままの結衣を見つめて。

 その表情が俺を見て驚いているようにも見えたが、何より丈の短い彼女のスカートが全開にめくれあがっていたのが印象的だった。


 ……白、なんだ。


 結衣が顔を真っ赤に慌てて身を起こして露わになったものをスカートで覆い隠す。

 そして、地面から立ち上がって俺の頬を思いっきり平手打った後に指さしながら言ってくる。


「ちょっと、K! あたしのパンツ見たでしょ!」


 ……あれ? ちょっと待て。何かがおかしいぞ。


 俺は平手打ちくらった頬に手を当てながら、そんなことを思う。

 ジンジンと痛む頬。

 いや、待て。俺って幽霊だったはずだよな?


「んもぅ!」


 無傷でピンピン元気だった結衣が、怒りに頬を膨らませて俺の片腕を掴んでくる。


「いいからあたしと一緒にちょっとこっちに来て」


 そう言って。俺の腕を無理やり掴んだままどこかへと引っ張っていった。

 通りを離れて公園の。

 馴染みのあるベンチに二人で腰を下ろして。

 まだ怒りが収まらない様子の結衣が腕を組んで足を組み、横暴な態度で俺に言ってくる。


「あたしって霊感があるのよ」


 初耳だった。


「しかも触れられるの。幽霊に」


 住職の娘か何かだろうか?


「あたしの祖父母の家が代々続く住職だから。小さい頃から霊感があるのよ、あたし」


 あ、そうですか。それは知らなかったです。


「ねぇ、K」


 なんッスか?


「向こうの世界からどうやって戻ってきたの? リ・ザーネ使ってくれたの? もしかして」


 いや……それはまだ使ってない。


「なんで?」


 なんでって……。


 俺はどう答えればいいか分からなかった。


「あんたのせいで、あたしの携帯電話が壊れちゃった」


 助けてあげてごめんなさい。弁償はできないです。


「別にいいのよ。また親に言って買ってもらうから。……高いけど」


 ……。


「ねぇ、それよりK」


 ん?


「向こうの世界でJは見つかった?」


 いや、それはまだ……。


「あっそ。朝倉君は?」


 居たは居たけど、黒騎士側に居るからどうやって会えばいいか分からないんだ。


「ふ~ん」


 ……あの、なんでそんな怒っているんですか?


「あたしのパンツ見たから」


 ごめんなさい。悪気は──


「あったわよね? 思いっきり白だって言ったわよね? あの時」


 魔が差しただけです。はい。


「ねぇ。あんたこれからどうするの? うちの祖父母の家に行って成仏していく?」


 いや、なんでそんな出前を頼むみたいな軽いノリで昇天しないといけないんですか? 俺。


「成仏しないと行けない場所なんじゃないの? 向こうの世界って」


 なぁ、あの世界って死後の世界なのか? なんか違うような気がするんだが、俺。


「どうなんだろうね。あたしもよく分かんないけど」


 いや、分からんのかい。


 俺はなんとなくツッコミを入れたくなった。

 気にせず結衣は話を続けてくる。


「ネットの情報はある程度集めてみたんだけど、都市伝説が独り歩きしている感じ。どれが正しい情報かも全然分からない。そっちはどう?」


 どうって……訊かれてもなぁ。


「やる気ある?」


 そもそも知らなかったし、俺。


「あんたの死に際にちゃんと知らせたつもりだったんだけど、ちゃんと聞いてた?」


 死に際って言うなよ。地味に傷つく。


 結衣がくすりと笑ってくる。


「まぁ、あんたが元気そうで安心したわ」


 元気……か。


 両親のことを思い出して、俺はすっかり気落ちした。

 溜め息を吐く。

 そのことで、結衣が何かを察して真顔になり、訊ねてくる。


「何かあったの? 話、聞いてあげようか?」


 いや、いい。


 俺は片手を振って気分を変えた。


 色々あったけど、お前と話したら少し気分が楽になった。


「あっそ」


 素っ気なくそう言って、結衣がベンチから立ち上がる。


「さてと。じゃぁあたし帰るね。これからバイトがあるから」


 あ、そうなんだ。いってら~


 俺が軽く手を振ると、結衣が溜め息を吐いてくる。


「幽霊っていいわね。何もしなくていいから楽そう」


 それが楽でもないんだよな。何していいか全然わかんねぇ。


「ま、それもあんたの人生なんじゃないの? じゃぁ、あたし行くね──」


 まで言ったところで、結衣が貧血気味にふらつく。

 地面に倒れようとしたところを、俺は咄嗟に抱きとめてゆっくりと地面に座らせる。


 ……。


 いきなりのことだったし、俺も反射的だったこともあって。

 なるべく考えないようにはしていたんだけど。

 俺の片手が勢いあまって結衣の胸に触れていた。


「Kの馬鹿!」


 本当に事故だったんだよ、これは。

 謝る前にはすでに手遅れで。

 二度目の平手打ちを食らった直後に俺は意識を失った。





 ※





 ん……──。


 俺は気が付いてゆっくりと目を覚ます。

 そこはまぁ、見慣れたと言えば見慣れた感じのおっちゃんの家の中で、俺はベッドに仰向けで寝かされていた。

 ベッド脇からおっちゃんが俺を心配そうに見つめてくる。


「気が付いたか?」


 えっと……ここは……なんだっけ?


 今自分がどこの世界に居て、そして実体があるのかないのか、ものすごく頭の中が混乱した。

 おっちゃんが安心させるように俺の頭をくしゃりと撫でてくる。


「どうやらまだ混乱しているようだな。今はぐっすりと休むといい」


 えっと……。


「いいから考えるな、寝ろ」


 その言葉とともに強制的に枕を顔に打ち付けられて、俺の視界が暗くなった。

 本当に、なんというか言葉で言うのは難しいことなのだけれど。

 情報を整理するためには、たしかに俺には時間が必要だった。

 2025/05/07 00:48

次回更新は体調に余裕があればワンチャンいけるだろうけど、こんな時間だから多分明日は体調的に無理かもな

更新予告はもうしない

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