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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部】 オリロアンの聖戦女(ヴァルキリー)
302/313

それが、おっちゃんだから【17】

見直しぐらいした方がいいと思います!


2025/05/04 10:09


シヴァが愕然とした表情で食いついてきて、俺のその手を激しく掴んで問い正してくる。


「君が使っているその魔法──クトゥルクの力ですよね? どういうことですか?」


 え、あ……えっと……


 視線を泳がせること右往左往。

 俺は動揺ながらの声で答える。


 どういうこと、っていうか……その……どう説明していいか俺にも分からなくて──


「あ、なるほど。そういうことですね」


 いや……何が?


 眉間にシワを寄せて険しい顔で問い返す俺。

 急にシヴァが何かを思いついたように表情を明るく変えて、指を鳴らしてくる。

 すると俺の手持ちの紙が、手を離れて宙に浮かび、そのまま四つ折りに畳まれていく。

 それをシヴァが手に取って。

 虚空から新たな紙と羽ペンを出現させると、それらを宙に浮かべたまま、まるで紙と羽ペンが生きているかの如く意思を持って動き、スラスラと文字をそこに書いていく。


「つまりはこれも、ブラック・シープの計画の内の一つということなんですよね?」


 いや、"ね?" と同意気味に訊かれても、そもそも計画が何なのかがよく分かっていないというか……


 クスクスと声を押し殺すようにしてシヴァが笑ってくる。

 掴んだ俺の手を離しながら、


「昔からそういう人なんです、ブラック・シープは。彼の考えをこちらで勝手に汲み取るしかないんです。

 "それは言えない" とか "教えない" とか、口癖のように隠し事や秘密が多くありませんか? 彼って」


 あ、うん。それは激しく同意する。


 過去を思い出して、俺は何度もその言葉に頷きを返した。

 シヴァが口元に手を当てて上品に笑ってくる。


「やはり君に対しても同じような態度を取るんですね、彼は」


 それが、おっちゃんだから……。


 俺のその言葉にシヴァが目を瞬かせながら首を傾げる。


「おっちゃん……?」


 あぁ、ごめん。


 俺は慌てて言い直す。


 おっちゃんって言うのはブラック・シープって人のこと。俺が勝手にそう呼んでいたんだ。

 最初会った時から秘密主義で、名前とかぜんっっぜん教えてくれなかったから。


 その言葉にシヴァが微笑してくる。


「そもそも彼の本名は誰も知りません」


 ……え?


「ブラック・シープも通称なんです。誰が最初にそう呼び始めたのかは知りませんが、みんな彼を色んな通称で呼んでいます。

 本人もそれを気にするような人ではないですので、誰もが好き勝手に彼を通称で呼んでいるんですよ。

 その中でも一番有名なのがブラック・シープという通称です。

 良い意味でも、悪い意味でも。

 彼の本名を呼ぶことはもちろんのこと、闇世界で呼ばれていた通称も、前クトゥルク様の時代からクトゥルク教で禁じられていることは有名ですし、その理由も定かではありません」


 通称だったのか? ブラック・シープって名前。


「えぇ。ご存じなかったのですか?」


 うん。みんながそう呼んでいたから、てっきり本名だと思っていた。

 特に俺なんか何も聞かされていなかったから、ずっと "おっちゃん" って適当に呼んでた。


「君の言うその "おっちゃん" とは、どういう意味でそう呼んでいるのですか?」


 あー……全然知らない大人の男の人にはオジサンって言うんだけど、他人だけど顔見知りで親しみやすそうな知らない大人の男の人には "おっちゃん" て言葉を使っている。

 おっちゃんの場合はなんていうか、その……なんだろう。オッサンよりかはおっちゃんって感じかなって。


 シヴァがクスクスと笑う。


「その呼び方良いですね。ブラック・シープの裏言葉を知っていると、僕としてもあまり気持ちのいいものではありませんでしたから。

 今度、僕も彼のことをそう呼んでみることにします。

 ──あ、ちょうど書き終えましたので、これもついでに "おっちゃん" に渡しておいてください」


 俺は思わず吹き出し笑う。

 それを見たシヴァが不思議と首を傾げてくる。


「僕、何か変なこと言いましたか?」


 いや、違うんだ。

 なんか俺以外がおっちゃんのことをそう呼ぶと、だんだんあのおっちゃんが可愛い人に見えてきたなって。


 俺のその言葉にシヴァがくすりと笑ってくる。


「可愛い人ですか。

 たしかに今は穏やかそうな人ですが、聞いた話によると黒騎士だった頃は異名を持つほどの怖い人だったとか」


 へぇ……。


 まぁたしかに思い返せば、おっちゃんにはマフィアに居てもおかしくないような言動が時々あったりするんでさほど驚きはしない。

 過去を告白されたとしても「あぁだろうね」で話が終わると思う。

 宙に浮かんでいた紙をシヴァが手に取って、それを四つ折りにし、俺に渡してくる。

 それを受け取って。

 俺は計二通の紙をポケットに入れた。

 シヴァが微笑ながらに俺に言ってくる。


「君が使うその魔法は、もしかしたら本物のクトゥルクの魔法ではないのかもしれないですね」


 ……え?


 急に何を言い出すのかと、俺は戸惑い、驚き目でシヴァを見つめる。

 シヴァが少し同情に潤んだ目で俺を見ながら言葉を続けてくる。


 2025/05/04 12:05

 2025/05/04 14:09


「クトゥルクはこの世に二人も存在しないんです。

 僕は前クトゥルク様の血を受け継ぐ正当なる子ですが、君はこの世界とは無縁のただの異世界人に過ぎません。

 もしかしたら彼は、前クトゥルク様の偶像を君に求めているだけの可能性もあります。

 彼は前クトゥルク様に一番近い存在の近衛兵だったので、クトゥルクの力がどのようなものかをずっと間近で見続けてきたはずです。

 そんな彼が偽られたクトゥルクの光を作り出したとしても、それは不思議ありません。

 たとえ僕の力と似たような力を持っていたとしても、それは偽りの光であり、僕の身代わり(スケープゴート)でしかないというのに……」


 スケープゴート?


「万が一僕の身に何かが遭った時のための身代わりとなる存在を遺しておく必要があるからでしょう。

 この世界にはクトゥルクの光が必要です。

 誰かがその光となり、人々の生きる支えにならなければならないのです。

 ──K。僕と一緒に神殿へ来て、僕の補佐官になりませんか?」


 ほさかん……?


 俺は眉間にシワを深く刻んで首を傾げた。

 シヴァが頷く。


「このままだと君の持つその光は使えば使うほど次第に弱くなり、いつか君の中から消えてなくなります。

 そんなの勿体ないです。

 その光が消える前に神殿で洗礼の儀式を受ければ、神殿の加護のもと、弱いながらも君の中の光は消失せずに済みます。

 光は無いよりもいくつもあった方が、民人たちも安心しますからね。

 そういうわけで、僕の補佐官になって力を貸してくれませんか?

 君が一緒だと、僕も友達が傍に居てくれて嬉しいというか」


 ……。


 俺の中のクトゥルクの力は弱くなるどころか増々パワーアップしていく一方な気がする。

 それに、クトゥルクの力が弱まっているならば今頃元の世界へ戻れているはずだ。

 俺は首を横に振って拒絶する。


 ごめん。俺、そういうのはちょっと苦手で……。俺の中の光が消失するならそれはそれで構わないし。


「そんなのダメです。僕の補佐が出来て嬉しくはないのですか? とても名誉なことなんですよ?」


 嬉しく……はないです、正直。はい。


「なぜですか?」


 なぜって……。


 シヴァが何かを閃いたかのようにポンと手を叩き合わせる。


「あ。分かりました。もしかして向こうの世界に戻れないかもとか心配していませんか?」


 いやぁ……まぁ、はい。それは心配していますけど。


「コードネームを与えられた時の契約書を持っていませんか? それがあれば僕が彼の代わりに、君を自由にこの世界と向こうの世界を行き来させることができます」


 契約書はあるって聞いたけど、まだもらっていないんだ。


「そうですか……。もらうことは可能ですか?」


 いや、無理。あのおっちゃん、どこかに隠している上に秘密主義だから。


 シヴァが納得したように頷きながら諦める。


「そういう人ですからね」


 うん。そういう人だから。


 俺もおっちゃんとの苦い過去を思い出しながらしみじみと頷く。 

 なんだろう、この分かり合える共有感。

 だんだん俺はシヴァに親近感が湧いてきた。


「Kはすごいですね」


 え?


「あのブラック・シープのことをここまで深く理解し、長く付き添えるのは前クトゥルク様と君ぐらいですよ。

 だから君には一度お会いしたかったんです。いったいどんな強者だろうって」


 そういう理由で?


 シヴァが満面の笑みでハッキリと答えてくる。


「はい」


 あ、そうですか……。

 

「だからぜひとも君には僕の補佐官をしてもらいたいなと思っていたところだったんです。

 君とは色々と話も合いそうですし。特にブラック・シープのことで」


 ご期待に沿えず……その、なんか。


 シヴァが両手を振って微笑してくる。


「いえ、いいんです。友達ならいつかまたどこかで会えると、そう本に書いてありました」


 本に……?


 俺がそう首を傾げて問うと、シヴァが小さく頷く。

 何かに思い悩んでいるような、深く気落ちしたような表情で話し始める。


「えぇ。なかなか神殿から出る許可をもらえなくて、抜け出してもすぐに捕まりますし、外に出たら出たで魔族が襲撃してきたりしますし、周りはみんな王様とか白騎士とかばかりで、みんな僕に気を遣っていて……。

 だから僕の周りにはいつも本しかなくて、精霊たちや小魂たちの声も姿も、実は全然まだ見えないし聞こえてこないんです。

 こんなの僕、クトゥルクとしておかしいですよね。

 前クトゥルク様の血を受け継いでいるはずなのに、クトゥルクの魔法以外が全然ダメだなんて」


 でも白狼竜(フェンリル)はお前と一緒に居るんだろ?


「えぇ。それが僕にとっての唯一の救いなんです。

 白狼竜(フェンリル)はクトゥルク以外に興味を示さないですから、クトゥルクとして認められた証になります」


 ……。


 大丈夫とか、その内なんとかなるよとか、そんな他人行儀の簡単な言葉で励ましたくはなかった。

 ハッキリ言って、クトゥルクとしての資質を問うのであればシヴァの方が上だと俺は思う。

 この街が襲撃された時も、俺は口先だけで助けたいと喚いていたけど、実際にこの街の人たちの心の支えになったのはシヴァの存在だった。

 壊れた街並みを修復したのもシヴァの実力だ。

 正直、俺なんかよりもシヴァの方がずっとずっとクトゥルクとしてすごいんだってことは薄々分かっていた。

 だから俺は、俺が見た正直なことをシヴァに言葉で伝えた。


 この街が襲撃された時、みんな絶望的な顔をしていたけど、シヴァがこの街に来ただけでみんな明るい顔になったんだ。

 だからこれからもクトゥルクの存在が大切なんじゃないかって俺は思うんだ。


「……K」


 俺を見るシヴァの目がめちゃくちゃ輝いていた。

 そして、勢いよく俺の傍に急接近してきたかと思うと、今度は俺の手を両手でぎゅっと握りしめて言い迫ってくる。


「やっぱり僕と一緒に神殿へ来てくれませんか? そして僕の話し相手になってください」


 嫌です。


 俺は心からハッキリと丁重にお断りした。


 2025/05/04 17:39


次回いよいよSR:B名物叩き落としの回、第2弾ですぞぉーイエ━━٩(*´ᗜ`)ㅅ(ˊᗜˋ*)و━━イ

安全ベルトの着用は確認はしっかり出来ておるかな?

水ぷよ連鎖攻撃、行っきまーす!

#主人公はそろそろコンボ攻撃を受けるべき


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