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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部】 オリロアンの聖戦女(ヴァルキリー)
291/313

相変わらずおっちゃんが、何かと俺の邪魔をする【6】


 2025/04/02 20:12


 いったいなんなんだよ、説明しろってマジで、おっちゃん。


 とある1階建ての知らない民家に。

 知らない初対面の中年男から半ば誘拐同然に連れ込まれて強制的に家の中へと押し込まれる。

 乱暴なまでに強い力で押し込まれたせいか、俺はバランスを崩して床に倒れ、すぐに上半身を起こして目前の中年男を睨みつけ、そう言い放った。

 そんな俺の言葉を無視して。

 中年男──白い民族衣装に、短く整えた赤髪をオールバックにした髪型、黒に近い褐色肌のワイルドな体格をした、見た目ハリウッド映画に出ていそうなダンディな男──が、木製で出来た出入口のドアを閉めて、そこに片掌を翳すと呪文を唱える。


「立ち入らざる夢幻城。契約と叡智の混交を紡げ。閉ざされし檻(ジャウラ・セラーダ)


 ドアに半透明な魔法陣の光が形成され、そして吸い込まれるようにして消えていく。

 男がドアに手を当てて、ドアの閉開を確認する。

 するとさきほどまで簡単に押し開いていたドアが、まるで鍵がかかったように微動だに動かなくなった。

 俺は不思議な思いで首を傾げて男に問う。


 魔法、使ったのか……?


 男が振り返らずに答えてくる。

 おっちゃんの声で、


「まぁな。ただの時間稼ぎにしかならんだろうが、無いよりはマシだ」


 なぁ……本当におっちゃん、なんだよな……?


 俺が少し警戒気味にそう問うと、男が振り向いて微笑する。


「今更何の確認だ? それは」


 いや、だって……。


 今まで頭の中に聞こえてきた声がシンとしたように聞こえなくなり、代わりに目の前で、リアルに男の口から発せられている。

 男──おっちゃんがお手上げして肩を竦め、笑う。


「今までと何か違うことでもあるか?」


 ……。


 なんというか、どう説明していいか分からないけど、今までは相手が口パクでしゃべっていて、頭の中でおっちゃんの声が聞こえてきているような感じだった。

 だけど今は──


「直接、俺と会話しているように聞こえるってか?」


 うん……。


 頷く俺に、おっちゃんが微笑ながらに手を差し伸べてくる。

 その手を掴んで。

 俺はその場から立ち上がると、服についた埃を払い、そしておっちゃんと向き合った。

 手振りを交えながら疑問を伝える。


 今までとはなんかこう……その……なんて言えばいいんだろう。

 感覚が違う感じがするんだ。


 おっちゃんが気楽に笑って片手を軽く挙げ、挨拶してくる。


「お前とは改めて "はじめまして" になるのか。自己紹介するなら、これが俺の本体ってやつだ」


 え? じゃぁ今まで俺に話しかけていたのって……これがおっちゃんの本当の姿なのか?


「そうだ。──っつっても、あまり変わらんか」


 その姿で普通に話しかけてくればいいのに。なんで──


 俺が不満げにそう言うと、おっちゃんが俺の言葉を手で遮って、その後奥へと指を向ける。


「ここで立ち話もなんだ。続きは奥で話そう」





 ※





 家の中は特に広いわけでも狭いわけでもなく、豪華でも貧乏でもなく、一人暮らしにはちょうどいい間取りの、ごく普通のお家だった。

 俺はおっちゃんから台所っぽい場所に通されて、そしてそこにあった2人用の簡易な白い石造りのテーブル席に腰を下ろした。

 飾り気も家族写真も何もない、真っ白な壁のシンプルな家。

 とてもじゃないが、この家からはおっちゃんの私生活が何も見えてこない。

 おっちゃんはそのままキッチンに向かって、戸棚から簡易食になりそうなものを探し始めた。

 物珍しそうに周囲を見回す俺。


 なぁ、おっちゃん。


「なんだ?」


 この家……まさか不法侵入とかじゃないよな?


 振り返ることなくキッチンで何かを探しながら、おっちゃんが答えてくる。


「なぜそう思う?」


 本当にここ、おっちゃんの家なのかなって……


「なぜ疑うんだ? 俺には持ち家がないとでも思っていたのか?」


 え、いや、だっておっちゃん。今までずっと貧乏だったじゃん。金持ってないし、いつも泥棒や違法賭け事みたいなことしてたじゃん。


 俺が不貞腐れたようにテーブルに頬杖をついて文句を呟くと、おっちゃんが平然とばかりに答えてくる。


「誰が貧乏だと言った? 今まで外貨を持ち合わせていなかっただけだ」


 その言葉に、俺は顔を引きつらせて不満をぶつけた。


 は? じゃぁなんで俺にお金集めみたいなことさせたんだよ? 金の工面できるじゃん。


 おっちゃんが鼻で笑って、片手に二つのコップと、もう片手に水の入ったボトルを持って、俺の向かいに座ってくる。


「この姿に戻らないと本人確認できないから銀行で金が下せなくてな」


 なのに水なのか?


「今は水しか用意できないんだ。俺もこの姿に戻ったばかりで部屋も片付ける余裕がなかった。あとでお前と一緒に、ある程度の食料を買い出しに行こうと思っている」


 別にいいけどさ……。


 つーか、この世界にも銀行って普通にあるんだ。

 俺はふーんと色々納得してコップを受け取り、そこに注がれた水を一口飲んだ。

 冷たくも温かくもない。

 ……ごく普通の水だった。


「水だっつったろ。ミカン絞ってジュースにしてやっていいが、さっき見たらカビが生えてやがった。それでもいいなら──」


 なんでそれをあえて出そうと思えるんだよ。そこまで聞いたら俺も「うん」とは頷けねーよ。


「そうか。じゃぁ水で我慢しろ。今この家には水しかねーんだ」


 わかったよ。


 渋々と、俺はコップに入った水を再び口へと運んだ。

 向かいに座るおっちゃんも、自身のコップに注いだ水を飲み始める。


 しばらく二人でまったりと水を飲んで。

 俺は口を開いてぽつりと言う。


 なぁ、おっちゃん。


「なんだ?」


 なんで最初からその姿で俺の前に現れなかったんだ?


「ディーマンからこの姿で指名手配を食らっていてな。それにこの本体で下手に動いたら、白の騎士団に捕縛された時に身動きが出来なくなって逃げられなくなるんだ」


 あ、それで思い出した。

 そういえば俺がゼルギアと一緒に飯屋に入ろうとした時に、おっちゃんがいきなり俺に話しかけてきて、半ば強引に俺を誘拐同然に連れ出しただろ?

 危険って何が危険なんだ? まだゼルギアのことを疑っているのか?

 

「いや、そうじゃない」


 だったら何? なんでいきなり邪魔してきたんだ? やっとこの世界の住人として生きようと決心したばかりだったのに。


 今までの不満をぶつけるかのように俺は語気を荒げておっちゃんにそう言った。

 するとおっちゃんがあっけらと笑ってサラっと怖いことを言ってくる。


「悪いな。実はお前も、俺の巻き添えでディーマンから指名手配を食らってしまってな。白の騎士団が捕縛に来る前にお前を回収したってわけだ」


 ……は?


 俺は思わず間の抜けた顔で問い返す。


 なんで俺がおっちゃんの巻き添えを食らわなければならないんだ?


「だから悪いなって」


 謝罪軽いな、おっちゃん。俺に対して心から反省する気ないだろ?


「お前が誰に対してもKを名乗るからだろうが。俺が以前、お前のために名前考えてやっていただろうが。ほら、あれだ。

 ヴァヴァ……? ん? えーっと、ヴァヴァダクトなんたら……えーっと、なんだったか」


 忘れてんじゃねーかよ。


 おっちゃんが俺に指を突き付けて言ってくる。


「とにかくお前、白の騎士団を舐めんなよ。指名手配食らったが最後、アイツ等にとって街や国を封鎖なんてあっという間のお家芸だからな。

 王様の恩恵なんてあったもんじゃねーぞ。

 あれほんっと、抜けて外に出るまでがめんどくせぇーのなんのって」


 だったら余計に俺を巻き込んでくるなよ、おっちゃん。


 おっちゃんが話を締めるようにして両手を軽くポンと叩き合わせると、ニコリと笑って、まるで園児にでも語り掛けるかのような優しい口調で俺に言ってくる。


「そういうわけで。ヤバイことになったから、お前今日からこの家から外出禁止な」


 ……。


 俺も反撃する思いで笑顔で言葉を返す。


 断るって言ったら?


「……」


 笑みを崩さず、おっちゃんが俺を見ながら言ってくる。


「 "アサクラ" とかいう友達探しのことは俺に任せてお前は先に逝け。そして捕縛後は存分に神殿庁の牢屋で地獄を見てこい。一人でな」


 ……。


 俺は笑顔を保ったまま拳を握りしめて煮えたぎるような苛立ちに歯ぎしりした。


 サラっと言うなよ、腹立つな。おっちゃんが言いたいことは分かったよ。


2025/04/02 22:42



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