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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・下編】 砂塵の騎士団 【下】
285/313

騒動の終止符【40】【終】

……愛猫に会うことはもうできないんデシか?

夢でもいいからもう一度会いたいデシ


 2025/01/19 13:56


 薄暗かった通路に元の明るさが戻る。

 俺は通路に佇んだ状態でゆっくりと目を開いていった。


 え? ……え? あれ?


 見知った船の通路の中。

 船内のバイトで働いていた時の、懐かしい船員の服装。

 辺りをぐるりと見回せば、なんかどこかで見たことあるような傷ついた通路内の光景が俺の目の前に広がっていた。


 は? え、なん……いったいどういうことだ? まさかずっと夢を見ていたわけじゃないよな?


「コラぁッー! そこのお前! 覚悟しろ!」


 いきなり背後──通路の向こうから飛んできた聞き覚えのある罵声に、俺は驚いて短い悲鳴を上げた。

 俺は咄嗟に近くの床に落ちていた【へし折れたバール】を拾い上げると、反射的にそれを声のする方へ構える。


 まさかミランがここまで追ってきたわけじゃないよな?


 通路の向こうから見知った人物達が駆け寄ってくる。


 ──え?


 思わず俺は何度も目をこすって瞬かせ、二度見した。

 よく見れば、槍を持った俺の上司とアデルさん、それにミリアじゃねーか。

 どういうことだ?

 俺はまた何かの繰り返し現象に襲われているのか?

 いや、それだったらダンジョンが見当たらないんだけど。

 オロオロとバールを構えて何かに怯える俺。

 距離を置いて上司が立ち止まり、俺に向けて槍を突きつけてくる。


「犯人はお前だな!」


 はぁ!? 何が!?


 俺は全く意味が分からず愕然とした顔で手をわななかせて上司に問い返す。


「何がもクソもない、仲間の仇だ覚悟しろ! この魔物め!」


 ご、誤解だよ! 俺は化け物なんかじゃないし、誰も殺してなんかいない!

 本当だ、信じてくれ!


「お前のその手持ちのバールはなんだ!? それで仲間を撲殺したのか!」


 ぼ、撲殺……!?


 俺は手持ちのバールを見て、それを慌てて床に放り捨てた。

 ミリアが横から冷ややかに俺の上司にツッコむ。


「撲殺ではなく死因は斬殺です」


「そうか! ならばバールで仲間を斬殺したんだな!」


「何を言ってるんですか? バールで斬殺なんて無理です。頭大丈夫ですか?」


「……」


 ミリアの鋭いツッコミに、俺の上司も次の言葉が出ない。

 アデルさんが声を張って俺に言う。


「吾輩は信じておるぞ、ケイ。たとえお前さんがここでバールを振り回していようとも」


 え? ちょ、待って。ほんと誤解だって。


 俺は慌てて両手を振って全力で否定する。

 なぜだ? アデルさんにもミリアにも今までの記憶がないのか?

 もしかして俺だけだったのか? あんな体験したのは。

 一応念のために、俺は恐る恐るミリアとアデルさんに問いかける。


 あの……二人とも、本当に何も覚えていないんですか? えっと……砂海のダンジョンのこととかも。


 すると俺の上司が周囲を見回しながら怪しんで言ってくる。


「何なんだ、この壁の酷い傷は!? やっぱりお前か! 仲間を殺したのは!」


 ち、違うんです! これは何かの誤解です! 俺は化け物なんかじゃありません!


 上司が再度槍を構え直してくる。


「間違いない。この一連の人殺し騒動──さては貴様の正体は、人間のフリした魔物だな!」


 ほんと違いますって! 何かの誤解です! 俺、誰も殺してなんかいません!


「その方、槍を収めよ」


 穏やかに、そして意味深な微笑を浮かべ。

 アデルさんが俺の上司の槍を手で掴み、その場に引き留める。

 そして俺のところへと歩み寄り、その背に庇うようにして、俺の上司に言い放つ。


「この者は魔物などではない。誰よりも人々を愛し、助け、そしてどこまでも真っ直ぐで嘘をつけぬ、信頼できる吾輩のかわいい愛弟子二号だ」


 ……え? アデルさん?


 次いでミリアも俺のところに来て、アデルさんと同じように俺を庇い、俺の上司へと言う。


「私も同じく。この者を信じています」


 ミリア……。


 そんな時だった。


「アデル様、ご無事ですか!」


 遅れてわらわらと。

 白騎士数人が駆けつけてくる。

 そして俺の上司のところで足を止め、何事かと視線をあちこち彷徨わせて見回す。

 アデルさんがみんなに言う。


「ここはもう問題ない。魔物は去った。お前たちはそれぞれ持ち場へ戻るがよい。ここは吾輩が引き受けよう」


「し、しかし──」


 戸惑う白騎士たちの言葉を半ば切り裂くようにして。

 どこからか聞き覚えのある懐かしい者たちの声が飛んでくる。


「ま、待ってくれ!」


「待つデシよ!」


 ふいに聞こえてきた近くの物置部屋からの慌ただしい物音。

 俺は何が起こったのかさっぱり理解できずに目を瞬かせる。

 その後。

 慌てふためくようにドアが開いて、ボロボロに金髪を振り乱した傷だらけの青年船員と黒猫が我先にと飛び出すようにして床に転がり込んできた。


 え? カルロス? デシデシも……?


 カルロスとデシデシが急いで俺の前で両腕を広げて庇ってくる。


「待ってくれ! 証明は僕がする! コイツが魔物ではないことを!」


「ボクもデシ!」


 え……みんな、いったいどういう……?


 記憶があるのかないのか、そしてこれは繰り返しなのか繰り返しではないのか。

 俺はどうみんなに声をかけていいか分からず、オロオロと戸惑い、めちゃくちゃ頭を混乱させた。

 白騎士たちは一斉にカルロスとデシデシにも剣先を向ける。


「何者だ! お前たちも魔物の生き残りだな! ならば──」


 言葉とともに剣を抜き放つ白騎士たち。

 震える声を呼吸で落ち着けた後、カルロスが白騎士たちに告げる。


「僕の名はカルロス。カルロス・ラスカルド・ロズウェイだ。

 詳しい事情は言えない。だけど理由(わけ)あって、友と共に色んな体験をずっと繰り返してきた。今はようやくダンジョンから抜け出して、気付いたらあの用具入れの中に居たんだ。

 ケイは僕の大事な友達だ。どうか傷つけないでほしい」


 途端に、今まで冷静だった白騎士たちが動揺を見せる。次々と剣を下ろし、


「カルロス様だと?」

「まさかそんな」

「なぜこのような所に?」

「カルロス様はたしか、勇者祭り参加後に行方が分からずに──」


 ならば本人では、と。

 白騎士たちで話がまとまり、早々と武器を収めてカルロスの元へと一斉に集まり、片膝をついて胸に手を当て深く辞儀をした。

 カルロスが咳払いして、気まずく俺をチラ見してくる。


 ……?


 何か言いたそうに人差し指を振ってくるが、俺には伝わらない。

 するとアデルさんが背後から俺の両耳を手で塞いできて、無言でカルロスに頷きの合図を送る。

 それに安心したカルロスが、ここぞとばかりに態度を一変させ、傲慢な態度で胸を張り、白騎士相手にふんぞり返る。


「頭が高いぞ、お前たち。僕はクトゥルクに選ばれし勇者なんだ。もっと敬意というものを払いたまえ」


「よくぞご無事で、カルロス様」


「僕にはクトゥルク様の御加護がある。だから魔物は僕に恐れをなして寄って来ないんだ」


 おお、と感動と憧れの入り混じった声を漏らす白騎士たち。

 俺はそれを見て半眼で「なるほどな」と納得した。

 カルロスはきっと俺に気を遣ったに違いない。

 そしてアデルさんも。

 俺の耳から手を離して、お手上げするように肩を竦めてくる。

 ミリアも、デシデシも、みんな……あの時の記憶が残っているんだ。

 ここで出会った最初の時とはみんなの反応が違っている。


 えっと……。


 俺は軽く笑った後に、気まずく頬を掻いて。

 なんだかどうしようもない事態に顔を蒼白させた。

 ちょっと待て。

 みんなの記憶って、いったいどこからどの部分までが残っているんだろう。

 カルロスが俺を友と呼んでくるところを考えると、もしかして……

 俺がクトゥルクの力を持っているってことがバレてないか?


『さてと。この事態をお前はどう受け止める?』


 うぉ、びっくりした……! あ、悪いおっちゃん。そんなところにいたのか。


 足元を見やれば。

 ミニチュア・ジュゴンが踏みそうな位置で床に転がっていた。

 俺はそれを拾い上げて頭の定位置に乗っける。

 やっぱりおっちゃんはマスコット・キャラのままがいい。


『オイ。どういう意味だ、それは』


 おっちゃんが咳払いして話を切り替えてくる。


『まぁいい。──ンで、どうするんだ? この状況。

 嘘を言って、またみんなの前から逃げ出してみるか?』


 ……。


 俺は今まで体験してきたダンジョンのことを思い出して、やんわりと笑った。

 内心で、おっちゃんに答えを返す。


 いや、このままでいい。

 もうみんなに嘘をつくのは疲れたよ、俺。

 どうせもう、このまま元の世界には帰れないんだろ?

 だったら堂々と俺、みんなと一緒にこの世界に居るよ。

 もし何かあったら。その時はクトゥルクの力でなんとかすればいい。


『なんとか、ねぇ……。具体的にはどうするつもりだ?』


 具体的なことは考えていない。適当にやり過ごしてみるよ。

 それに俺には “おっちゃん” っていう強い味方についているし。


『俺に頼るな。てめぇのことはてめぇで何とかしろ。俺は知らん』


 よく言うよ。いざと言う時は助けてくれるくせに。


 俺は内心でそう言って、つい顔に出して笑ってしまった。

 みんながそんな俺の安心した笑顔につられえて、にこやかな笑みを返してくる。

 場の空気がすごく和んだ瞬間だった。




 その後。

 俺とカルロスは船員同士として仲良く肩を組んで、俺たちの上司に捕まって、そのまま回収されて、そして二人で──




 ※




 貨物室の薄暗い船内で。

 狭い部屋に敷き詰められたジャガイモの箱。

 俺はジャガイモを一個手に取り、ナイフで持って不器用に皮をむいていく。


 なぁカルロス。


「なんだい? ケイ」


 お前、上に戻らなくていいのか? 勇者なんだろ? 本当に、俺と一緒にこんな待遇でいいのか?


 船員服を着たままのカルロスが微笑して。

 ジャガイモの皮を不器用にむきながら答えてくる。


「クトゥルクに選ばれし勇者として無理に気丈を張って、白騎士たちや貴族たちの前でチヤホヤされるよりも、友達とこっちに居る方が気楽で居心地がいいのさ。本音はね」

 

 ふーん。なんか変わったな、お前。


「そっちこそ。君は以前と比べてすごく信用できる奴になった。ケイに出会えて本当に良かったよ。こんなにも気楽で話しやすい友達なんて初めてだったからさ」


 ……。


「……」


 ちみちみとした作業。

 薄暗い部屋の中を、男二人が陰気にただジャガイモの皮をむくだけの光景。

 俺はふとある疑問を持ってカルロスに問う。


 なぁカルロス。


「なんだい? ケイ」


 あのさ……。お前、このままオリロアンに着いたら何をする予定だ?


「えーっと、そうだね……」


 そこで一旦言葉を切って。

 そして意味深な笑みを浮かべてくる。


「まずは白の騎士団としてケイを捕縛するって言ったら、君はどうする?」


 ……。


 力なく、俺の手からナイフとジャガイモが床に落ちて転がった。

 カルロスが軽く笑ってくる。


「冗談だよ。ケイは僕の大事な友達だからね。捕縛されたら君の刑務所行きは確定だ。

 ブラック・シープを捕縛するならともかく、君みたいな善良な一般庶民まで巻き込まれることを考えると胸が痛む。

 オリロアンに着いたら、僕とは一旦お別れだ。

 君の事情についても、このまま他言しないつもりだから安心していい。

 ここには青の騎士団が常駐している。前にもアデルさんから聞いたと思うけど、僕にも色々と事情があるんだ。オリロアンに長居するわけにはいかない。

 君に返してもらった角笛を吹いて、のんびりと故郷に帰るよ。

 君は一緒には来ないだろ? 来ても君には居心地が悪い場所になるだろうし」


 あぁ、うん。……まぁな。


 そう気まずく答えて。

 俺はジャガイモとナイフを拾い上げて、再び皮をむき始める。


「──で? 君の方こそオリロアンに着いたら何をする予定だい?

 ブラック・シープの付き添いかい?」


 助けたい友達がいるんだ。オリロアンに。


「……そっか。なかなか事情が深そうだね。聞かないでおくよ。

 僕に何か手を貸せそうなことはあるかい?」


 いや、大丈夫。きっとあのおっちゃんが何とかしてくれるはずだから。


「ブラック・シープのことかい? 彼は気を付けた方がいい。

 もしブラック・シープに利用されて白騎士に捕まるようなことがあれば、僕の名前を伝えてくれ。

 僕がすぐにでも駆けつけて、君の誤解を説明して解放してあげるから」


 あぁうん。ありがとう。その時はごめん。そうしてくれると助かる。


「オリロアンで、君が友達を救い出せることを心から祈っている」


 ありがとう。カルロスも元気でな。またいつかどこかで会えるといいな、俺たち。


「うん、そうだね。──あ、そうだ。これを君にあげるよ」


 言って。カルロスがおもむろに腰部分のポケットを探って、そこから一つのチェーンのついた携帯用の銀色の円盤を俺に手渡してきた。

 それを受け取って。

 俺は不思議に首を傾げる。

 赤子の拳程度の大きさの西洋レトロチックな銀色の円盤である。

 円盤の表はカルロスん家の家紋っぽいものが刻まれており、裏を見れば俺の額で見たことあるような紋様が刻まれていた。


 これ、何?


「見ての通りだよ。蓋を開けてごらん」


 ……。


 言われて俺は、ボタンっぽいものを押して、円盤の蓋を開く。


 ごめん、見ても分かんねぇや。


「羅針盤だよ。道に迷った時はそれを使うといい」


 え、これ、お前の大事な物じゃないのか? 本当にもらっていいのか?


「構わないよ。君と僕との友情の証だ。

 もし白騎士に捕まった時はそれを見せて僕の名前を出せばいい。

 それを見せるのが一番スムーズに話が通ると思うから」


 あぁうん、分かった。ありがとう。──え、じゃぁ俺からは何を渡せばいい?

 ごめん、今ちょうど持ち合わせとかなくてさ。


 俺はオロオロと自分の服を探ったりして、カルロスに渡せるような物を探した。

 するとカルロスが首を横に振り、かけていた角笛のペンダントを示してくる。


「いいよ。君とのつながりはこの角笛のペンダントだ。

 これを吹けば、またいつかどこかでケイと会えそうな気がするから」


 あぁ、そうだな。たしかにそんな気がする。


 俺は力強く頷いてカルロスに言葉を続ける。


 またいつか会おう、どこかで……。




 ※




 それから。

 俺たちを乗せた船は無事にオリロアンの港へと接岸することができた。

 これから起こりうる大きな事件に巻き込まれるとは知らずに──。

 2025/01/19 16:09


Simulated Reality:Breakers【color_code:black版】

砂塵の騎士団【下】終


年の初めの夢で、ある人が約束してくれたんだ。

この巻を無事に完結させたら愛猫に引き合わせてくれるって。

だからしばらくは愛猫を探してみようと思う。

ゲーム制作も再開させないと、だよな……。

いつか戻るその日まで。

出来れば感想はそのまま残して置いてくれるといいんだけどな。

すごく励みになりました。

そして、ここまでお読みくださりありがとうございました。

もしかしたらまた次の章を再開するかもしれないので、完結ボタン押さずにそのままにしておきます。

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