第7話 気のせい、だよな?
やっと結衣から解放された俺は、買い物を済ませて一人家路に帰りついた。
ただいまー。
リビングから母さんが顔を見せ、玄関へとやってくる。
「ご苦労様。遅かったわね」
色々あったんだ。
俺はそう言って母さんに買い物袋を手渡した。
「あら、どうしたの? その手首のミサンガ」
ぅげッ! 忘れてた。
俺は慌てて手首を隠すと「なんでもねぇよ」と言って顔を逸らした。
母さんがニヤリと笑う。
「もしかして母さんの知らないところで彼女とかいるんじゃないの?」
そんなんじゃねーよ。
「それより、ちゃんと買ってきてくれた?」
エリンギ?
「残念。えのき」
やっぱりな。そうだろうと思ってえのきにした。
「さっすが我が息子。わかっているじゃない」
まぁな。
玄関で靴を脱ぎながら、俺は尋ねる。
今日の夕飯なに?
「きのこカレーよ」
カレー!?
「あら? ダメだった?」
そうじゃなくて、えのき関係なくないか?
「きのこカレーと言えばえのきでしょ?」
しめじだろ!?
「あ、それよ。しめじ」
……いや、もう何きのこだろうと別にいいよ。カレーだったら。
俺は玄関から上がると二階へ歩いていった。
その後ろから母さんが声をかけてくる。
「あ、そうだ。さっき朝倉君から電話があったわよ」
わかった。後で電話しとく。
「朝倉君と何かあったの?」
俺は足を止めて怪訝な顔で振り返る。
え? なんで?
「気のせいかしら。なんか思いつめたような暗い声をしてたのよね」
あの朝倉が?
「そうなの。聞いたんだけど、何も話してくれなくて」
……。
自室へ行くのを止め、俺は玄関にある電話へと向かって歩いた。
受話器を取り、朝倉の家に電話をかける。
しばらく呼び出してみたのだが、誰も電話に出なかった。
俺は首を傾げて電話を切る。
誰もいないみたいだ。
「変ね。ほんと、ついさっきだったんだけど」
出掛けたのかな?
「そうかもしれないわね。またしばらくして掛けてみたら?」
そうする。
「じゃぁお母さんはさっそく料理でも始めますか」
え? 今から?
「先にお風呂入ってきなさい。その間にぱぱっと作っちゃうから」
そう言って、母さんは買い物袋を手にキッチンへと戻っていった。
俺も電話から離れ、一階の風呂場へと足を向ける。
ふと──。
電話のベルが聞こえたような気がして。
俺は足を止めて電話へと振り返った。
空耳だろうか? 電話は鳴っていないようだ。
気のせい、だよな?
俺は首を傾げて風呂場へと歩いていった。




