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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・下編】 砂塵の騎士団 【下】
267/313

嘘をつき続けるということは……【32】


2014/07/10 12:59


 俺の横を過ぎ去る際に、ゼルギアが俺の肩に軽く手を置いてぽつりと言ってくる。


「もしお前が嫌じゃなければ、俺はこの先このギルドの次期団長として、これからお前を育てていきたいと思っている。

 返事を後で聞かせてくれ」




 ※




 俺は塗り薬の入った小さな壷を手に、重症人が待つ家へと向けて移動している最中だった。

2024/09/14

 心ここにあらずというか、ぼーっと虚空を見つめて考え事をしながら歩き続ける。

 所謂よそ見というやつだ。

 だから、カルロスが俺の前方から歩いていることに全然気付かずに、そのままカルロスと正面からぶつかる。

 俺もカルロスも互いに痛みの声を上げて、その場をよろめく。


「僕が前を歩いているのになんで気付かないんだい?」


 ごめん、考え事してて──……っつーか、俺が避けないって気付いたんならお前が避けろよ。


「はぁ? 君はこの僕に ”避けろ” と言っているのかい?

 僕は貴族でありクトゥルクに選ばれし勇者だぞ。

 その僕に、君は ”道を開けろ” と言っているのかい? 無礼にも程がある」


 いや、だから、よそ見して俺も悪かったと思っているって言っているだろ。

 ってか、お前も気付いていたんなら避けていれば、お互い不快も痛みもなかったんじゃないかって言いたいんだよ、俺は。


 以下、延々と平行線の言い合いが続く。

 俺だって一応謝っているにも関わらずカルロスが全然納得してくれない。

 ハッキリ言ってカルロスに偏見と差別意識がなければ、すごく仲の良い友達になれたと思っている。

 だが仕方ない。カルロスとはこういう奴なのだ。

 そんな不毛な言い合いを止めてくれたのはデシデシだった。


「さっきからうるさいデシよ、二人とも。また喧嘩デシか? いいかげんにするデシ」


 いつの間に傍に来たのだろうか。

 それに気付かない程に言い合っていた俺たちの会話に横から口を挟んで、デシデシが呆れたように溜め息を吐く。

 2対1になると察したのか、カルロスがやれやれとお手上げしながらどこかへ去って行った。

 無視してデシデシが俺に言ってくる。


「K、どうしたデシか? 団長に何か言われたんデシか?」


 あー、いや……別に、全然。大丈夫。


 俺は目を泳がせて返答に焦る。

 正直デシデシには次期団長のことを話しても良かったんだが、デシデシのことだからきっとゼルギアの話を引き受けるよう提案してくるに違いないと思った。

 それに、俺にはもう一つ、誰にも言えない悩みがあった。

2024/09/15

 手持ちの薬壷に視線を落として、内心で思う。


 俺はそもそもこの世界の住民じゃない。

 戻るべき場所があるというのに……なんでこんなにも迷っているんだろう……。


 友人(ダチ)を助ける為に飛び込んだこの異世界。

 順調に行けば、今ごろオリロアンに着いて、そしてダチを見つけたら説得して、そのままダチと一緒に元の世界へ帰れたらいいなという考えだった。

 この世界に来た目的は永住の為なんかじゃない。

 この世界での生活なんて正直どうでもいいんだ。

 それなのにいつの間にか、この世界に馴染んでいっている自分が怖かった。

 ゼルギアにもその場でNOと断ればいいはずなのに……

 なんで俺はこんなにも返答に迷っているのだろう。

 

「K……? 何か考え事デシか?」


 え?


 俺の顔を覗き込み、心配そうに見てくるデシデシに気付いて、俺はハッとして慌てて首を横に振った。


 あ……いや、その全然。違うんだ。


「もしかして団長からギルドの跡継ぎの話でも言われたデシか?」


 え……なんでそれ、わかったんだ?


 デシデシが腕組みしてフンと鼻を鳴らしてくる。


「その話、団長がずっと前からボクに相談してきていたデシ。

 次期団長がギルドに居ないのはおかしいって。

 たしかに団長は今まで危険な依頼も完遂してきた歴戦の強者デシ。

 だからギルドのみんなも、団長はこんな依頼ごときで絶対死なないって思っている部分があるデシ。

 そもそもこのギルド自体、団長がそこら辺を浮浪していた奴らに一緒に仕事やらないかと声かけしただけの集まりデシ。

 Kも獣使いとして一緒に仕事しようと誘われてギルドに来たように、ボクも、そして他のみんなも、たまたま団長と出会って誘われてギルドに来たデシ。

 ゼルギア以外の団長なんて考えられないデシ。

 だから今まで次期団長なんて決めなかったわけデシけど……でも今のギルドは昔と違って大勢になってしまったデシ。

 もし、今回のように団長の身に何かがあった時と思うと、ボクたちどうしていいか分からず途方に暮れてしまうことが分かったデシ」


 ……。


 デシデシが俺の足元に駆け寄ってきて、そのまますがるように俺の足にしがみつく。


「ボク、Kがこのギルドの次期団長になるなら絶対ついていくデシ。他のみんなもきっとボクと同じ気持ちデシ」


 え……いや……それは、なんというか……。


 気持ちの焦りを隠すように頭を掻いて視線を泳がせて。

 俺は曖昧に返答した。

 異世界人だからそれは無理です、なんて言えない。

 俺が異世界人だと告白すれば、その時点で俺のクトゥルク持ちが確定する。

 それなら、どんな返答をするのが正しいのか。

 それを悩んでいるというのに──

 デシデシが何か思いついたかのように俺から離れて考え込む。


「そうデシね。ボクだけが納得しても仕方ないデシ。みんなが納得しないと駄目デシね」


 いや、だからそういうことじゃなくて……その、俺は──


 デシデシが期待と待望に目をキラリと光らせて力強く俺に言ってくる。


「ボクに任せるデシよ、K。ボクがみんなに訊いてくるデシ」


 え、ちょっ──!


「大丈夫デシよ、ボクに任せるデシ!」


 言うなりすぐに駆け出したデシデシに、俺はデシデシの体を掴むことも引き留めることもままならずに後ろ姿を見送るしかなかった。


 どうしよう……俺がクトゥルク持ちだってことを正直に話して、それでダチを助ける為だけにこの世界に来た事情を話すべきだろうか。


 しかしギルドでコードネームLがクトゥルクの話をした途端の、あの異様なまでガラリと緊張感に包まれた怖い雰囲気を思い出すと、俺は恐怖で口を噤むしかなかった。



この話、途中で切れていた。

何かリアル事情があったのだろうが忘れた。

もう一つの新しい保存先に続きを残している。

その続きは36話からである。

合い間の話をこの十年間でどこに紛失したかは思い出せない。

引っ越しの際に紛れて処分したかもしれない。

とりま36話までつなげようと思っているが話がつながっていなかったらそこはご愛嬌。

そしてリアル多忙により書く時間が限られているため不定期更新になります

お待ちいただけますと幸いです

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