よくやったな!【31】
2014/01/20 22:16
ゼルギアが俺に手を差し出してくる。
俺も手を差し出してゼルギアと握手を交わす。
ゼルギアが空いた手で俺の肩を軽く叩いてくる。
「よくやったな、K。俺たちの仲間を守ってくれたことに感謝する」
……いえ、俺一人じゃ何も出来なくて。
俺は頭を掻きながら戸惑いを見せつつ、はにかんだ。
おっちゃんが俺の頭の中から口を挟んでくる。
『たしかに何もしていないな。戦ったのは俺だ』
分かっているけど、おっちゃんはちょっと黙っていてくれ。
内心でそう言い返してから、俺はゼルギアに言葉を続ける。
みんなで一緒に頑張ったから、ここまで──
「謙遜しなくていい。お前とカルロスの勇姿は他の仲間たちから、すでに聞いている。
お前ら二人が囮になって村人の攻撃を一手に引きつけてくれていたこととか、な」
そう言ってゼルギアが、俺たちが籠城していた家とは別の二件の家を顎で示す。
「この村のダンジョンの仕組みもさっき向こうで聞いた。
悪かった。お前たちをこの村に残してきたことを後悔している」
次いでアデルさんも申し訳ない顔してゼルギアの後ろから謝ってくる。
「すまんかった。こうなると知っていたら吾輩は──」
「俺もだ」
「知っていたら俺もここに残っていた」
連なるようにしてアデルさんと一緒に他の仲間たちも謝ってくる。
みんな……
俺はその言葉にようやく安堵して微笑み、目を潤ませた。
途端に。
緊張から解放された安心感からか、急に体力の消耗と足の疲れが一気に出てきて、俺は力抜けるようにしてその場に座り込んだ。
仲間が声をかけてくる。
「大丈夫か? K」
あ、うん。大丈夫。なんか急に安心したら疲れが出てきて
そんな俺を見て笑いが起こる。
俺も照れくさく頭を掻いて、はにかむように笑って誤魔化した。
本当はそれだけじゃなかった。
さきほどゼルギアと交わした握手。
きっとおっちゃんが俺の体から抜けてゼルギアに乗り移ったことで、油断していた俺の体がバランスを崩したってこともある。
『よく気付いたな。正解だ』
もう二度と俺の体に入ってくるなと言いたい。
金輪際、戦闘であんな恐怖を味わうなんて御免だ。
あの時カルロスが助けてくれなかったら、俺は腕を一本失っていたところだった。
『何事も経験が大事だって言うだろ?』
もう二度と俺に関わらないでくれ。
俺の言葉を鼻で笑って。
おっちゃんの声はそこで一旦途絶えた。
ゼルギアが俺に手を貸してくる。
その手を借りて、俺はその場から立ち上がった。
ゼルギアが俺に言う。
「もう一度、今度はみんなで話し合って計画を立て直そう」
うん。
俺もその言葉に同意する。
そんな俺とゼルギアとの間を急に激しく引き裂いて、奴がギャーギャーとゼルギアに喚いてくる。
「ちょっと、そこの貴方! そう、貴方よ貴方──くわえタバコの貴方!
私がここに連れてきてあげたことを忘れてない!?」
え……?
俺は驚き目で奴に視線を向ける。
奴の言葉をゼルギアが鼻で笑い飛ばして否定する。
「連れてきたっつったって、お前が来た時にはすでに俺たちはこの村へ戻る途中だった。そこからの道案内だろうが。
勝手に合流して勝手に道案内してきたかと思えば、急に血相変えて全力疾走して居なくなりやがって。
お陰で残された俺たちはさんざん道に迷わされた」
「一本道だったでしょうが! どこをどうすればあの道を迷うというの!」
「案内するならもっとちゃんと最後まで案内してくれ」
「ンまー! なんて図々しい人間なの! 今すぐ全員そこへお並び! その身をギッタギタに斬り刻んであげるわ!」
……。
俺は思い出す。
あの時奴の体から噴き出していた汗は全力疾走していたのが原因だったということを。
斬り刻むと宣言しておいて、奴が本気で彼等を攻撃するわけでもなく。
ゼルギア達もゼルギア達でそんな命令に従うわけでもなく。
その代わり、奴がやたらと俺を何度もチラ見してくるのはなぜだろう。
ゼルギアが微笑した後、俺の頭の中でおっちゃんの声が聞こえてくる。
『お前の顔色を窺っているのさ』
俺の顔色を? なんで?
『殺すべき相手かどうか、お前の表情を見て決めているようだ』
だから、なんで?
そんな時だった。
デシデシの声が聞こえてくる。
「やっぱり団長デシ! 戻ってきてくれたデシ!」
「団長!」
外から聞こえてくる会話に、その様子が気になってドアを開けたのだろう。
開けてすぐ、デシデシと軽傷の仲間が嬉しそうに駆け寄ってきた。
他の家からも軽傷の仲間たちが出てきてゼルギアの元へと集まってくる。
そして。
集まってきた者たちから次々と上がる悲鳴。
俺とゼルギアの横に居るバニーガールの格好をした魚人族の大男。
当然だった。
ゼルギアがみんなを宥める。
「大丈夫だ。みんな落ち着け。彼──いや、彼女って言えばいいのか……。
とにかくそいつは俺たちの味方だ。安心していい」
……。
ざわざわと。
ゼルギアの言葉を聞いて戸惑う仲間たち。
おっちゃんが俺の頭の中で付け加えてくる。
『正確に言えば、奴はお前だけの味方だ。お前だけを全力で守り、お前の敵を全力で排除し、そしてお前だけをずっと一途に愛し続──』
言わないでくれ。その先は絶対に。
『蠍の女を知っているか? 奴が一度想い込んだが最期、相手を地獄の果てまで追いかけ続ける。
奴こそが唯一、あのゲス神を──クトゥルクを震撼させた相手だ』
怖ぇーよ! 俺はこの先どうすればいい?
『今後は命がけで奴から逃げ続けろ。永遠にな』
ぶつりと。
それだけを告げて、おっちゃんが自ら俺との交信を断ってきた。
……。マジであのおっちゃん、あとで覚えとけよ。
いつか仕返ししてやる。
俺はそう決心した。
「ところで──」
デシデシが不思議に小首を傾げて団長に問いかける。
「団長はどうして急に戻ってきたデシか? 出口が見つかったんデシか?」
「すまない。出口はまだ見つかっていないんだ。その代わり──」
ごそごそと。
何やらポケットの中を探ったり、全身に手を当てたりして何かを探しているようだった。
「何しているデシか? 団長」
「ふむ」
アデルさんが何かを思い出したかのようにポンと手を打って、胸服から何かを取り出して俺に手渡してくる。
え?
アデルさんから受け取って。
俺は渡された正体を知ってとても驚いた。
相棒ぉー!!
俺の掌にちょこんと座る一匹の愛らしい水色スライム。
全力で叫んで、俺は全力で水色スライムの相棒に頬ずりして褒め称えた。
お前がゼルギア達を呼び戻してくれたのか!
そうだよ、と言わんばかりに、水色スライムが満足そうにプルプルと身を震わせて、俺の頬ずりを受け入れてくれた。
いつの間にこんな大役を成し遂げてくれたんだ、お前は。
しかもたった一匹で、誰にも何も言わずに黙って村を出て。
たしかに墓石の数には俺の相棒たちは含まれていなかった。
村人たちに狙われないように村を出て行くのも怖かっただろう。
たった一匹で何が潜んでいるかもわからない道を探し回るのも怖かっただろう。
ゼルギア達に会えるかどうかも不安だっただろう。
うおおおお、よくやった相棒たち!
なんかめちゃくちゃ俺より役に立ってるじゃないか、お前ら!
モップとスライムを両頬にサンドイッチハグさせて、俺は二匹の勇敢なる行動を全力で褒めた。
周りの仲間たちもみんなが俺を褒めてくる。
さすが獣使いだ、とか。獣使いのお前が居てくれたからこそ、とか。
俺は片手を激しく振ってそれを否定する。
ち、違うって本当! 俺、何もしてないって!
そんな俺にデシデシが憧れの眼差しを向けてきて、そっと俺の服の裾を掴んでくいくい引っ張ってくる。
どうした? デシデシ。
「K。ボクもスライムやモップみたいにKの相棒にして欲しいデシ」
いやいや……
たしかにデシデシは猫だが、なんかそれはそれで違う気がする。
「ボクも進化してみたいデシ」
そっちかい。
俺は半眼になってデシデシにツッコミを入れた。
ゼルギアが注目するよう、みんなに向けて手を二度叩き合わせて言ってくる。
「みんなを不安にさせて悪かった。
もう一度じっくり話し合おう。今度はみんなで。
まずは重傷者の状況と備蓄事情を知りたい。確認してくれ」
団長の言葉ということもあって、それにみんなも一斉に同意して。
みんなそれぞれの場所へ散って移動を始める。
「K」
え?
声を落として、ゼルギアが俺に声をかけてくる。
俺の背をポンポンと軽く叩いて、
「俺の居ない間の団長代理、よくやってくれた。お前に感謝している。
もしお前が嫌じゃなければ、俺はこの先このギルドの次期団長として、これからお前を育てていきたいと思っている」
※次話更新まで少し休憩を置きます
今後YouTube『趣味れSR:B公式チャンネル』にて
SR:Bシリーズの番外編などのリメイク配信をしていく予定ですので
ご興味があれば、ぜひご視聴よろしくお願いします!




