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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・下編】 砂塵の騎士団 【下】
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俺がみんなを守るから【19】

前話で不要だと思って一部文章を削除したら盛大にしくじった。


 そんな話、俺……聞いてない。


 思いもしなかった言葉をデシデシから知らされた俺は、いまだ情緒不安定に泣き伏せるデシデシをその場に残し、おっちゃんこと──ゼルダさんの行方を捜した。

 遺体のあった場所にも行ったけど、案の定誰も居ない。

 カルロスを直接捜しても良かったのだが、そんなことを単刀直入に聞けば何かを疑われるに決まっている。

 とりあえずおっちゃんを先に捜すんだ。

 俺が村の中をウロウロきょろきょろと歩きながら捜し回っていると、


「待つのだ、ケイよ」


 背後からアデルさんの声が聞こえてきて、俺は思わず振り返った。

 ゼルギアとともに手を招きながらゆっくりと俺のところに歩み寄ってくる。


 アデルさん! それにゼルギアも!


 俺はさきほどまでの泣き顔を微塵も感じさせないような気分高揚した明るい笑顔で、手を大きく振りながら二人の元へ駆け寄った。

 お互い距離を縮めたところで立ち止まる。

 アデルさんが先に口を開く。


「さっきはいったいどうしたというのだ? ケイよ。もう大丈夫なのか?」


 うん、ごめん。さっきは色々と取り乱してしまって、俺自身、感情のコントロールができなかったというか……。


 表情苦くしてゼルギアが俺に言ってくる。


「無理はしなくていい。デシデシもあんな感じだからな」


 うん、俺はもう……たぶん平気。さっきいっぱい泣いたら。


「そっか……」


 苦く笑って、ゼルギアが無骨な手で俺の頭を撫でてくる。

 無理すんなよ、とばかりに。


「俺だって最初から仲間の死を受け入れたわけじゃない。

 たとえ討伐団であれ、今までずっと過ごしてきた大事な仲間だったんだ。

 お前たちが試練を合格するまで、一人で仲間の遺体を並べながらワーワー泣いたよ。お前みたいにな」


 と、気恥ずかしそうに笑う。

 俺は意外なゼルギアの一面を知って驚く。


 え? ゼルギアでもわーわー泣くことがあるのか?


「あのなぁ。俺がそこまで非情でクールな鉄仮面の団長だと思うなよ。

 俺だって人間だ。ガキみたいに感情的になって怒ったりも笑ったりも泣いたりだってする。

 だけどな、みんなにとって俺は団長だ。

 こういう時に俺がしっかりして、みんなを引っ張っていかないと、せっかく生き残った仲間までも不安にさせちまうだろ?」


 そうだったんだ……。


 俺はゼルギアのリーダー性に感動した。

 それと同時に、絶対にこの人の指示に従って頑張ろうと決心した。

 元気が出てきた俺は、両拳を握りしめてガッツポーズを二人に見せ、そして決意表明を口にする。


 俺、もう大丈夫だから! ゼルギアみたいに俺もみんなのことを守りたいんだ!

 全然頼りないかもしれないけど、俺に出来ることって何かある?


 すると、ゼルギアとアデルさんは困ったように互いの顔を見合わせる。


 え? え? 何? 俺、何か変なことでも言った?


 浮かない表情の二人の様子に俺は激しく動揺する。

 アデルさんが腕を組んで俺に言う。


「うむ。そのことでちょうどお前さんを捜しておったところだったのだ」


 ゼルギアも申し訳なさそうに俺に言ってくる。


「実は、この生存者の中でもお前しか頼れる奴がいなくてな。

 デシデシもあんな調子だ。

 元気な生存者も居るんだが、仲間を引っ張れるかというと正直頼りないのが本音だ。

 お前だってまだギルドの中では初級者レベルでこんなことを頼むのは荷が重いとは思うが、その……言うかどうかを二人で迷っていたところだ」


 言うって何を?


 俺がそう問うと、アデルさんが答えてくる。


「お前さんに "団長の代理" を頼みたいそうだ」


 え?


 俺が驚きに目を丸くしてゼルギアを見やれば、ゼルギアが俺の肩をぽんぽんと軽く叩いて答えてくる。


「どんなに生存者がいたとしても、ここからどうやって脱出できるかが問題だ。

 ここは砂海の海底だ。

 たしかに俺たちの船は無事だが、浮上する前に呼吸はおろか水圧だって耐えられない。

 どちらにせよ、ここから脱出する方法を探さなければ、いくら生存している俺たちでさえ、いつかはあの遺体と同じように並べられることになる」


 え、でも……ここの村の人たちは、ずっとここで生活しているんだろ?


「何を夢見たことを言っているんだ? K。彼等は人間じゃない。

 この先もずっと共にここで暮らしていくことは不可能だ」


「うむ。ゼルギアの言う通りだ。いつまでもここに長居することはできん。

 何か脱出する方法を探さねばならぬのだ。

 ミリアもきっとどこかに生存しておろう。

 ミリアが見つかれば砂塵の騎士もきっと出てくるはずだ。

 砂塵の騎士は吾輩たちをこの砂海の底に沈めた張本人だからな。

 もしかしたら、吾輩たちを浮上させる方法を握っているやもしれん。

 吾輩一人だけでは成功した時が忍びない。

 出来れば全員で助かりたいところだが、さきほどゼルギアが言っていた通り、ここにいる生存者を数人引き連れたところで仲間を引っ張れるかというと正直頼りないのが本音だ。

 そこでゼルギアは吾輩とともに同行してもらおうと思っている。

 ただ、ここには怪我を負っている重傷者もいる。

 ゼルギアにはそれが気がかりでならないと、今話しておったところだった。

 もし、お前さんがこの村に残り、ゼルギアの代わりに重傷者や軽傷者、他に残る者たちを先導してくれるならばすごく助かるという話だ」


 ……。


 アデルさんに代わってゼルギアが話を続ける。


「俺がこの村を離れれば、この村に残された生存者は皆見捨てられたと思い、疑心暗鬼に駆られることだろう。

 だけど俺が出る代わりに、団長の代理をお前に託してデシデシとともにここに居てくれたらみんなが安心すると思うんだ。

 どうだ? ……やっぱり俺の代理は荷が重すぎるか?」


 ……。


 顎に手を当てて色々悩み少し考えてから、俺は答えを出した。

 自信満々に頷く。


 分かった。俺、二人のことを信じるよ。団長代理は俺が引き受ける。

 絶対俺たちを見捨てないって。だから──


 俺はゼルギアに右手を差し出して言葉を続ける。


 絶対ここに戻ってきてくれよな?


 ゼルギアとアデルさんに安堵の笑みが零れる。

 そしてそれぞれが俺の手を握って約束してくれた。


「わかった。約束しよう」


「吾輩たちは砂塵の騎士を見つけ、そしてその方法を見つけて──

 必ず、再びこの村に戻ることを誓おう」


 すると、どこからともなくデシデシの気弱な声が聞こえてくる。


「団長……」


 振り向けば。

 俺の背後にデシデシがいつの間にか来ていた。

 いや、ちょっと待て。

 俺の頬が盛大に引きつる。


 お前……それ、何持っているんだ?


 びちびちびち、と。

 朝獲れよろしく並みに活きの良いでっかい黒い魚が、デシデシの腕に抱かれて嫌がるように体を動かしていた。

 真顔でデシデシが、さも当然とばかりに答えてくる。


「何って、魚デシ」


 うん、見れば分かる。絶対それ、鮭だろ。どこで仕入れてきたんだ?


「仕入れたんじゃないデシ。宙を泳いでいた獲物デシ。本能の血が騒いだデシ」


 猫か。うーん、いやたしかにお前は猫だけど。


 デシデシが俺にその黒い魚を差し出してくる。


「Kにあげるデシ」


 ごめん。普通に要らない。


 俺はNOとばかりに即座にお断りした。


「慰めてくれたお礼デシ。受け取るデシ」


「受け取ってやれ、K」


「うむ」


 えぇー……。


 二人からもそう言われ、デシデシからも無理やり押し付けられるようにして、俺は嫌々黒い魚を受け取り、腕に抱いた。

 あまりに活きが良く、両腕で強く抱いて捕まえていないとかなり暴れて大変だった。

 俺は微妙な気持ちで顔を引きつらせ、ぴくぴくする笑顔で礼を述べる。


 なんか……その……ありがとう、デシデシ。


 そんなのいいってことよ、と照れくさそうに笑って前足を振るデシデシ。

 そのまま団長へと向き直る。


「団長。話は全部──だいたい後半ぐらいから聞いていたデシ」


 全部じゃないのか、と肩を滑らせるゼルギアとアデルさん。

 デシデシは気丈を張るようにして力強く前足で自信の胸をポンと叩き、鼻息荒く言ってくる。


「団長代理のことはボクとKに任せるデシ。

 Kに出来ないことはボクが手伝うデシ。

 ギルドのことも仲間のこともボクの方が詳しいデシ。

 けど団長みたいなことはボク言えないから、そこはKに任せるデシ。

 だから行ってくるデシ!」


 デシデシのその言葉に、ゼルギアもアデルさんも安堵の笑みを浮かべる。


「じゃぁここは俺の代理として全てを任せたぞ、K、デシデシ」


 俺とデシデシは力強く頷きを返した。




任せろ安心。

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