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Simulated Reality : Breakers【black版】  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部序章 後・下編】 砂塵の騎士団 【下】
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なんなんだ、ここは……?【2】


2014/07/10(改稿)2022/09/14(再改稿)


 あれから……──


 俺はゆっくりと目を覚ました。

 いつの間に意識を失ったのだろうか。

 それすらもよく覚えていない。

 理解できることといえば、なぜか俺は今、古民家の木造ベッドの上で寝ているということだけだった。


 ここは……どこだろう。


 目覚めの遅い脳を働かせ、瞬きながらに呆然と天井を見つめて思考を巡らせる。

 どうやら俺は誰かに助けられたようだ。


 だけど、いったいどうやって?


 体に痛みも無ければ、息苦しさも、疲労感も何もない。

 ただベッドの上で寝ていて、普通に目が覚めた。

 それだけだ。


 ……。


 上半身を静かに起こし、俺はゆっくりと辺りを見回す。


 もしかして現実世界に戻ってこられたのか?


 ──と、そんな淡い期待を胸に抱くも……。

 視界に入るモノはどれもファンタジーゲームで見るような風景であり、異国様式の古い木造の民家だった。

 俺は現状を知って、絶望的に顔を手で覆う。


 やっぱりまだ元の世界には戻れていないんだな……。


 それだけじゃない。

 この家の中をなぜかスイスイと自由に小魚が泳いでいるのが何よりも異世界であることの証拠だ。

 いったい何の摩訶不思議か。

 それともここは夢の中か?

 現実を知ろうと試しに頬をつねってみたが、普通に痛かった。


 ……。


 異世界というモノが、だんだんと俺の理解力を超えてきている。

 この世界では水も無しに魚が宙を泳ぐのか?

 それとも俺が水槽の中に入っているのか?

 いや──

 俺はふるふると首を横に振って己の常識を頭から払った。

 ここはチンパンジーが空を飛ぶ世界だ。

 スライムも居て、魔法も存在して、猫やワニが普通に二足歩行でしゃべっているんだ。

 たとえ魚が宙に浮いていたとしても、別に何も不思議じゃない。


「やっぱり沈むのはボク嫌デシ!!」


 ──うおっ、びっくりした!


 隣で気を失って寝ていたデシデシの存在に、俺が気付いたのはそんな時だった。

 寝言のようなことを叫んで勢いよく身を起こしてきたデシデシに、俺はびくりと身を震わせ驚く。


 ……お前、そこに居たのか? デシデシ。


 話しかけると、すぐさまデシデシが蒼白じみた表情で俺にしがみついて泣きついてくる。


「白騎士の船だろうと何だろうとボクやっぱり乗るデシ!

 二人には悪いデシが、ボク沈むのは嫌デシ! 助かりたいデシ!」


 デシデシ、お前……。


 事の整理がまだ出来ていないのか?

 俺は眉間にシワを寄せて指を当てると、うんざりと溜め息を吐いた。

 そして知らせるようにして、空いたもう片手で周囲を見るようジェスチャーを送る。

 そんな俺の様子を見て気付いたのか、ようやくデシデシが辺りを観察し始めた。


「あれ? K、ここはどこデシか? なんでボクたちはここに居るんデシか?

 他のみんなはどうしたデシか?」


 それが俺にもよく分からないんだ。

 気付いたらここで寝ていた。

 きっとこの家の住人が俺たちを助けてくれたんだと思う。


 俺はそう肩を竦めてお手上げをしつつ答えるしかなかった。

 すると俺のその言葉に怯えるようにして周囲を見回しながら、デシデシが俺にぎゅっとしがみついてくる。

 そして衝撃の一言。


「……K、なんだかここ変デシ。魚が宙に浮かんでいるデシよ? なんか怖いデシ。

 本当にここはどこなんデシか?」


 ……。


 異世界というモノが俺の理解力を超えてきている。

 この世界では魚が空を飛ぶのか?

 それとも俺が水槽の中に入っているのか?

 いや──

 ここはチンパンジーが空を飛ぶ世界だ。

 スライムも居て、魔法も存在して、猫やワニが普通に二足歩行でしゃべっているんだ。

 だから……だから……。


 俺は再び顔を手で覆って絶望した。


 だから──誰か……誰でもいいからこの世界の常識を俺に教えてくれ。



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